第五十九話 運営に捧げる「ドラゴンとスライム」

「そのスライムは〜、王様がドラゴンの餌にしようと敷地内に放ったのですが〜、ドラゴンはなぜかスライムを食べようとしなかったのですよ〜」


 まるでスピカは、詐欺師の演説みたいに女神像に向けてぺらぺらと喋っている。

 俺とルナはジト目のままそこを見やり、こそこそと話した。


「何やら込み入った世界観だな……」

「おとぎ話?」

「魔物は気まぐれっ、スライムを食べないことに理由なんてドラゴンにはなかったのかもしれませんね〜。と・こ・ろ・がっ! このスライムというのがユニークなやつでして〜、なんとドラゴンに構ってもらいたいのか、ぴょこぴょこと彼の周りをジャンプし始めたのですよ〜、毎日のようにっ」

「ずびぃ〜!」


 横から鼻をすする音が聞こえたので、びっくりして見たらルナが泣いていた。


「オイ、なぜ泣いとるのだ」

「だって、これ絶対泣くやつじゃんっ。スライム死んじゃうじゃんっ」

「えぇ……、そうなのか?」

「このスライム、しまいにはドラゴンの背中にぴょこんと乗ったりして〜、なのにドラゴンは怒りもしないで、次第に王様も二匹が仲良くしてる光景にときめいてきちゃって〜」

「終わって、このまま終わって!」


 なむなむするルナである。野次馬たちも固唾を飲んでスピカのスピーチに聞き入っている。なんだか俺も気になってきちまったじゃんか。わけわからんぞ。


「そんなある日————あれは嵐の夜でした」


 急にスピカのおでこから目にかけて黒い影が入って、鈴の鳴る声がどす黒くなった。

 ルナが「ぎゃっ」と声をあげる。それみたことか!


「ごろごろっ! ごろごろっ! 雷がひどかった。それなのにスライムはおどけて木の上によじ登っていく。……彼が、、嵐の去った次の日でした」

「ほらぁ、やっぱりぃ!」


 ルナが目を怒らせてスピカを指差したが、俺はその口を塞いだ。


「まだ話の途中だ」

「むぐぐっ」

「ドラゴンはそしらぬ顔でした。きっと彼はスライムのことなんてどうとも思ってなかったのでしょう。なので、試しに王様は二匹目のスライムを敷地内に放ってみました。けれども、ドラゴンはやはりそしらぬ顔で、食べようともしないし、いじめようともしない。王様はがっくりしました。やはり、ドラゴンとスライムの間には絆なんて存在しなかったのだ」

「「「「そんなことないっ!!!」」」」

「わっ」「うぉ、びびった」


 物語に感情移入しちまったルナスピ親衛隊どもが、感極まっていきなり吠えた。こえーよバカやろう。

 スピカのお話はエンディングに入る。


「王様は、今日もお城の窓からぼんやりとドラゴンを見ていました。おや? すると、ぷにぷに、スライムが木の上に登っていくではありませんか。あの日、あの嵐の夜も、スライムはこうしておどけて木に登り、そうして雷に打たれて死んでしまった。まあ、ドラゴンは知ったことではないか……王様はため息をつきました。——その次の時でした」


 俺、ルナ、そしてルナスピ親衛隊にとって、それは衝撃の真実なのだった。


「ぱくっ。木にねぱねぱしていたスライムを、ドラゴンは食べてしまったのです」

「そ、そんな……!」と俺。

「うそっ」とルナ。


 二人してショックのあまり白髪になって凍りついてしまった。もちろんイメージである。ルナスピ親衛隊たちも全員そろって愕然とする。

 スピカは最後の一文をそえた。


「——そうして、ドラゴンはそっと、草原にお口を当てました。そこから、スライムがぷにぷに出てくるではありませんかっ。ちゃんと生きていました。——きっと、ドラゴンも覚えていたのでしょう。あの嵐の夜の出来事を。だからっ、だから……木に登っていたこのスライムが同じ目にあわないように、そっと、そっと、食べてしまわないようにっ、地上に下ろしてあげたっ……!」


 歌うように、胸に手を添えて、神に祈るみたいにして、体をくねらせて告げたスピカのあとに、俺らの絶叫が歓声となって鳴り響いた。


「「「「ドラゴンンンンンんんんんんんっ!」」」」

「いかがでしょ運営さまっ☆」


 直後、スピカは10連七玉をジャララランと女神像に捧げる!


  to be continued...

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ふたごおんらいん りんご屋さん @naconaco

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