第十五話 お餅VSお餅の頂上決戦


 雪山の夜。沢山のお兄ちゃんとその妹の双子ちゃんに観戦される中、グリムニル、ネモフィラ、アザレアVSにぃに、スピカ、ルナのPvPが始まった。

 グリムニルは、平民の服で腕組みのまま、白い歯を剥いて煽る。


「さて、どこからでもかかってこい!」


 敵チームへのハンデは『HP1』『移動しない』『物理攻撃しない』である。要するに双子力による特殊技でしかダメージを与えられない。

 初日でおにぃ、レディピーチ、レディチェリーを倒した時の巨大隕石の類の攻撃である。


「にぃに、どうしましょ?」


 スピカはふたごおんらいんについて、実況動画を見てそれなりに詳しいが、実際にプレイしたのは昨日が初めてのため、プレイのコツはまだ掴んでいない。

 双子力の判定には、運営を喜ばせる必要がある。これがまたよくわからなくて、もしかしたら喧嘩するスピカとルナを見て心象は悪いかもしれない。当然である。こんな小さい女の子の喧嘩を見て楽しいはずがない。


 


 となりのルナはやっぱりしょんぼりして喧嘩のショックが抜けきらないらしい。テンション低めだ。


「お姉さま、ガチャの時みたいに運営が喜びそうなこといえます?」

「え?」


 妹スピカの言葉に、ルナは不安そうにする。


「そんなのできないよ!」

「ほら、運営さん、だいすき♡ って」

「えぇ! むり、恥ずかしくていえない!」


 おや、二人の金銀の髪から白黒の蝶々がきらきら溢れ始めた。


「スピカがいえばいいじゃん!」

「え、いやです! わたしはにぃにしか愛の言葉は喋りませーん」


 バトル中だというのにスピカは俺の首にギュっと抱きつく。むにっ、おっきいおぱいが形を変えた。


「そんなのずるい! だったらぼくだって、嫌! にぃに、だっこ!」


 両手を広げて、俺の顔を怒ったようにプクと見るルナである。

 直後、グリムニルとネモフィラ、アザレアの立つ雪面に微かな竜巻が生まれて——!


 瞬間時、神龍の怒りのように氷の大爆裂を起こす!


「「「「おぉおおぉおおぉおおおッ!」」」」


 観客の雄叫びが夜天の雪山こだました。我が妹ながら末恐ろしい双子ちゃんである。無意識で運営のツボを押さえてくる。


「やったか!」


 などと主人公がいう時はたいていやっていない。


 案の定、竜巻の中から三人の喧騒の声が聞こえた。

 氷の爆裂が辺りにぶっ飛び、雪面に突き立つ。決勝ステージのため観客にダメージはない。雪の粉がふわっと広がり、晴れた先にいたのは妹ネモフィラの背に隠れた姉アザレアだった。


「こわいこわいこわい! 死んだ死んだ死んだ死んだ!」

「ねーさま! 今すぐ私から離れて! バトル中!」


 ネモフィラは同じ民族衣装のアザレアの肩を掴み引っ張るが、赤ロングの髪の毛をぐるぐるネモフィラの腕や首に絡めてアザレアは離れようとしない。


「ちょ、動けない、ねーさま!」

「バトル中は動いちゃダメでしょ! いいじゃない!」

「でもぉ、こら!」

「わたしはここから動かない! ネモっちを盾にする!」

「妹を盾にする姉がいるかあ〜!」

「いいじゃないこれはゲーム! 人間の盾は最強!」

「わっはっはっは!」


 とんでもない言い訳をするアザレアに怒るネモフィラを見て、グリムニルは大笑いしている。二人の周囲にはレッドとブルーの蝶々が最先端の光彩で大量に交差している。こいつらの双子力、半端じゃない!

 スピカがチャンスと見て叫ぶ。


「お姉様! いますぐ攻撃を浴びせて!」

「無理! どうやって出したかわかんないし!」

「運営に投げキッスしなさい!」

「やだやだぁ!」


 などと二人で俺に抱きついたまま涙目でもちゃもちゃする。

 グリムニルチームのネモフィラとアザレアもまだ喧嘩中だ。全く攻撃してこない。

 観客はむろん驚嘆の大熱狂だ。もっと熱を上げる対象があるだろう普通の人間ならば。

 しかし、思えば兄である俺が昨夜から何もしていない。

 よって二人に発言した。


「ルナ、スピカ。俺がちょっと行ってくるよ」

「えぇええぇ! にぃに、それはダメです!」


 思いの外、スピカが怒った。


「いいましたよね! 兄が討ち取られたらPvPは敗北です! よって、敵双子の近くに自ら向かうのはナンセンス!」

「あ、そっか」

「やるならグリムニルさんとの一騎打ちに誘い込みます!」


 その時、……ぽふん! ルナのほっぺたに雪玉がぶつかった。

 どうやら、敵チームのオコの妹ネモフィラが投げたようだ。


「ばーか! お前らなんてこわくない! かかってこい!」

「む〜!」


 基本、煽り耐性のないルナである。

 スピカは思いとどまったが、ルナが雪玉を作った。


「ちょっと、そんな子供っぽいことやめなさい!」

「でも、あの子の雪玉当たった! だからぼくも当てる! くらえー!」

「だからやめなさいって、もぉ〜!」


 ルナが投げた雪玉は、ぴよぴよ飛び、全然届かないで落ちてしまった。ルナは涙目で唇を噛む。運動神経はかけらもない。


 直後、ボッ! グリムニル一同の立つ雪面が大爆発する。


 ぽかんとするルナである。要するに『雪玉を投げちゃう姉ルナを止めようとする妹スピカかわいい。結局、投げちゃって全然届かないし泣いちゃうルナかわいい。双子最高!』って感じで運営の謎の琴線に触れたのか。どうするよ。


