第153話 森人種
世界の三割を占めていると言われている広大な森、禁忌の森と恐れられているその場所は森人種、通称エルフと呼ばれる者達が住んでいる。
エルフは人間のような見た目だが、耳が尖った姿をしており、長寿である。
さらに、膨大な知識と魔力、そして地形を生かすことで、これまであらゆる生物の侵入を妨げてき、そしてこれからも許さないだろう。
ただ、外の事情には疎く、今何が起こっているのかなどを理解している者は存在しない。
そんなエルフが住む集落の一つ、大きさは集落の中では真ん中ぐらいに位置するだろう。
そこに建つ一際大きな家。
そこで二人のエルフが話をしていた。
「それで、状況はどうだ?」
かなり歳老いた見た目をしているエルフ、名前をエランドルと言う。
向かいに座る、一見20代にしか見えないエルフは息子のリアンドロ。
この集落で最も強い戦士である。
だが、そんな戦士も深刻そうに暗い表情を浮かべている。
そして、ゆっくりと口を開く。
「正直良くありません…… 族長も知っての通り、いきなり森の一部が死に絶えました。 それと…… 生きてる者もいないと思われます」
「ふむ…… そうか」
「正直異常です。 僕達の魔法に守られた木達が死ぬこともおかしいですが、それ以上に土にも影響があるなんて!」
「…… リアンドロ、落ち着け」
「す、すいません……」
エランドルはそう言い、息子を落ち着かせると考える。
現在、分かっていることは木や土などを死に追いやっている何かは一定のラインを超えた所から始まっているようなのだ。
最初に灰色に変色し朽ち果てていた木や生気を失った土を見た時は本当に驚いた。
だがそれよりも、その時にそのラインを超えた仲間二人は一瞬で死に絶えたのは忘れないだろう。
もしかすると、森の神が怒り、あの区域だけあらゆるものを殺す死の瘴気のようなものが漂っているのかもしれない。
その場所にあった二つの集落が気にはなるが、幸いにもどこまでそれが漂っているのか、木や土の色で分かるので、今はじっとそれが収まるのを待つしか無いのだ。
「族長…… 魔法でどうにかならないのですか?」
「既に試したが、ダメだった。 この集落に住む最高の魔導士なんだが…… もう、解決する見込みはないだろうな。 後はあれを消すことができる能力を持つものが現れれば或いは……」
「そうなんですね……」
部屋に重い空気が流れる。
正直な話、全く打つ手が無いという訳では無い。
それはエルフの中ではイレギュラーな存在。
名前を老王と呼ぶ。
ただ、老王は幾人かの弟子を連れて、日夜強くなる為に修行をしているのだが、全く集落については関わらないし、助けを乞うたとしても、強い者でなければ応じない。
それ故か殆どエルフに嫌われている。
だが、その戦闘力は誰もが認めており、剣や弓、そして魔法までも彼に勝るものはいない。
勿論、弟子もかなり強く、一番弱い者でもリアンドロが手も足も出ないレベルである。
エランドルはそんな事を考えても仕方ないと思い、この空気を壊す為に口を開く。
「そう言えば、リアンドロ。 好きな子はできたか?」
「な、何言ってるの! 父さ…… 族長!」
「ふふ、隠さなくていい。 こういう大変な時だからこそ明るい話題は大切だ」
「だからって! 何で僕の好きな人なんですか!」
「その反応…… まさかおるな?」
「い、いないよ!」
「そうかそうか、まぁ今はそういう事にしとこう」
「しなくていいから!」
先程まで重い空気が一変し、綿飴のように軽くなる。
リアンドロはいないとは言っているが、顔を赤らめていることから、確実にいる。
思い当たる者を考えていると、扉がノックされる。
エランドルは一旦その事について考えるのを止めると、ゆっくりと口を開く。
「入れ」
「失礼します!」
そう言いながら扉を開けた屈強なエルフ。
だが、その表情は非常に暗い。
これはいい話題では無いとすぐに感じとったエランドルはそのエルフに問う。
「表情を見るにあまり良い事では無いな。 今起こっている森のことか?」
「いえ、そのことではありません!」
「別件と……」
「はい!」
エランドルはまた問題が増えるのかと、頭を抱えながらため息を吐く。
そして、視線をそのエルフに戻すと、口を開く。
「それで内容は?」
「…… 侵入者です」
「侵入者だと? 久しぶりだな、種族は?」
「人間種が二人」
「人間種か…… ならば警備の者達で大丈夫だろう。 確か今日は30人ほどだったか? 分かってると思うが、生きては帰すなよ」
「いえ、それが……」
侵入者が来た時にはこのように報告し、このエルフはいつも暗い表情を浮かべている。
だが、それでも了解しましたと言い、部屋から出ていくのだが、今日はそれが無い。
一体何なのかと訊こうとした時、屈強なエルフは重い口を開く。
「警備に当たっていた30人全滅しました」
それを聞いたエランドルは机を力強く叩き、立ち上がる。
リアンドロも同じ気持ちなのか、驚きの表情を浮かべている。
それもそうだ、警備に当たっていたのは魔法と弓、そして剣を扱う精鋭中の精鋭。
しかもこちらに有利な地形。
なのに、人間如きに全滅。
信じられるはずがない。
だが、屈強なエルフから更に信じられない言葉が放たれる。
「戦闘時間を集計したところ、僅か五秒で全滅しています。 間違いなく強者、現在この集落に向かっています」
「…… 五秒?」
そんなありえない言葉を聞かされるが、エランドルは心落ち着かせる。
ここで混乱している暇はないのだ。
「出迎えの準備だ」
エランドルはそう言うと、息子と屈強なエルフを連れて家から出るのだった。
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