ふぇちしずむ


 前島副彦(著)


 偽計社文庫


 下着泥棒の自伝です。

 著者は1920年に生まれ、2017年に九十七歳で大往生を遂げましたが、十一歳の初犯から九十五歳になるまで、三十三回も窃盗罪で逮捕されています。言うまでもなく、窃盗品は全て下着です。彼はその生涯において、じつに三十五万三千着もの女性用下着を盗んでいます。なお窃盗罪以外の犯罪で逮捕されたことは一度もありません。

 

 本書には、盗んだ下着の形状、色合いについて作者自身による克明なスケッチが収録されています。その記憶力・筆力は恐るべきもので、昭和初期の服飾文化を専門にしている研究者が、論文の参考とするため面会に訪れたこともあったそうです。

 本書の記述を見る限り、著者は下着の持ち主には興味がなく、下着という衣類そのものに執着を抱いていたようです。実際、罪状の中には高級下着店における万引きが含まれています。


「インターネットの時代になってからは楽しかった。下着屋で好機の目にさらされながら女ものを購入する憂いがなくなったからだ」

「しかしそれでもなお、ふと立ち寄ったコインランドリーや見上げたベランダの洗濯物に見たこともないデザインの下着を発見すると、悪癖を抑えることがどう

してもできなかった」


 記述を信じる限り、彼は性犯罪者というより、度の過ぎた下着コレクターだったというべきでしょうか。

 


(このレビューは妄想に基づくものです)

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