第十一話 ねこまんまの喧嘩


《猫飯NYAに行こう!》


 神殿を出たら、次に出された指示がこれだ。

 また、お兄ちゃんと双子だらけの狭っ苦しい道に、俺ら三人のみ見える半透明の矢印が浮いた。目的地にすたこら、他のプレイヤーに肩や腕を激突させて走る。慣れているのか誰も嫌な顔はしない。

 夜も更けていく。青白い星々が小さく爆発した夜空は綺麗だ。


「ねこまんまにゃ☆ってかわいい名前ですね?」


 俺の右手にちっちゃいおててを引かれて、おまかわに銀の前髪をなでてスピカが微笑む。

 左手はルナの手に結んでいて、はぐれないようにしてある。ルナはリアルでも手を繋ごうとせがむので、独り立ちすることを願ったり願わなかったり、兄としては複雑な心境なのだ。


 昔のイメージの猫飯っていったらスープに浸した白米だが、最近はペットフードの家庭がほとんどだ。そして、たぶん、ふたごおんらいんは、お客を猫にたとえて、オタク特有のKAWAIIワールドを作ったようである。


 しかし、さっきのアイテム屋の店主の印象が悪かったので、どんな店員が働いているのかと眉間に力がこもる。


 猫飯NYAは中華風の佇まいのお店だ。赤い提灯が下がっており、積雪の景色とぴったりだ。


「いらっしゃいませ〜!」


 玄関に入ると店の奥から出て来たのは、黄色のメイド服を着用したネコミミウェイトレスである。

 赤いリボンをお胸につけて、白いふりふりしたスカート。ちゃんと黒い尻尾も伸びていてこだわりがすごい。


「「かわいい〜♡」」


 スピカとルナは大小のおぱいの前で手を組み、目に小さいハートを浮かべた。イエローメイドのにゃんこたちは恐らくCPである。白い皿を高く積み上げてわわわっとなったり、両手と頭に香ばしいハーブチキンのお皿を載っけて器用に歩いたりと、華やかで確かに可愛らしい。


 沢山の席があり、俺らは真ん中辺りに座った。いろいろな衣装のプレイヤー、魔術師の兄と双子の魔女、騎士の兄と双子のお姫様、かぼちゃの兄と双子のハロウィンコスプレなど、いろいろあって飽きない。

 さらにすごそうなのは、謎の光を放つ竜騎士っぽいお兄ちゃんに、やたら露出度の高いサンバみたいな羽のついた鎧の双子ちゃんなど、上には上がいることがわかる。


 にゃんこの女の子が一人、てこてこ、歩いてくる。


「こんにちは猫飯NYAへ!」


 にっこり笑う彼女の頭で猫耳がぴょこぴょこ上下して、新しい性癖に目覚めそう。スピカとルナは、そっくりお口に両手を当てて、おめめをきらきら、お上品に感激している。こういうところ、やはり双子のリアクションだ。


「お客様はここのご利用は初めてですね?」


《チュートリアル》

《朝昼夜に一回ずつ料理を食すことができます。8時間のみ、バフがランダムでつきますのでぜひご利用ください》


「バフってなにスピカ?」


 相談役みたいになった妹のスピカに聞くとむふんと自慢気に答えた。


「ステータスの上昇効果のことです! 反対側に敵を弱体化させる効果をデバフといいます」

「へえ。つまり、朝に食べたら朝の間、昼には昼、夜には夜のバフをもらえるって意味か」

「そういうことです」


 にっこり肯定したスピカである。この子はリアルでも勉強がよくできる。ルナもお勉強は苦手ではないが、やはりスピカの方が要領よくやる。


 目が鉛筆の色のイエローメイドは、にんまり、愛くるしい笑顔を見せてくれた。パカ、両手でメニュー表を開く。


「どの料理にいたしましょ?」


 日本語で、牛丼、魚定食、照り焼きバーガーとある。


「じゃ、三人で別々にしようか」

「ですね」

「いいわ」


 俺は手をテーブルに置いたまま、にゃんこウェイトレスのお顔を見て頼む。


「魚定食でお願いします」

「はーい!」


 スピカもルナも基本的に魚は食べない。俺が選ぶ。

 続けて元気よく声が重なった。


「「テリヤキバーガー!」」


 てん・てん・てん。

 客三名の沈黙が店内に落ちた。

 む、やはり、双子の姉妹は睨み合う。


「「テリヤキバーガあーっ!」」


 にゃんこウェイトレスはにこやかに答えた。


「魚定食×1とテリヤキバーガー×2でよろしいですね?」

「「ダメえーっ!」」


 堰を切ったように双子の天使は喧嘩した。


「お姉さま、別の選んでくださいよ!」

「ぼくはお姉さんだから変えない!」

「こんな子供っぽい姉はいません!」

「子供っぽくない!」

「ちっぱい!」

「うぇえええん……」


 ああ、ルナが泣いてしまった。ところが、スピカも青目にうるうるの涙の粒を溜めて、ぽろぽろぽろ、本人は我慢したいのに全くムリな感じで、唇を甘噛みして泣いてしまった。


「じゃ二人は照り焼きバーガーね。次にここで食べる時は、兄ちゃんが牛丼を頼もう。もしかしたら気が変わって、今度は牛丼で喧嘩したら面白いね」

「「…………」」


 フォローになっていない。湿っぽい空気になった約三名。

 そんな俺らの周囲のプレイヤーたちは、なぜか度肝を抜かれた顔をしている。いや、どんな反応だ。


 ぴょこぴょこ猫耳を上下して、黒い尻尾をふりふり、にゃんこウェイトレスは去っていく。


 しばらく、なぜプレイヤーたちにびっくりされたか考えたが、きっとスピカとルナの言動がガチの双子みたいに見えたからだ。事実、その通りさ。俺も義兄ね。


  to be continued...

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