「ひぃいいぃいぃいいぃいぃい!」


 やはり、生還の絶叫が響く。

 半透明の朱色フィールドがビビビとグリムニルチームの全面に展開されていた。たぶん、アザレアが発動したバリアだ。やはり、HPからしてわかったがあの子は防御タイプか。

 しかし、妹の背に隠れたままでバトルに参加するつもりはなし。


「むかぁ〜〜〜!」


 直後、その雄叫びと共にアザレアの腕を掴むネモフィラ。

 なんと俺らの方に姉を背負い投げした。ぶちぶちっ、絡まっていた髪の毛がちぎれて、アザレアは絶叫する。


「むわあぁあああぁああ!」


 涙をばちゃばちゃさせてこちらにぶっ飛ぶ赤毛のアザレア。

 ぼふっ! 俺、スピカ、ルナのちょうど中間辺りに落ちる。


「チャンスです! ルナ、ぼこぼこにして!」

「え!」

「ぎゃぁああぁあぁあぅう〜!」


 泣き叫び命乞いするアザレア。

 銀髪ロングの妹のひどい発言に金髪ツインテの姉はもちろん怒った。


「なんでスピカはいつもぼくに命令ばかりするの! スピカがやればいいじゃん!」

「だってルナはいわないとちゃんと行動しないし!」

「へりくつ! 自分が動きたくないだけじゃん!」

「あなたサボるでしょ! だからわたしがお願いしたことはちゃんとやって!」

「「ばかばかばかばかばかばか!」」

「ぎゃぃいいぃいぃいいぃいい〜!」


 二人の意思とは関係なく発された白黒の双子力により、天から青白い雷撃が降り注いでアザレアをバリバリバリ! アニメみたいに全身の骨が透けた。運営、容赦なしか。


《アザレア 0/43120》


 南無三。これでどうだと俺がグリムニルとネモフィラを見たら、なんと二人は落ち込むどころかいちゃこらしていた。


「これで二人きりだねにーさま♡」

「おいおい、一歩も動かない約束だろう?」

「いいじゃん? 敵が来たら元の位置に戻るし♡」


 姉のアザレアはぷすぷすと煙を上げて天使の輪を頭上に浮かべ昇天している。彼女、もう戦闘には参加できない。

 もしや、姉アザレアが倒されてからが向こうの本領では?


「「やったあぁ〜♡」」


 敵チームのアザレアを倒したことにより、スピカとルナはいつの間にか仲直りして、両手を合わせてぴょんぴょんジャンプする。


「この調子で行けば倒せるかもね、お姉様!」

「うん、がんばろスピカ!」


 ところ構わず、向こうの兄妹もラブラブする。


「にーさま♡」

「ネモフィラよ。このPvPが終わったらね。こんなにも客がいて少々恥ずかしい」

「恥ずかしい? にーさま、かーわい♡」


 見せつけるように、にっと俺、ルナ、スピカの方に笑むネモフィラである。ざわざわざわ、大量のお兄ちゃん&妹の双子ちゃんのガヤの熱狂は一層強くなる。


「これがお餅プレイヤー同士の戦いか!」

「こんなの見たことないぞ!」

「ネモフィラちゃんかわいい」「アザレアちゃんかわいい」

「スピカちゃんかわいい」「ルナちゃんかわいい」

「兄どもは死ね」「リアルで確実に死ね」


 熱情たっぷりの絶句と羨望と憎悪の声が入り乱れる。こんな馬鹿げた内容で戦いが成立してしまうのだから、ふたごおんらいんって面白くない。しかし、お兄ちゃんとして今のところあまり旨味を感じていないぞ。

 ネモフィラの赤目がにんまりした。


「じゃ、こいつら倒したらいっぱい甘えちゃお♡」


 この時、かすかに理解できたことがあった。

 無意識ともちがう。ほんの少しの敵意に混じった、挑発。


 その根底にある——!


 とん。ネモフィラが雪面に足踏みした瞬間。

 銀髪ロングをふわっと膨らませて、妹スピカが両手を前に出した。

 驚く間もなし。金髪ツインテの尾を残して、姉ルナは突き飛ばされた。


 ド!


 刹那、地面から太い氷柱が伸びてスピカの腹を貫いた。


「「スピカ!」」


 仰天した俺とルナの声が重なる。

 彼女は後方にぶっ飛び、二個目の天使の輪を銀髪の真上に浮かせた。

 本物の銀の天使になり、こちらにうるうるの涙目を向けた。


「やられてしまいました〜!」


《スピカ HP0/10》


 となりにアザレアが並び、二人は体育座りして見物する。


「どうする、にぃに?」

「——あれを使うか」


 だいぶ夜も深くなった。

 満月の真下で、俺とルナは共犯者のようにコクと頷く。


「まだ策があるの? 十分、頑張ったじゃない」


 小悪魔のように腰に手を当て、ネモフィラが遠くからニヤとする。

 グリムニルが未だ白い歯で笑っていた。


 よって俺とルナは人情を捨てた。


「笑っていられるのは」

「今の内だ!」


 二人で言い切り、直後、ルナのアイテムポーチから、彼女のかざした手の平に半透明のキューブが集まる。


 それは——


 むろん、グリムニルとネモフィラはギョッとする。


 ルナは、両手で黒剣の柄を握り、ズシと雪上に沈ませた。

 かっこつけて俺を見て質問する。


「……にぃに、なんて名前だっけこの剣?」

「えっと、あれ」


  to be continued...

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