生まれよ、元素


 ミッシュ・タッパー(著)

 冬枝功 (訳)

 ミュンヒハウゼン文庫


 著者は二十世紀初頭にアメリカで名声を博した神秘主義者であり、概念先行論の提唱者。


 概念先行論とは何か?簡単に言ってしまえば、「すべての物質・存在は想像から生み出される」という理念のことだ。

 植物・元素・生命体・天体……この世に存在する全ては意識により導かれ産まれたものだと著者は主張する。ここでいう意識とは人間のそれだけに限った話ではない。宇宙の根源、地球の中心、それらも心を宿しており、人間や物質を「作り出したい」と願ったからこそ、私たちや地球上の生命は誕生した。そういった想像により物事を作り出す力は被創造物である人類や他の生命にも宿っており、とくに空想力が発達している人間は、 思い描くことでそれまでに存在しなかった物質さえ作り出すことができる―というのが、著者の理論なのだ。


 自説の正しさを証明するため、著者は本書の中でこう断言している。「私の意識作用によって、元素を一つ、発生させてみせる」と。

 「ミッシュニウム」というその元素は、融点九百度、沸点二千度、地球上のあらゆる毒性物質を取り込み、危険性を除去する効果を持っているという。


 ただし著者が考案した独自の公式によると、著者のような想像力が発達した超人であっても、想像を現実に反映させるためには一世紀近い年月を要するという。

 空想の力は死後も継続する、今から百年の後、この夢の元素が世に出現することは間違いない、と著者は断言している。


 本書の出版が千九百二十一年。

 著者の見立てが正しければ、あと二・三年でミッシュニウムは生まれるはずだ。



(このレビューは妄想に基づくものです)

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