第十八話 猫飯NYAの撮影会
猫飯NYAへ到着したら、猫耳ウェイトレスがしゅたたたたっと走ってきた。
午前中の店内は、青い光が窓から入っており夜とちがって清々しい。やはり兄×妹双子のスリーマンセルで店内は混み合っており、ざわざわと喧騒が混在していた。
「もぅ、いつまで時間かかってるのですか! なーんて、ちゃんとスノウラビットのお肉は持ってきてくれた?」
ふりふりの白いスカートの腰に手を当て、ぷくと片頬を膨らませる演技がうますぎて、もはや演技のようにしか見えない謎である。黄色のふりふりメイド服の彼女に《→はい》の選択肢で応じる。
妹スピカはにこやかに、アイテムポーチに所持していた《スノラビのお肉》を半透明のキューブ状にして手に掴み、猫耳メイドに渡した。
「はい、これがお願いされたアイテムです!」
「わ〜! よし、これで五人分くらいはメニューが作れるわ? あとはこっちでなんとかするから、ほんとに助かった! ありがとう!」
スカートの前で両手を重ねて、ぴょんぴょんの髪の毛を揺らし、にへっと笑う猫耳ウェイトレスである。
ところで、俺はスピカに訊ねた。
「このゲームにスナップ機能ってあるの?」
「……撮ってどうするんです?」
銀の前髪の目が暗い。病んだ目でこちらを上目に睨むスピカである。
俺が冷や汗を垂らしているとスピカはにんまり笑った。
「わたしは教えません。自分で調べて下さい」
いや、目元が笑ってない。やはり不味かった。スピカは、俺がテレビのアナウンサーを褒めたりすると必ず機嫌が悪くなる。この子にお兄ちゃん離れは可能かと強く思った。
「あの、もしかして最近ここに引っ越してきました?」
猫耳ウェイトレスは鉛筆で書いた灰色の目で俺らを見て質問する。
《→はい。遠い遠いところから》の選択肢を選び、スピカが答える。
「はるか彼方、こことはちがう世界からやってきました!」
「へえ、おもしろいことをいいますね?」
くすっ、とマジで声が出そうな笑みをこぼす猫耳ウェイトレス。
俺、スピカ、ルナはお顔を見合わせてニヤとする。冗談と受け取られたらしい。
次に《自分らは仲良しファミリー》の回答が選択された。恐らく《家族》と職業を設定したからこれが出たのか。
「わたしたちはとっても仲良し家族です! ね?」
スピカは俺とルナの手を握って、自分の方に引っぱりJCのかわいい笑みを見せる。
猫耳ウェイトレスの奥の店内でパシャシャシャ! ドッガンガシャシャーン! と連続シャッター音と皿が割れて椅子がひっくり返る快音が聞こえたが、お布団のことを考えて心の安寧を保つ。あるやないかスナップ機能。
「あぁ、そういうのってとてもすばらしい! わたしにも故郷の家族がいましてね? このスノウタウンで暮らし始めた頃はとってもさみしかったのですよう」
猫耳をぺたっとさせて、うるうるの涙目をでこちらを見る彼女である。
まじでどうやってみんな写真撮影してるのだ。意識してウィンドウを表示してあちこちの設定を試すが見つからない。
げし! スピカに足の甲を踏まれた。痛くないがなぜか俺よりも店の奥の変態どもが悶絶して非常に摩訶不思議だ。
「ちょっと待っていてくださいね? ……これ!」
猫耳ウェイトレスはポケットをがさごさする動作を見せた。
出て来たのは回復ポーション×5である。なぜ、こんなものがポケットの中に入っていたかは不明だが、時間を省略できるし、ゲームではこういったモーションは特に珍しいことではないため、特に疑問に思わない。
《回復ポーション×5をゲットした》
「あと、そこのお兄ちゃん」
猫耳ウェイトレスは俺の目をまっすぐ見て勝気に笑った。
「こんなかわいい双子ちゃんがいるなら、強くならないとダメです。なので、よかったらこの町の武具屋に向かった方がよろしいかと。あの人に認められたら、きっと双子ちゃんを守る力も手に入るはずです!」
確かに、スピカとルナに守られてばかりでは少し情けない。
《→はい》の選択肢を迷わずに選ぶ。
グリムニルにタイマンで敗北した時、やはり悔しかった。ゲームをやるなら向上心は持っていきたい。
「守ってくださいね? にぃに!」
ギュっ! 俺の腰にスピカが抱きつく。再び記者会見のようにシャッター音が連続して店の奥から鳴り響き、ノーコメント。
「にぃに……」
今度はルナから見つめられた。
ポカンと彼女の顔を見ていたら、両手の親指と人差し指でファインダーを形作り、右目に当てる。
パシャ! と音が鳴って、ルナは金髪ツインテの尾をほっぺたに当てて、照れ笑いした。
どうやら俺と同じようで、さっきからカメラ機能を探していたらしい。こういうところ、たぶん中学の男子は大変かといろいろな意味で。すると、どだだっ! 店内の奥で何人かが鼻血のモーションで床にぶっ倒れた。お前らもかい。
ゲームはまだまだ進行するようである。今度は《武具屋『勝』へ行く!》の矢印が床に浮いた。
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