棚学指南・覚書

 藤原義美(編)

 藤原良知(現代語訳)


(ミュンヒハウゼン文庫)


 室町後期から戦国時代にかけて知識人階級の間で一世を風靡したものの、安土桃山期以降は衰退してしまった『棚学』に関する一級資料。


 『棚学』の『棚」とは字義の通り、物品を収納する棚を指す。

 『棚学』とは、この棚から物を上げ下ろしする際の作法について論ずる学問だ。


 ただ物を棚に置くだけ。あるいは、ただ、物を棚から下ろすだけ。

 それだけの動作にも心構えが必要であり、洗練された所作と明鏡止水の精神を統一させることで、貧富・老若男女を問わず、生活に潤いをもたらすものだという。

 

 この「棚への上げ下ろし」の心構えに関する説明が、本書では延々と説明されている。現代文に変換すると、厚めの文庫本十冊分にも及ぶ膨大なテキスト量を、ただただ「棚へ物を載せる・下ろす」だけの説明に費やしているのだ。ちなみに棚に乗せる物品の種類、棚の構造、材質に関する説明は一切含まれていない。信じられないことに、本当に「棚へ物を乗せる、下ろす」だけの解説を延々と書き連ねているのだ!


 ……室町~戦国時代の人々は一体何を考えていたのだろうか。

 編者の藤原義美は江戸時代中期の人物で、すでに廃れていたこの学問に興味を惹かれ、散逸していた資料の収集に情熱を注いだ碩学だった。

 しかし義美自身も、「今は廃れた風変わりな流行に興味を覚えて書を集めたものの、この学問の愉しさ、異議は理解できなかった」と正直に告白している。

 一般に人間の感性は時代が変わってもある程度は変化しないものと信じられている。

 そうでなかったら、古代の美術や文学作品に触れて感動を覚えたりはしないはずだからだ。


 しかしそれはあくまで「ある程度」であって、時代を経るにつれて理解の範疇外に去ってしまう趣味・嗜好・思想といったものも存在するのかもしれない。

 そういった疑いを我々に抱かせる一冊だ。

 


(このレビューはすべて妄想に基づいたものです)

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