FileNo.5 ブリッジ - 04
考える。考える。成る程、雨月の説を採れば、幾つかの疑問に説明がつくのは事実だ。自分たちより遥かに経験も実力もある修験者が、三文ミステリーばりのお粗末なダイイング・メッセージしか残せなかった理由も理解できる。つまりは、人間の力が及ぶような存在では無く、修験者は抵抗すら出来なかったのだろう、と。
だが。
「何で、ってのは、うーちゃんには珍しくお粗末な質問だな」
――何のために、わざわざ生者に声を掛ける?
「マジモンの常世の存在なら、うーちゃんが加勢に来たって死人が増えるだけだ。おまけに、うーちゃんの能力とガチ常世勢との相性って最悪だしな」
話しながら、見据えながら、晶穂は
「異議ありよ! そいつは私の時は出なかった! なら、私が行くことで再度そいつが立ち去る可能性は否定できない!」
「それなら、うーちゃんの出現で
「ならどうしろって言うの!? この瞬間にも、しょーちゃん、死んじゃうかも知れないのよ!?」
「何を今更……いや、待て、うーちゃん」
「待たない!」
「奴が動いた」
ゆっくり――しかし確かな足取りで歩き始めた黒い巨躯に、晶穂は身構える。距離を取るべきか? ――一時、
晶穂は笑い、肩の力を抜いた。
こちらの抵抗は抵抗にもならない――それはもう、先んじて対峙した修験者が、身をもって示していることだ。ならば、身構えていても仕方が無い。
「考えてみりゃ、すげえレアな体験だよな、コレ」
「下らないこと言ってないで!」
「そうデカい声出すなって。なぁオッサン、アンタもそう思わねえ?」
相手は最早、手を伸ばせば届く位置まで迫っている。だが、予想通り――というより、当然のように、こちらの軽口に対する返答は無――。
「長い別離であった。探したぞ、妻よ」
――晶穂は
「なに、何かあったの!?」
「いや……驚かないで聞いて欲しいんだが」
「何!?」
「あたし、既婚者だったらしい」
「……は?」
幼馴染は、妙に低い声で晶穂に返した。「うーちゃんはたまに異様に怖い声になるんだよなー」と、晶穂は呑気に胸中で呟く。まぁ、それはそれとして。
「どういう意味? ちょっと言ってることが理解できないから、誰にでも分かるように三十字以内で簡潔に応えて」
「このオッサンには、あたしが嫁に見えるみたいだ。ウケるよな」
「へー。分かったわ、待ってて、すぐにそっちに行ってソイツ殺す」
「うーちゃんってたまにバーサク状態になるけど、そのスイッチがあたしにゃ未だに分からねえや」
「とにかく待ってて」
「妻よ、さぁ帰ろう」
「いやすまんオッサン、ちょっと今立て込んでるから待ってくれ」
「はい」
「おいうーちゃん聞いてくれ、このオッサン今あたしに『はい』って言ったぞ」
「いま行くから」
抑揚のない口調での返答と同時に、猛烈な勢いで走っているであろう足音が聞こえる。来ない方がいいんだけどなぁ、と呟きつつ、晶穂は再度頭を捻った。妻――眼前の存在は、自分を何と勘違いしているのだろう。そこまで思って、ふと、彼女は閃いた。
「あ、そっか、素直に聞きゃいいんだ。なぁオッサン、何であたしがアンタの妻だと?」
「其の
「穢れに塗れた、とか伴侶に言うかフツー?」
頭を掻きつつ返すと、巨躯は「すまぬ」と告げた。実に素直だ。これだけ見ると、如何にも危険度の低い存在に見える。
だが。
「そっかぁ。成る程なぁ」
晶穂は気づいてしまった。
「うーちゃん、あたし、分かったわ」
「何が」
「こいつ、
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