第六話 お初のPvP


 雪の夜。何事もなかったように丘を下り切ったところで、海賊の船長×紅チャイナ的衣装の双子は待っていた。


「わっはっは! まさかのこのこやってくるとはなぁ?」


 黒眼帯の男は馬鹿笑いする。言葉の使い方、間違っとるぞ。

 こらえきれずスピカが口を返した。銀髪からシルバーの蝶々が散る。


「のこのこやって来たのはあなたじゃないですか! なんですさっきの! あんなみっともないヘッドスライディングは初めて見ました! 高校球児に謝れ!」

「だまりなさい!」

「バーカ!」


 赤い目で恐い顔をする左右サイドテールの美女双子。大人っぽい美人で、ハリウッド女優の様である。おにぃの趣味が全開なのだ。

 白雪に伸びる素足がクールだ。キッと睨む両目にも熱があり、男の好みドストライクである。


「君ら、落ちつけ。おい、受け取れ小僧」


 黒眼帯のおにぃはかっこつけて目を伏せて、トランプでも投げるように俺にメッセージウィンドウを飛ばした。


《PvPを挑まれました!》

《受けますか?》


《→いいえ》


《PvPを断りました》


「ねえ待って! 受けて、PvP受けて!」


 懇願するおにぃ。恥を知れ。

 俺は睨むように語る。


「俺らに勝ち目はありません。見た目からして違うし」

「くそ、勢いでいけないか!」

「どうするおにぃ?」

「これじゃバカみたい……」


 紅衣装の双子はおろおろおにぃと俺ら三人を見比べる。

 おにいはチッと舌打ちしてハキハキと喋った。


「PvPはこのふたごおんらいんでは避けては通れぬ道だ。ここで慣れておくとよい!」

「誰にも勝てないからって初心者ボコボコにするのはサイテーです!」


 銀の前髪の雪を払い、群青の両目でスピカが怒った。


「黙れ、黙れ黙れ黙れッ!」


 舞い落ちる白雪の奥におにぃの絶叫だ。

 くわ! サーベルの柄を掴む。


《PvPを挑まれました!》

《受けますか?》


《→いいえ》


《PvPを断りました》


「なぜだぁああああ!」

「勢い込んで来ないでくれるか?」


 げんなりした目で俺が突っぱねるとおにぃは叫ぶ。


「うわあぁあぁんん!」


 結局、情けなくしゃがみ込んでおいおい泣く。

 旦那の背にチャイナ愛のこもった美女×2は優しくなでた。

 こちらまで凍えてくる光景だ。


「おにぃ、わかったでしょ?」

「こんなことはやめよ」


 スピカは青の線を三本、銀髪のおでこに入れて呟く。


「女の子に……哀れな……」

「にぃに、受けてあげよ?」


 寒風で金のツインテールを揺らし、ルナが赤目でうるうる俺を見る。黒い蝶々がちらちら流れた。


「あの人、かわいそう——」


 海賊のコスプレをした男のことだ。

 見た所、紅衣装の女の子らは結構まともだ。


「お姉さまに賛成です。外国の方のイメージも悪くなりますし。ここで彼に改心してもらったら?」


 結局、こちらの双子もあちらの双子も優しかった。


「それにわたしたちはプレイしたばかりの人間ですので、失うものもありません」


 白銀の世界。追い討ちをかけ天候は悪くなる。

 スピカのこの言葉で決意した。


「仕方ない」


 俺は意識してウィンドウを表示して、目線でPvPを申し込む。

 ふわぅ、純白のパウダーが吹雪く。


《PvPを挑みました!》


 ハッ! 砂漠で水をもらった罪人のようにおにぃは承諾した。


《PvPが受諾されました!》

《バトルを開始します》


 水晶玉が連続して反響する音。声援のBGMが花々しく奏でられた。

 オリンピック的、カラフルなレーザービームの演出が入る——!

 電磁波が広がり、星の見えぬ夜空に敵チームのHPが表示された。


《おにぃ HP18/18》

《レディピーチ HP13/13》

《レディチェリー HP13/13》


「PvPでは相手のお兄ちゃんを倒した方の勝利です!」


 事前に【ふたおら】を調べたらしいスピカが俺のとなりに並び語った。


「基本的には双子は敵お兄ちゃんを狙いに行きます。もちろん双子に阻止されます。よって、双子VS双子、お兄ちゃんVSお兄ちゃんの構図になることが多いです」

「スピカ、毎日実況動画見てるものね」

「お姉さまこそ子供用の玩具の評価動画いつも見てるじゃないですか」

「ななな、にぃにの前でいうことないじゃない! 見てないわ〜にぃに?」

「へーんしん! プリティーキャンディ・イエロ☆」

「わぁあああ!」


 か〜!

 真っ赤になり、口をぷるぷるし、ゴールデンカラーのツインテールをぶわ〜とさせて、ルナが怒ったシーンで、——ブラックの蝶々が花畑みたいに黒々と羽ばたいて、怒りの波動が夜空に伝わった。

 夜天から流星群が大爆発して降り注ぐ。


「「「わ」」」


 ボッカーン! 光源が敵チームの顔を眩く照らし、ド派手なインパクトの直後、アニメチックな巨大爆炎がボムと再現される。

 暗い夜空に敵チームのHPが瞬時に削除された。


《おにぃ HP0/18》

《レディピーチ HP0/13》

《レディチェリー HP0/13》


《YOU WIN!!》


 俺、スピカ、ルナの三名は、カチッ石像のようになった。

 まっ白の丘の麓で爆心地を呆然と見て、自らの力の強大さに言葉を失った。

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