第十六話 限界突破の予感


 ルナが邪竜の黒剣を両手に握った瞬間、雪山の観戦者らが騒然とした。


「あれはまさか……!」

「神殿のガチャで奇跡が起きたって本当だったのか!」

「終焉か。使い手としての器はあるのか」


 皆の反応を横目に俺とルナも少々ビビる。神殿のガチャでこの剣を運営に願ったプレイヤーの本気ぶりは凄まじいものだったが、どうやらこのSSR武器、相当な代物らしい。

 自チームの妹スピカと敵チームの姉アザレアが体育座りで見守る中、グリムニルとネモフィラが交わした会話がこれだ。


「にーさま、あれ……」

「ほう、おもしろい」


 グリムニルがニヤと挑戦めいた笑みを浮かべる。

 敵の妹ネモフィラがツンの態度で声を発した。


「グリムギィルドラゴソード……今、フェスでピックアップ中の終焉シリーズのSSR武器ね。いくらつぎ込んだの?」


 この問いに不思議そうに首を傾げて、ルナが答える。


「ガチャのチュートリアルでアイテム屋の店主からもらった、七玉? でゲットしたわ」

「じゃ、認められたって訳ね。最悪」


 暗くネモフィラは両手を広げて、女王のように笑む。

 その背後、山脈の真上に満月が浮く。


「使いこなせるかしら?」


 厨二感。

 俺とスピカが、おぉ……といすくむ中、退場したアザレアがぷぷと吹いた。いかにも嘲笑する感じだ。


「ネモっちかっこつけてる……」

「黙れねーさま! ママにそろばん塾サボったこといいつけるぞ!」

「ひいぃいぃいぃい!」


 この子、そろばん習ってるのか……なんかいろいろとユニークな人生を歩んでらっしゃるようで、その、興味深い。となりでスピカが怪訝な目をしている。

 俺は重そうに剣を雪に沈めるルナを心配した。


「戦えそうか?」

「ん、にぃに」


 久しぶりにルナのやる気が出た顔を見た。


「さっき、スピカも助けてくれたし、ぼくもがんばる!」


 ぐるん! 大剣を夜天の頂きに向けた。

 敵チームの両者は、手の向きと足の開きを調整して身構える。


「来る?」

「面白い!」


 グリムニルとネモフィラがファイティングポーズを取る、雪原のステージの中央で——重さに耐えきれずルナはひっくり返った。


「わわわわっ!」


 背後に黒剣の切っ先が突き立って、真後ろの敗北者のスピカとアザレアの方角に超衝撃波がぶっ放たれた。


「「にぃにゃあぁあぁあああ!」」


 瞬間。二人そろって闇の渦に消失した。


「あ、ごめん」


 片手を口に当ててポカンとするルナでる。両者は既にこのバトルには関われない身なので腰を抜かしてダメージのない恐怖にお顔を青ざめさせていた。


「はぁはぁはぁ……!」

「ひぃひぃひぃ……!」

「この剣、重たくて〜!」


 再度、振りかぶろうとするルナに二人は大声で騒ぎ立てる。


「こここ、こっちに向けないでください!」

「一応、一応ね! ステージの中にいるから! わたしたち、攻撃こわいから!」

「むぅ、わかって……わわわわっ!」

「「にぃにゃあぁあぁあぁあ!」」


 チュドーン! チュドーンとステージのあちこちが爆破されて、敗北したスピカとアザレアは戦慄してパニックになり、逃亡劇を繰り広げる。もうバトルに干渉できないから、双子力で身を守ることもできず、しかも半透明のステージの結界内にいるから、ひたすら音と衝撃の恐怖に逃げ惑う。

 俺も超ビビリつつ、仲間からの攻撃はダメージ判定がないことを理解して、どうにか現状を理解しようと試みる。


 真正面のグリムニルとネモフィラもたじたじだ。


「にーさま! どうしよ、すごい!」

「とりあえずバリアで身を守るか!」

「ねーさまと違ってあまり得意じゃない!」


 ぎゅう! ネモフィラが兄のグリムニルにぽわっとブルーハートのエフェクトで抱きつくと、青白い半透明のフィールドが構築されて、グリムギィルドラゴソードの超衝撃波からの防御壁になった。しかし、黒々としたエネルギーの威力が半端なく、ドアガ! ビジジィ! すぐに亀裂が入った。


