第十二話 厨房の珍事件
あむあむ。スピカとルナは無言で包装紙のテリヤキバーガーを食べる。
二人とも、恐い顔で、お互いの食事シーンを見ようともしない。
俺は焼き魚を箸で食べて、すごいと驚いた。味の再現度が現実と限りなく近い。満足度はむろん得られないが、味はよろしい。
待ち時間が省略された焼き魚定食とテリヤキバーガーはすぐに届けられた。今、俺ら三人は食事中だ。
「味がいいね? ハンバーガーも美味しい?」
俺が聞くと、こくりとスピカが頷いて、ルナも小さくコクとする。しかしまたルナの顔がくしゃとなり、テリヤキバーガーを食しながら、うえぇ、と泣いてしまった。泣き方が完全に幼稚園児のあれである。
恐らく、妹よりも兄の質問に対する反応が遅れたのが嫌だった。スピカの方は知らんぷりを演じていたが、やっぱりこらえきれなくて涙がぽろぽろした。
姉妹喧嘩は特に珍しいことじゃない。毎日、喧嘩している。勃発の理由がテリヤキバーガーというのも、とても愛らしい。
しかし、店内のプレイヤーたちが、まるで正月のお日様でも拝むようにシーーーンとご静聴してくる。おい、普通の人間を呼べ。俺のリアルが消える。
その時、厨房からどよめきが聞こえた。他のプレイヤーはこの展開に覚えがあるのか、ほぼ知らんぷりでこちらをじっとり眺めたままだ。ギョッとているのはこのテーブルの俺、スピカ、ルナくらいである。状況が異様すぎるわ。
ちなみに三人にはステータスのバフがかかっていた。
俺が《観察力UP》妹スピカが《集中力UP》姉スピカなんて《釣り吉》とか、まず今夜は使わないスキルになりますます不機嫌になる。
(たたた、大変だわ? スノウラビットのお肉が焦げちゃった!)
(在庫はないのか!)
(ないないな〜い! ぜ〜んぜん、ないわ〜〜っ!)
演技がすごすぎてミュージカル風になっている。
ぱたぱた厨房から出て来たのは、さっきのにゃんこウェイトレスである。ぱっ、口に片手を当て、ぐる〜と首を回して俺らを見つけた。走るのも大股でふざけてんのかと勘違いする客もいるぞ絶対。大雑把なモーションである。
「あなた方、そこのお兄さんと双子ちゃん!」
ところで、ここにいる全員が兄と双子である。このイベントは初心者に対して起こる確率の高いもので、俺ら以外、全員が知らぬ顔だ。その全ての目玉がこちらに向いたままで、緊張感が並みのボスバトルを超過している。平常心で飯を食えない。
「どうしたのですか!」
動揺しつつまじめなスピカが応答する。こういうところ、お人好しだ。
「スノウラビットのお肉が焦げちゃったの。その、取って来てくれない?」
《→はい》
「わかりました!」
銀の前髪をフワとして、正義の目でスピカは二つ返事で了解した。
《→なぜ自分らに?》
選択肢を選び、妹スピカは質問を続ける。
「どうしてわたしたちのもとに?」
目をにっこりして、にゃんこウェイトレスは照れ笑いした。
「えへへ? だって、うさぎさんみたいにかわいかったし!」
「あ、あはは〜っ?」
とりあえず笑っておくのやめろ。世渡りが上手。
「だって、にぃに?」
ともかく俺の右腕を抱くスピカである。むにっ、おっきいおぱいの質感はとてもリアルだ。
すると、左のルナが悲しげな目でこちらを見てくる。
また、泣かれてしまっては大変だし。かといって構ったら今度はスピカが勘違いするかもしれない。
だから、俺はルナの目を見て、にっこりした。笑うのはあまり得意じゃないが、有効なシーンで活用していく。
みるみるルナは真っ赤になって、自分の金髪ツインテの尾でお顔を隠した。かわいいモーションだ。
to be continued...
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます