第三十話 レベルアップの兄妹


 ぽよ、ぽよ、ぬちゃ。ホワイトスライムは跳ねたり液状になったりして雪上を動いていた。

 俺、スピカ、ルナは少し離れた位置からそこを見てひそひそ声で話した。ちなみになぜひそひそ声なのか、それはストーカー集団に録音されないためである。

 見ろ、耳をダンボにしてやがる。シーーーンと不気味なくらい静かだ。


「にぃに。ホワスラいたよ。誰が倒す?」

「俺かスピカだろ。レベル3にしたい」

「じゃ、二人で一緒にGO♡」

「えぇ〜!」


 もちろん、スピカの提案に怒ったのはルナだ。


「なにそれ、ずるいじゃん!」

「ずるくないでーす。にぃにとわたしはこれからボスに立ち向かうためにレベルUPしないとダメなのです。お姉様は今のところ強いので黙って見ててください」

「ぼくは強くない! スピカの方が強い!」

「ざーんねん。わたし、か弱い女の子ですので〜。にぃに、助けて?」


 うるうるの星々のちらつく涙目で見つめられて、俺は苦笑する。

 その時、パシュ! と音が鳴ったかと思ったら、雪面から一点の煙が上がって、ホワイトスライムが半透明の天使になって空中で揺れていた。


「あぁ、倒しちまった」


 俺はぼやく。今のバトルに俺は加わっていない。だから、たぶん経験値も得られない。

 次のシーンだ。スピカの銀の天使の輪にレベルアップのレインボーの光彩が走った。賑やかなBGMが鳴ったのちカクカクした文字が浮いた。


「わぁ!」


 スピカはお口におててを当ててびっくりしたポーズを取った。


《スピカのレベルが上がった! Level2→3 Status Point +1》


 続けて、張りのあるロリ巨乳でスピカは俺のお腹に飛びつく。


「やったあ、にぃに!」

「おうよ」


 いつもみたいに軽くスピカの頭をなでて応じた。

 そしたら、ルナがぴょんと後ろから俺の首に抱きついた。


「わーい、にぃに〜っ」


 あと、レベルを3にしなければならないのは俺だけだ。

 かわいい義妹の双子ちゃん二人に前後からくにくにむにむにエールを送られた。


「にぃに、ファイトです!」

「にぃに、がんばえー!」

「おーし、見とけ。にいちゃんがんばるから」


 よって、俺は曖昧に笑い答えた。


 けれども、そこからが長かった。

 ホワイトスライムは雪山にたくさんいた。

 俺は何匹も何匹も倒しまくった。

 その内、日が暮れて夜になった。


 ドッシャーン! 俺が雪原に両手を突いて絶望した。


「おいぃいいい! なぜレベルを上げんのだクソ運営がぁあああああああああッ!」

「に、にぃに落ち着いて!」

「そんなこといったらますます意地悪されちゃいますよ!」


 ガスガス雪面を叩く俺をスピカとルナが慰めてくれた。明らかに運営にいじめられてんぞ俺! なんでスピカはルナとお喋りしただけでレベルがUPしたのに俺は百匹近くホワスラ倒してんのにレベルが上がらんのだ!


 野次馬たちはくすくす笑みながらそんな俺を撮影している。なぜ、ゲーむでこんな惨めな思いをしなきゃならない! やめだやめ!


「にぃに、回復ポーションを飲んでください。HPが残り少ないです!」


《にぃに HP 4/10》なのである。ホワスラでも連戦したらこんなになってしまう。

 ちなみに回復ポーションとは、猫飯NYAのウエイトレスからもらったやつだ。


「でも、回復ポーションって10回復って説明にあるから、もったいないね? ……そだっ!」


 ルナは自分の回復ポーションを開けて、なんとこくこく飲み始めた。


「へえ? こんな味なんだ? はい、にぃに!」


 そして、にっこり飲みかけの回復ポーションを俺に渡した。


「あ、あんがと」


 嗚呼、優しい義妹だけが俺の唯一の救いだ。しかし、関節キスと思ったのか、スピカがぷくーとほっぺを膨らませた。ガビーん! 外野の連中は目を飛び出させて驚く。仕方ないだろ、ルナの気持ちを無駄にするわけにはいかない。

 俺はルナの飲みかけ回復ポーションを飲む。ごくごく。


《にぃにのレベルが上がった! Level2→3 Status Point +1》


「なんでじゃい!」


 俺は新喜劇よろしく足をVにしてずっこけた。義妹の双子ちゃんはギョッとする。

 いやどんな効能だ! HPじゃなくてレベルが上がったぞ!


 要するにこれはあれか。俺という男にに運営が感情移入したのか! 運営め、なかなか悪どいイメージが板についてきたぞ! スピカなんて完全に呆れた目してんぞ!

 この結果をルナは計算してたのかしてないのかわからないが、俺に向けて横ピースしてにっと笑ってくれた。


  to be contined...

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