第三十八話 よわよわ白達磨の隠れ家
「氷晶達磨様といえば、白たちよりめちゃめちゃお強い神様みたいなモンスター!」
「そんなお方が、こんなよわよわな白たちの隠れ家にわざわざ来てくださるとは!」
「これは歓迎しなければ! 今からお歌を歌います!」
悪い雪だるまのお顔の白達磨たちは、目を瞑ってカラフルな音符を飛ばして、賛美歌みたいなお歌を奏でた。
「ちょちょちょ、かわいい〜!」
氷晶達磨ならぬルナだるまはほっぺを赤くして大喜びした。しかし、ミスを犯せば一発でゲームオーバーの危険な状況だ。ふたおらはゲームオーバー時のデメリットはほぼないが、このイベントは次の時も見られるかわからない。
《mission!! よわよわ白達磨の運命》
なんだなんだ! スゲー危険なタイトルだぞ!
「氷晶達磨様! どうしてこの隠れ家に来てくださったのですか!」
一匹の白達磨からの問いにルナはちょっとむっとした。
「ひょうしょーだるまじゃない! ルナ!」
「ルナ? ルナ様という名前なのですか?」
「ちょっとお姉様! よく考えて答えてください!」
「なんだお前はうるさい黙れ!」
一匹の白達磨がスピカのお尻にビビビと寒風を吹かせる。
「ちべたい!」
スピカは細いお尻を押さえて飛び上がった。
けれども、これで流石にルナも状況を把握したようだ。ジト目でごくっと喉を鳴らす。
「そ、そうだとも! ぼくは氷晶達磨のルナっていうんだ!」
「すごい! ただでさえ氷晶達磨様はすごいっていうのに名前まであるぞ!」
「このお方は氷晶達磨の中でもすんごいモンスターなのでは?」
「「「ばんざーいばんざーい!」」」
ルナはキュ〜ンとしたお顔で「うぉおおお!」とテンションを高めた。
「にぃに、この子たちかわいい!」
そこにぴくんと一匹が反応する。
「にぃに? この人間がにぃになのですか?」
《白達磨の好感度 48%》
おいおいなんか出てきたぞ!
「発言を慎重にルナさま!」
あえてお姉様といわずにルナ様と呼び、スピカが小声で叫ぶ。
「あうん。こいつらはぼくの下僕だ!」
「おお、下僕だったのですね?」
「双子のお兄ちゃんといえば、僕らモンスターが最も憎むべき相手ですものね?」
「「「びっくりした〜」」」
「声合わせるの好きすぎる〜っ」
すぐにルナが歓喜の雄叫びを上げた。緊張してんのか癒されてんのかどっちだ!
「ルナ様、先ほどの質問に戻ります。どうして僕らの隠れ家に来てくださったのですか?」
「うんとね? 雪だるまを作ってたら偶然ついた先がここだったの!」
「「「「えぇええええ〜!」」」」
ルナのやつめ、バカ正直に答えやがった!
どうなるか見守っていたら、白達磨たちは雄叫びを重ねた。
「これはすごい! 僕らはルナ様に作られたのだ!」
「ルナ様はママだったのだ!」
「「「ママ〜〜〜!」」」
「あん! にぃに、子供できちゃったよう」
なんか語弊を生みそうな言葉だが、案の定、スピカが反応してぐぬぬと唸った。しかし下手なことはいえない。だって、白達磨たちから総攻撃されて終わる。
《白達磨の好感度 76%》
パーセンテージ、一気に上がったぞ!
「ルナ様、ここに来てくださったことに感謝します!」
「では、この人間どもは生贄ですね? みんなで食べましょう!」
「「「いただきまあ〜〜〜す!」」」
「「わわわっ」」
下僕という設定なのにいきなり生贄にされてしまった。近づいてくる白達磨たちに俺とスピカは抱き合って縮み上がった。
むろん、ルナが怒った。
「待ちなさい! その人たちは食べちゃダメ!」
白達磨たちはきょとんとした。
「え、どうして?」
「見たところ、こいつらは兄妹!」
「「「生かしてはおけない!」」」
これにルナが絶叫した。
「大切な人たちなの!」
白達磨たちの顔がくわっと恐くなった。
「「「「人間の味方をするのか!」」」」
俺、スピカ、ルナはひぃいいいとなった。
《白達磨の好感度 1%》
しかもパーセンテージが最低値だ。
俺たち三人の視界に問いが投げかけられた。
《白達磨たちを全滅させますか?》
なんだこの物騒な問いは? ああ、こいつらはよわよわ白達磨だった。全滅はそう難しくないのだろう。
しかし、あんなにかわいかった白達磨たちを殺しちゃうなんて!
俺らは三人で《→いいえ》と答えた。
ま、俺らはやられてもマイホームに戻るだけである。別にこいつらを全滅させる必要なんてないのだ。
しばしの沈黙が流れた。
やがて、怖い顔のまま白達磨たちが喋った。
「戦わないのか」
「悪い人間たちじゃなかった」
「ルナ様、これどうぞ」
白達磨の一匹から、ルナは白く美しい衣装をもらった。まるでお姫様のウェディングドレスの露出度を高くしたようなデザインだ。
《白達磨ドレス[絆]を手に入れた》
「一着だから、喧嘩しないでね」
「ルナ様たちにならあげてもいいや。いい子たちだからね」
「君たちになら選択できる筈だよ。このドレスが似合う子を」
そしたら吹雪に見舞われた。
気づいた時には、白達磨たちの影はなくて、俺らは地上の雪面で横たわっていた。俺らの視界には《missionに成功した! よわよわ白達磨の運命》のコンプリート報告が浮遊していた。
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