 その間もルナの攻撃しようとする努力が裏目に出る形の被害が増幅していき、あっちの雪面もそっちの雪面も温泉のように吹き上がる。スピカとアザレアは白黒アニメみたいにコミカルにパニクる。


 青いバリアの中で、突然グリムニルが「わっはっはっは!」と大笑した。


「どうする、このままではジリ貧だ!」

「ちょっとヒキニート! SSR使うなんて卑怯よ!」


 ネモフィラが苦し紛れに怒る。

 確かに……よし。

 今度はこちらが譲歩した。


「動いて攻撃していいぞ、グリムニルさん」

「ナニ、いいのか!」

「うん」

「なんか上司面でイラッ」

「——ぅわっはっはっはっは!」


 妹のネモフィラがイラついたのに、俺の挑発にこの男は大笑した。

 俺も徐々にテンションが高まった。

 ゲームが楽しいのは久しぶりだ。


「我は敵の大将を討つ!」

「エ! このバカみたいな嵐の中で!」


 ネモフィラが仰天したが、バスケットボールでも掴むように大きくグリムニルは妹の頭をぐりぐりなでる。案外、的を射た結論を出した。


「あの金髪の娘は自分の攻撃を扱い切れていない。ネモフィラよ、任せたぞ。自分の身を守るか、それとも金の天使を仕留めてしまうか」

「……お互い健闘を祈りましょ!」

「だなぁ!」


 青髪のネモフィラのバリアが砕けた。

 クリスタルの結晶がステンドグラスのように砕けて、——直後にグリムニルがこちらに突っ込む!


 しかし、狙いすましたように彼の付近に超衝撃波が直撃した。

 漆黒の斬撃で雪の膨れ上がる激しい攻撃の中、一切減速することなく突っ切り、敵のお兄ちゃんは俺の目の前まで迫る。


 眼前で、にぃとグリムニルの白い目が笑った。


「にぃによ、待たせた!」


 顎下を狙うアッパーだ。

 すばやく一歩、後ろに引いて回避する。

 追い打ちをかけるように回し蹴りを放たれた。

 右腕を盾にガード。

 左拳をグリムニルの顔面に放つ!


「!」


 一瞬にして姿勢を低くして躱したグリムニル。

 ほほぅ、とにやけた。


があるのか?」

「喧嘩上等」


 間髪入れず——膝をグリムニルの顔面にぶち込む。

 ——が、グリムニルはバク転で躱した。


「ゲームで喧嘩か、覚えがある!」


 グリムニルの目が白い光を放った。


「しかし、でどこまで通用する!」


 瞬間時。

 エメラルドグリーンの光彩の蝶々が大自然の芽吹きを放った。


 ——美しい。

 純粋に——!


 もはや、人間の動きじゃなかった。


 基本的にVRでの身体性能は現実リアルよりも高く設定してあることが多い。


 じゃなけりゃあまり売れないからだ。


 現実と全く同じ自分の体の機能ではつまらない。


 やるなら、壁を忍者のように走りたい。

 100mの崖から落ちて着地したい。

 大空を自由に飛び回りたい。


 そして、このグリムニルは、ふたごおんらいんがどこまで人間の性能を引き上げているか熟知していた。


 まず、顔面に敵の足の甲が決まった。

 後頭部が雪面に沈んだ瞬間、ズシ! 膝の追撃が顔面に入った。

 直後、両手首を掴まれて、空中を一回転——ゴボン! 全身を雪上にぶち込まれた。


 にっかりしてグリムニルが立った時、俺のHPは——。


《にぃに HP0/10》


 決勝ステージが崩壊、半透明の結界が消失した。


「動けるようにしなければ……と後悔しているか?」


 凄まじい声援を全身に受けて、グリムニルは両手を広げて大笑した。

 勝利の紙吹雪が七色の天から降りしきる。

 双子の実妹、ネモフィラとアザレアが彼に抱きついて大はしゃぎする。

 俺は雪に埋もれたまま、涙目でこちらを見下ろす双子の妹、スピカ、ルナに心配されていた。

 自分で思っていたよりも、敗北の爽快感に心がスカッとした。


  to be continued...

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