第十話 ガチャの天国と地獄


 マシロタウンまで戻って、店主に《ホワイトゼリー》を提出した。

 バンダナのごつごつした顔の店主は、太い腕で《ホワイトゼリー》を受け取ると、ふっくらしたほっぺたにえくぼを作った。


「ありがとう。初めての戦いはどうだった双子ちゃん?」


 なぜ目の前の俺ではなくルナとスピカに聞くのかマスコミふうに追求したかったが、CPに何を申したところで無駄か。俺の背後で金銀の双子は怯えて出てこない。むしろモンスターよりこの男、恐ろしい。


「これはお礼だ。受け取ってくれ」


 何やら店主から虹色の玉をもらった。


《七玉×1を入手した》


 夜月に透かすとチュートリアルのウィンドウが入った。


《七玉とは、ガチャで使うアイテムです。神殿へ》


 課金要素か。もちろん俺はこのゲームには1円たりとも金を払う予定はない。ルナとスピカにもそこはちゃんとしてもらいたい。課金するなとまではいわないがJCなので節度を持ってもらいたい。


 アイテム屋から頼み事をされたあげく物々交換でめでたしの訳わからん店だったが、不気味な店主と目を合わせることなく《さっそくガチャをしにいこう!》の矢印の方向に俺らは走っていく。

 どんどん夜も更けるのに店と店の間にはお兄ちゃん×双子率は増えるばかりだ。俺らを見てひそひそ話す声はやはり聞こえてスピカとルナはびくびくする。どことなく彼らのこちらを見る目は、店主と同じ印象をしていた。あの、漫画でクズの見せるニタァってやつである。ちなみに俺はヒキニート扱いを受けているので安全だ。いろいろと許せない。


 神殿が見えた。よく、RPGで見かける、石造りの古びた建築物だ。

 入ってみたら、ちょうどガチャをしているプレイヤーがいた。なんと第三者からも排出した内容が丸わかりの作りになっていて、面白い。爆死したら笑い者になれる。


 何やら、モブっぽい兄×双子の姉妹が女神像に向かって叫んでいる。


「ははあぁ〜〜〜運営さまあぁ〜〜〜! わたしらにどうか超ぶっ壊れ性能の大剣んんん〜〜〜、グリムギィルドラゴソードをぉおぉぉおお〜〜〜! お恵みくださいましいぃいぃいぃいい〜〜〜! どうかああぁ、どうかああぁ、このみじめなキモ豚にぃいぃ〜〜〜、夢を見さしてくれえぇいぃいぃいぃ〜〜〜!」

「運営様あぁあぁあぁ〜〜〜、昨夜の更新お疲れ様したぁあぁああ〜〜〜」

「ぼくも運営様のためならアァ! この妹キャラでどんな陵辱でも受けルウゥウゥウゥ!」


 おい、自分のことみじめなキモ豚とか言ってんぞ。大丈夫か。

 俺、スピカ、ルナが三人で絶句していたら、女神像が光った。

 金色の光の輪が天から舞い降りた。

 降臨したのは、見るからにやっすい刀剣だ。


《レアリティSR ☆☆ 雷刃》


「うっ、うぁっ! あぁわぅ、ウワァアアアアアアアッ!」

「ウオォォオオオゥッ!」

「ィヤアァアアアッ!」


 ギャンブル映画のバッドエンドやないかい。目当てのアイテムじゃなかったらしい。そこを見物していたプレイヤーたちが、ひそひそ「100連の後、なけなしの単発までしてSSRなしか」「むごい」等と話していた。このワンシーンの壮絶さを物語っている。どこぞの奴隷だ。完全に下僕のパフォーマーである。


「これは【ふたおら】名物、運営ドッコイショです」


 銀髪ロングを耳にかけて、スピカが俺のとなりで険しい目をした。


「運営ドッコイショ……?」


 放心状態で訊ねたら、厳しい回答が返った。


「ご覧の通り、このゲームには運営の要素がゲームシステムに深く関わってきます。よって、運営をよいしょしたらガチャのSSR排出率がUPするのでは、という迷信がプレイヤー間で共有されて、このような最悪の光景が日常化してしまいました」

「なんと……」


 純粋に聞きたい。このゲームをやめない理由はなんだ。


「双子愛とは恐ろしいものです……」

「許せない……!」


 ずかずかずか、なんとルナが女神像に近づく。

 慌てて俺とスピカが金ツインテールの尾を追うと、十数名のプレイヤーたちの目の中、金の二つ結いをブワとして、黒々とした蝶々を羽ばたかせ、ルナが天に怒った。


「運営! こんなことして満足! ぼくらは、ただ純粋にお兄ちゃんに愛されたくてこのゲームをプレイしている! こんな形で踏みにじるなんて信じられない!」


 いや、お兄ちゃんに愛されたくてこのゲームをプレイする人物はごくごく少数に思えたが、小声でスピカが俺に喋り掛ける。


(にぃに。七玉ください)

(?)


 よく分からんが、七玉をスピカに渡す。

 ——にしても、今のルナの双子力はすごい。ブラックの蝶々が今までにないくらい飛翔している。

 ルナは、怒った目でこちらを向いて、キュと俺とスピカの手を握った。


「ぼくらとにぃには血が繋がっていない。でも、本当の家族だ! それをこの世界で証明してみせる! ぜったい、お前らのひねくれた精神を、ぼくとにぃにとスピカの三人の愛で正してみせる!」


 スピカが《七玉》を女神像に差し出した。タイミングよろしいか。

 天から光が降り注ぎ、七色のアイテムが降臨する。

 黒い大剣だ。


 虹色の光で、ジャジャジャン! 英語が三つ《S・S・R ☆☆☆——!》と表記される。


 スピカは、捧げられた黒い武器を両手で授かり、その重みでズシとなった。


「わわ!」


 慌てて、ルナを支えて武器を貸してもらう。


《SSR ☆☆☆ グリムギィルドラゴソード》


 さっきの三人が死ぬほど欲しがってた奴で魂が抜けた。


「わ〜♡ かっこいい♡」


 手のひら返しのルナの歓喜に神殿にいた十数名のプレイヤ一は一斉にずっこける。砂ぼこりがすごい。

 黒いドラゴンの頭が剣を咥える形状の大剣を両手で持ち、ルナはにんまり俺に笑いかけた。


「やったね、にぃに♡」


 キラキラ黒い蝶々を散らして、にまっ、満面の笑みを浮かべ、姉ルナは瞬く間に運営に籠絡されてしまった。

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