八葉天蓋


   黄金樹橘(著)

  

  ミュンヒハウゼン文庫


 

 著者は昭和四十年から六十年にかけて神戸を中心に活動が盛んだった新興宗教団体、『八葉教』の教祖を務めていた人物です。本書が執筆されたのは昭和五十年代のことで、同教団は信者数最大二万人を数え、乗りに乗りきっていた時期でした。

 

 題名の「八葉天蓋」とは宇宙の頂点部分に張り付いているという巨大な葉を指す教団用語です。教義によると、この天蓋を越えた先に神の住まう理想郷が存在するとのこと。この場所へ到達することが、教祖を含めた八葉教構成員達の至上の目的であるとされています。


 八葉教の特異なところは、祈りやお布施を集めることでこの天蓋へ到達するのではなく、あくまで「科学的な設計に則った」宇宙船を設計、建造して到達するべきと主張しているところです。じじつ、教団では信者から徴収した会費を宇宙船の建造に費やしていました。それ以外の使い道は最低限の教団運営費のみで、教祖は極めて質素な日常生活を送っていたと言われています。


 本書は、上に述べた「宇宙の頂点」に到達するための宇宙船の製造法を記した書物です。全九百六十ページ中、じつに六百ページが図版で構成されています。この宇宙船は教祖が霊視したという天蓋の形を模したもので、全長六十メートル、完成すれば約百五十名の信者を理想郷に送り込むことが可能であると試算されていました。


 昭和五十六年から実行に移された建造計画は、昭和六十年二月の完成をもって終了しました。その日は同時に、教団終焉の日でもありました。宇宙船が作動しなかったからです。困惑する信者を前に、教祖は明言しました。「私の霊視に従って製造した宇宙船が動かない以上、私の力は偽りだったことになる。よって、本教団は意義を有しないことが証明された。本日をもって、教団を解散する」と。


 こうして八葉教は消滅しました。当初は非難の嵐に晒された教祖の判断ですが、その後様々な新興宗教が大小の社会問題を引き起こし、各教祖の見苦しい振る舞いが明らかになったため、著者は新興宗教の教祖として極めて誠実な人物だったのでは、と再評価されています。



(このレビューは妄想に基づくものです)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る