黄金の屍

 シュテファン・セオドール(著)

 息吹弘一(訳)


 ミュンヒハウゼン文庫


 著者はオーストリア在住の反戦を題材にした作風で知られる小説家です。本書は著者の代表作であり、反戦文学の金字塔と評されています。


 小説の舞台は、太平洋の離れ小島。この島は、かって太平洋戦争の激戦地域でした。島には日米を問わず、銃弾で命を落とした若者達の屍がうず高く積み重なっていました。

 数千年の月日が流れ、死体は風化して土に還りました。その上に、草が生い茂ります。現代の植生には存在しない、夜でも黄金色に光り輝く草です。草の周りには、これまた現在は存在しない九十枚の羽根を持った虻が旋回しています。虻が草に触れると、先端から虹色の液体が迸り、近くの石に落ちると、そこからエメラルドグルーンのキノコがにょきにょきと伸びて行きます。

 数万年を経て、キノコは天を衝くような巨樹に似た形状に成長をとげ、その下では進化した虻の子孫が王国を築き上げています。やがて些細な諍いから虻たちは戦争へと走り、多くの死骸を野に晒す結果となります。その死骸の山が風化した後、草が生い茂り……


 というように、本章では、太平洋戦争以降数億年間の生命の移り変わりが淡々と描かれます。世の無常、命の逞しさ、自然の美……それらを取り込むうちに、読者の頭の中に言語化できない感情が積み重なって行きます。「戦争反対」という言葉は一度も飛び出さない、異色の反戦文学です。


(このレビューは妄想に基づくものです)

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