第五話 丘の上の古びた家


 主人公と双子の姉妹の住む家は、古びた木造だった。

 小高い丘の上にあり、しんしんしん……白雪が舞っている。寒さの感覚はリアルとちがって不快感はなく『涼しい』とも異なる。肌でぱちぱち氷が砕ける感覚があった。


 丘の下に村が広がっていた。ここからほぼ見渡せてしまう。

 砂糖でもまぶされたようなゲーム特有のデフォルメされたウェディングケーキの街があった。

 人影がうろうろしており、よく見たら、ほぼ兄×双子のトリオでどんな出生率だアホか。


「はあ、ゲームの景色ってどうしてこんなにかわいいのかな?」


 俺の畏怖をよそに、金髪ツインテールの赤目がじっとこちらを見上げていた。黒ワンピースの上に旅人のコートを着て、たぶん一人で歩いたら危ないくらい可愛らしい。


「にぃにもそう思うでしょ?」


 にまっ。犬歯をむいてルナからキュートに笑われた。

 俺の影で、スピカがぽそっと囁く。


(にぃにはそう思いません)


 ちょっぴり悲しむルナである。簡単に騙されてしまった。たぶんオレオレ詐欺にあったら一族滅亡まで資産を貪られるのではとビビる。


 天使の輪の浮いた金髪のつむじを撫でてやる。目をつむって子猫のようになった。ずっと、このままなでてやりたい。


「む〜!」


 左ななめ下から怒りの視線を感じた。

 ぷく。

 片頬のみをふくらませて、妹のスピカが怒っている。水晶の青目はジト目になって、JCなのに眉間に小さいシワがある。

 時折、彼女はリアルでもこんな顔を見せる。銀髪の後ろから青い蝶々の燐光がきらきら羽ばたく。


 キュ。スピカは俺の手を握って、ぐいぐい引っぱった。


「町です、早く行きましょうね!」

「おわわ」


 さく、さく。新雪を踏む感触にリアリティを感じた。

 まるで映画のワンシーンのように古びたコート姿の三人は、純白でふわふわの丘を下っていく。道はカーブして街の方へ向かう……予定だった。


 ——ザザ! 小悪党のように俺らの前に三つの影が立ちふさがった。


 中央の男の背は低い。片目に眼帯をしていて、初心者の装備じゃない。黒い海賊の船長みたいなコートを着用している。


 両隣には、赤い髪の双子だ。しかも、外見が瓜二つで、どちらがどちらかわからない……と思ったら、サイドテールの位置に違いがあった。右と左で見分けられる。チャイナ服みたいな紅の衣装を纏っていた。首の周りで白いファーがもさもさしている。


「——あなたたち誰ですか!」


 おいどうした。やけに演技がかったセリフをスピカが紡ぐ。

 役者のように片腕を払い、双子の銀髪娘の妹は俺の前に立ってくれた。

 ルナは俺と手を繋いだままポケーと見ている。


 右サイドテールの女の子が口を開いた。


「おにぃ、準備はいい感じ?」


 左サイドテールの女の子も続く。


「帰ったら膝枕ね!」

「おうよ!」


 待て待て待て、膝枕? にやつくなおにぃ。

 いやいや、サーベルを腰の後ろに振りかぶるな!


「いけません!」


 決死の形相でスピカがこちらを振り向く。

 珍客の三名から、紫の蝶々がフワリ、幻想的に花々しく広がる。


「双子力! この人らは初心者狩りですにぃに!」

「は?」


 時すでに遅し。左右の赤髪の女の子はにんまり同じ顔で笑い。

 タッ! サーベルを腰の後ろにおにいが白雪を蹴る。


《PvPを挑まれました!》

《受けますか?》


《→いいえ》


《PvPを断りました》


 海賊の船長のおにいは勢いあまって丘をヘッドスライディングした。白い煙がもわもわ上がり、双子の姉妹は慌てて追いかけていく。どこの新喜劇じゃい。


 妹スピカは目から光を失い、くしゅっ、姉のルナはくしゃみのモーションで遊んでいた。

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