ジャンピング・ジャック

 コバ・センドー(漫画)

 ミュンヒハウゼンコミックス


 ジャンピング・ジャックとは英国のスラングで、絞首刑に処された遺体を意味する言葉ですが、本作品ではトランプ・ゲームの一種を指す用語です。

 作品世界の中でジャンピング・ジャック(以下JJ)は十数年前から大流行しており、愛好家は十億人を下らないという設定になっています。


 主人公、タケイリ・ハヤトはJJの元・ワールドチャンピオンでしたが、とある事故をきっかけに一線を退き、現在はスイスの保養地で隠遁生活を送っています。そんな彼の元に手紙が届きます。差出人はJJ賭博の元締め。内容は、各国のマフィアが共催する闇試合に参加してもらいたいというものでした。離れて暮している娘が不治の病に冒されていると知ったハヤトは、治療費を稼ぐため、莫大な掛け金と陰謀が交差する、闇試合の世界に身を投じる――というのが、序盤の粗筋です。


 風変わりなのは、本作の柱であるJJが実在しないゲームであること、しかも作中でもゲームのルールが明確に示されていないという点です。にもかかわらず本作は、様々な背景を抱えたJJプレイヤーたちが己の全てをぶつけ合う名作として、国内外で高く評価されています。

 

 そんな馬鹿な、と思われるかもしれません。読者にルールが明かされていないゲームを描いたところで、面白くなるはずがないだろうと。

 しかし、作者のコバ・センドー氏は著者あとがきで次のように述べているのです。


 私が少年時代に夢中になったコミックは、週刊少年ジャンプの『ヒカルの碁』だった。後で振り返ると奇妙な話だったが、私はあの作品を読み終えたときでさえ、囲碁のルールを欠片も理解していなかった。にも関わらず、ヒカルやトウヤ、サイを初めとする棋士たちの熱い戦いに胸を躍らせたのだ。

 これは一体、どういうことなのか?私はスポーツ・格闘技・ファンタジーを問わず、登場人物が競い合う広義の「バトルもの」の妙は、キャラクターが「対峙」する瞬間の迫力にあると分析している。対峙する二人のバックボーンや情熱といった描写をしっかりと用意して、対決の瞬間に爆発させることができたなら、バトルそのものは重要ではなく、なんなら省略しても構わない。


 大胆ながら、的を得ている部分もある指摘です。

 センドー氏はこの気付きの正しさを証明するために、「存在しないゲームで競う合う」本作を構想したと話しています。


 センドー氏の分析には異論を覚える向きもあるでしょうが、バトル・競技・対決を題材とした作品を手がけるクリエイターであれば、本書は必ず目を通しておくべき傑作と言えるでしょう。








(このレビューは妄想に基づくものです)

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