第九話 ホワイトスライム


 とにかく、マシロタウンはお兄ちゃん×双子率が高すぎて目がくらむ。

 でかい矢印の指示に従い、俺、スピカ、ルナはそそくさと町を出る。


 どうやら、雪山の中のようで、お外に出たら真っ白な雪面があった。先にも示した通り今夜は天気がよくて月光に雪面がきらきら光っている。よく見たら、雪の足元からサトウキビみたいな草が伸びていて、引っこ抜くと《薬草》とアイテム名が表示された。


「入手したアイテムはアイテム袋にしまうことが可能です☆」


 右のスピカが、銀髪を払って先生のように発言した。


「へえ」


 腰のアイテム袋を開けて《薬草》を入れると、小さく半透明のブロック状にカクカク砕けて収納された。ここら辺はゲームということで、裏設定があると思うが、今のところは気にならない。


「すごい」


 左のルナはぱちぱち瞬きしてアイテム袋をまじまじ見ている。


 お外に出てもお兄ちゃん×双子の姉妹の呪いから解かれることはなかった。あちこちでキャンプしたり、かまくらで寝ていたり、雪合戦したりしている。おい、睡眠してる奴、いますぐゲームをやめて布団で寝ろ。何が目的だ。


 とにかく、矢印の方向に向かい、俺ら三人は走る。ゲーム上では、いくら走ってもスタミナが尽きない限り止まらないし、疲れることもないので楽しい。

 ルナは、しきりにローリングのアクションをしてふざけていた。スピカがきゃぴきゃぴ、姉を見て笑い、自分も真似してローリングしだす。俺は根暗なのでやらない。


 双子のローリングを従えて、しばらく雪面をさくさく走ると、遠くに山が見えた。

 前方に、あ、スライムだ。

 白色をして、雪見だいふくみたい。


 俺ら三人は、じっとそいつを見た。

 三日月が山の真上にある。


《ホワイトスライム HP5/5》


 おいしいアイスの見た目をした奴は、俺らが近くに来てもぽよぽよと適当に跳ねている。


「ここでバトルになれておきます」


 妹スピカがコホと咳払いし、姉ルナに指示を出した。


「お姉さま。スライムにキックしなさい」

「えー」


 しぶしぶ、金髪から小さい蝶々の残光を引いて、ルナが走る。


「えい!」


 飛び蹴りをホワイトスライムにヒットさせた。

 ぽにゅ。ホワイトスライムのほっぺたに沈み、ぽよーんと後ろにぶっ飛ぶ。

 ダメージ判定がウィンドウで示された。


《ホワイトスライムに1ダメージ! HP4/5》


「と、このように普通の打撃でもダメージを与えられます」

「なるほど」


 ゲームを始める前のチュートリアルで見た通りだ。確か、剣で斬ったり、銃で撃ったりしてもダメージを与えられます、とかなんとかいってたっけ。


「しかし、ここに双子力を加えるとダメージも増大します」


 スピカがむつかしい顔をする。


「なお、この双子力というのが、非常に判断の難しいランダム要素でして。運営の好みに合わないとあまりダメージに影響が出ません」


 ルナは、あちょ、とスライムと格闘している。

 そこを横目に俺らは話す。


「たとえば、あからさまに下手くそな演技だと、運営からくそつまんねえなって思われます。しかし、もし、それが演技しようとがんばる双子ちゃんならどうでしょ? あ、必死にがんばるか双子ちゃんかわいいとなり運営に喜ばれるでしょう。もちろんダメージも増加します」

「わけわかんねえぞ」

「そうなのです。つまり、演技が下手であるなら、そこに本当の自分がいないと運営には認められないってことです。ま、でも実際は、完璧に近い形で演技をこなすことによって、運営からポイントを稼ぐ手段が一般的ですね。自然体でいったら、だいたいのプレイヤーが双子じゃなくなりますし。だから設定が重要になってきます」

「じゃ、お前らは自然体でいいってことか。もともと本物の双子だし」

「なのですが、わたし双子を意識して生きてませんし。お姉様もあんな感じで子供っぽいから、ちょっぴり不安です」

「じゃ、兄ちゃんの役割は?」

「もちろん。運営にとっての主人公です。感情移入する相手です。だからお兄ちゃんもちゃ〜んと好感度、つまりお兄ちゃん味を出さないとなりません」

「……面白いのかそれ」

「面白いですよ☆」


 とかいって、自分で言って自信がなくなったらしい。スピカは冷や汗のモーションを出した。


 あ、ルナVSホワイトスライムはどうなったと見てみたら、ホワイトスライムにぷよんと乗っかられていた。襲われてんのかと思ったら、彼女はにまにまっ、きゃ〜♡ と楽しげに笑い、寝そべるようにこちらを向く。


「にぃに、スピカっ、スライムきもちぃ〜♡ 助けて〜♡」


 彼女が天使の笑顔を見せたシーンで、黒々とした蝶々が一斉に金髪から飛翔し、ぱんっ! 白いゼリー状の体に纏わりスライムが爆散した。


《スライムに3ダメージ! HP0/5》

《スライムを倒した》


 ぱこっ、宝箱が落ちてアイテムがドロップする。

 あわあわした真っ白のゼリーだ。

 拾ったら、メッセージウィンドウが視界に表示された。


《スライムゼリーを手に入れた!》


 俺とスピカは虚しい目で雪上の戦いの終幕を見て、確信した。


「要するに運営は変態ってことか」

「……かもですね」


  to be continued...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます