〜 三日目 〜 午前

第十七話 偶然の邂逅と報復実行


 翌日は土曜だったので、早朝からふたごおんらいんをプレイした。

 朝っぱらから、もちろん双子の姉妹は元気であり、昨夜ログアウトしたマシロタウンの出入り口で俺の腕を左右から引っ張って猛烈な勢いで喋りまくる。


「にぃに、今日は一日いっぱいプレイできますね! やったーばんざい!」

「にぃにと一日中遊べるなんて土曜ってどうしてこんなに素敵なの! ぼく、にぃにの義妹で本当に良かった!」


 両者から体をぶらぶら揺すられてぼんやり青空を見る。そういえば、夜以外にこのゲームをプレイするのは初めてだ。青空の表現がリアルのものと異なり、潤いがあった。最近ではこういうリキッドな演出が流行りなのかな〜とぼんやり思った。


 そんな俺ら三人を遠くからちらちら、お兄ちゃんと妹の双子ちゃんが仏でも拝むように見てくる。やはり朝から常識の通じない異質の黒い感情が彼らの中に存在していた。俺もここの空気に呑まれないよう気をつけないと。


 地面には《猫飯NYAへGO ! !》と指示の矢印が浮いており、これは俺らにしか見えないストーリー上のものだ。そういえば《スノラビのお肉》を届けることになっていた。一日中ほったらかしにされたあの店はどんな反応を見せるのか。

 休みだけあり、朝から満員御礼のマシロタウンの店と店の間をスピカとルナと歩く。


 あっ、スピカが面白い事でも思い出したのか、俺を見てぴかぴかの目で口を開いた。


「そういえば、わたし調べてみました。そしたら、すごーーーい! ことがわかりました!」

「?」

「グリムニルさんですよ、グリムニルさん!」


 ああ、昨日PvPしたやたら強い男のことだ。

『HP1』『物理攻撃しない』『移動しない』のハンデつきで俺らに勝利してみせた。確かに一般プレイヤーではなかった気がする。


「プレイヤーランキング・10位」

「は?」

「10位ですよ! プレイ人口、全世界で三千万人を超すふたごおんらいん中10位!」

「……相当な化け物じゃないか」

「そうです! 怪物中の怪物とわたしらは戦いました! しかも、チームメイトの一人【血壁けっぺきのアザレア】を倒したのです!」

「血壁とは?」

「二つ名ですよ二つ名〜! にぃにわかってないな〜!」


 なるほど超有名プレイヤーだったらしい。このハンデで負けて当然だ。

 例のごとく、姉ルナは楽しげに金髪ツインテをふりふりして、俺と右手を繋いで隣を歩いている。鼻歌なんて歌いご機嫌の様子だ。


 しかし、ひそひそ声がすごい。

 昨夜のグリムニルとのPvPの噂を聞きつけてマシロタウンに訪れたプレイヤーが多いのか「あれがアザレア様を倒した初心者チームか」「条件付きだがグリムニルとの一騎打ちに持ち込んだらしいぞ」「しかもHP1でのぎりぎりの戦いだったらしい」「一体どんな条件をつけたのか……!」と畏怖の声がちらほら聞こえる。ちなみにHP1が条件である。


 その時、目の前に三つの影が見えた。

 海賊の帽子を被った黒眼帯の男とチャイナ服ふうの紅衣装の美女双子は見覚えがある。こちらにまだ気づいていない。


 俺は大股で歩いて、意識でウィンドウを表示して目線でPvPを挑む。

 視界に《PvPを挑まれました》のメッセージウィンドウが表示されたのか、おにぃはハッとして歩み来る俺を見つけて、咄嗟に《→はい》を選んでしまう。


 間髪入れずに俺はグーを彼の顔面にぶち込む。


「誰がヒキニートだこのやろう!」


 この男のせいで、スピカとルナは金銀の天使で聞こえがよいが、俺なんてヒキニートで最悪の誤解を大量のプレイヤーに受けてしまった。辱めである。これは報復だ。

 周囲が血気盛んな俺を見てギョッとする。これがグリムニルチームに一矢報いた男の闘争本能かなるほどなの仰天の表情だ。


「うわ、ちょ、やめ! 〇×※◆」


 一瞬でボコボコにしてやり《WIN!!》をもぎ取り、俺はむかむかと退散する。


「にぃに、案外、怒ってました」

「……ぼくいい子にする」


 二人は俺の後ろで苦笑した。他のプレイヤーらは三人の前に道を作る。また誤解されてしまった気がしたが、どうでもよろしい。

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