第101話 誘い
エムニアがジン達から離れて数分たった。彼女は既にゼフ達にバレないように尾行を始めていたが、彼女は近づくまで気づかなかった何かを感じ、恐怖していた。
(あいつ誰かが自分を襲いに来るのを待ってやがる…… なんだよあいつ…… 恐らく周りの奴隷はあまりの自然さに気づいてないな。 あれはヤバイ、あわよくばと思ってたけど、私が勝てる相手じゃない……)
エムニアは人1倍危機管理能力が優れており、今もジン達に黙って自分が殺そうと思っていた。しかし、それほどの能力を持つ者がこの距離まで近づかないと気づかないことにどれほどの存在かを彼女もまた認識する。
(とにかくあたしは自然にしてればいい。 あいつも流石にこうしていればわからないだろ。 今は兄ちゃんからのメッセージを待ちながら尾行すれば良い)
エムニアはそう思いながらゼフ達の後をつけて行く。今までバレたことは1度だけあった。ジンやサインズには劣るものの自分にもある程度の戦う力があり、それでなんとかその時は乗り切った。しかし、今はバレたら終わりという命がけの尾行をしている。足が止まりそうになるが、気力で動かす。
(それにしてもここまで本能が危険信号を出すなら能力も相当ヤバそうだな…… それはミリアに任すとして問題はどうやって殺るかだな。 流石に兄ちゃん達が2人がかりで倒せないってことはないと思うけど……)
その時懐にしまっていた丸い水晶のような魔道具が薄く光りだす。それにはメッセージの魔法が入っており、連絡できるようになっている。エムニアは魔力を込めると光が強まる。
『こちらジン、エムニア一旦撤退だ。 戻って来い』
(兄ちゃんもこいつがどれだけ危険か感じ取ったんだな。 かなりありがたい、ここには居たくなかったからな)
エムニアはそう思うと足早にその場から離れていった。
✳︎✳︎✳︎
(なんだ、襲ってこないのか。 暇だから相手になろうと思っていたが、相手も気づいたのか)
ゼフはそんなことを思いながらつい笑ってしまう。すると、隣で歩いているサンが顔を覗き込みながらゆっくりと口を開く。
「ご主人様どうされたんですか?」
「いや、別になんでもない。 おいレオ」
「どうしたんですか兄貴」
「お前は今日は帰っていいぞ。 明日も冒険者組合で集合だ」
「マジですか⁉︎ お疲れ様です!」
レオはそれを言うと、走って行きあっという間に見えなくなってしまう。
「ご主人様、どうして彼を返したんですか?」
「お前ならわかるんじゃないか? 前は盗賊やっていたんだろ?」
「申し訳ありません、何のことかさっぱり……」
「そうか、イチはどうだ?」
「彼が疲れていたから返したと予想しまっす」
「ハズレだ、それと明日から冒険者組合にはイチとニだけで行け。 俺は新しいおもちゃを見つけた。 これで残りの日数も暇をせずに済みそうだ」
その言葉で先程の言葉の深いところまではわからなかったが、また人が消えるのは理解した。最近になってイチとニはマシだという考えを撤回しそうになっていた。そんな中、続けてゼフは話す。
「それとサンは明日から俺と共に行動だ」
「え…… 私がご主人様と2人きりに……」
「嫌なら代わりはいるが……」
「大丈夫です!」
「なら問題ない。 あるとするなら1つだけ。 あまり人気の無いような場所に近づくな」
「どういうことですか?」
「この街にはデスGという蟲を5体連れてきていたんだが、最近人間の肉をやっていなかったからか凶暴化している。 今はバレないようにするならと自由にさせている」
「まじっすか……」
「ああ、来るときはコゾクメの後ろを透明化を使って命令通りについてきたが、どうやら腹が減るとダメみたいだな。 まあ、腹が減ってても俺がいれば大丈夫だが、今回はそっちに俺がいないからな。十分気をつけろよ」
ゼフがそこまで言う蟲にイチとニは恐怖するが、人気のないところに近づかなければ大丈夫だと言われたので、今はそれを信じ行動しようと思うだけだった。
(さて、これで奴らを炙り出せたらいいが、無理なら仕方ない。 こっちだって付けられているのはアザメロウの魔法でわかったが、誰かということまではわかっていない。 もし、これ以上行動を起こさないなら諦めざるを得ないな)
ゼフはそう思いながら進んでいく。目の前には宿が見え、今日は早い休息に入るのだった。
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