第74話 対抗戦前
あれから1週間が経ち、ついに対抗戦の日になる。召喚士のメンバー達は闘技場前に集合することを予め決めており、現在歩は夢を待つだけとなった。
「とうとうこの日がやってきたな」
「そうですね……」
デニーは緊張しているのか自信なさげに答える。
「デニー、そんな俯いてたら勝てるものものも勝てなくなる。 もっと胸を張っとくべきだ」
「そうだよね…… ありがとうカイモン」
「それにしても歩夢が遅いな」
「どうしたんでしょう? いつもこんなことないはずなのに」
「きっと歩夢は優しいから、少しでも長く圭太のそばにいるのかもしれませんね」
歩夢はこの数日でカイモンとデニーには圭太の容態について話していた。具体的な内容は話しかけても反応せず、まるで死んでるみたいということと、治る見込みはないということである。
「そういえばデニーは何の魔物を使うつもりなんだい?」
「フレアスライムを使うつもりだよ」
「どうしてそいつを選んだんだ?」
「理由としては単純だけど、今の僕からしたら1番強い魔物だからですよ」
「なるほど、戦い方は楽しみに置いとくとして魔物選びは前より良くなったな」
ゼフは横から素直に褒める。
「ありがとうございます」
デニーは喜び、最初よりかは大分緊張は取れたみたいだが依然として顔が強張っている。
「来たみたいだ」
カイモンが何かに気付きそちらに視線をやる。ゼフとデニー続いてその視線の先を見ると、こちらに歩夢が歩いてきていた。
「遅れてごめんなさい」
「大丈夫だよ」
「別に気にしてないからいいよ」
ゼフは全員揃ったことを確認すると口を開く。
「全員揃ったか。 それじゃあまずはこれを渡す」
ゼフは生徒達に1枚の紙を渡す。そこには自分達の席の場所や何試合目にやるかなど事細かに書いていた。
「え、1回戦目⁉︎」
デニーは驚いた声をあげる。
「そうだ、頑張れよ」
「うぅ…… 緊張してきた」
「ゼフ先生、どうして今これを渡したんですか?」
「デニーが緊張して眠れなくならないようにするためだ。それに、渡すために集まることで試合前にデニー言いたいことがあれば言えるだろう?」
歩夢は納得したようで頷く。
「デニー頑張れよ。 応援してるから」
「ありがとうカイモン」
「私も応援してる。 デニーは強いんだから自分を信じて」
「ありがとう歩夢」
ゼフは生徒達の話が終わったと判断すると口を開く。
「終わったようだな。 歩夢とカイモンは先に席を取っといてくれ。 俺はデニーを送っていく」
歩夢とカイモンもついていくと言いたかったが、ゼフが何を思ってこういうことをしたのか察して口には出さない。
「わかりました、先に待っときます」
歩夢がそう言うとカイモンを連れて闘技場の中へ進み始める。その背中が見えなくなるまで見送ると自分たちも動き始める。
「俺たちは別のとこから入る。 行くぞ」
デニーとゼフは並んで歩く。隣を見ると相変わらずデニーは少し怯えてるようだった。
「怖いか?」
「え?」
「別に恥じることじゃない。 だが、そういうわけではないがこれをやろう」
ゼフは立ち止まり、手を出すと異次元のようなところにつながる。そして、そこに手を入れる。デニーは驚いたが、更に驚いたのはゼフが取り出したものだった。
「これをお前にやる。 どうしても勝ちたい時に自分の魔力を込めて、割れ」
デニーが受けとったもの、それは手に丁度収まる長方形の鉱石の形をしており、溢れんばかりの禍々しい紫色のオーラを放っているものだった。
「これを割ったらどうなるんですか?」
デニーは恐る恐る尋ねる。
「心配することはない。 それは、もしもの時の保険だ。 使わなければいい話だ」
「そうですか……」
ゼフは話が終わると再び歩き始める。そして、5分ほどして選手専用の入り口に着く。
「ここから先はお前だけになる」
「心配しなくても大丈夫です」
「そうか、絶対に勝てよ」
それを言うとデニーが何かを言う前に去っていく。ゼフはとりあえず紙を見ながら席を探すことにした。
(久しぶりに来たが、広いな)
ゼフは少しばかり迷ってしまう。進むたびに多くなっていく人に吐き気が込み上げてくる。
(学園にはこんなに人がいたのか。 さっさと抜け出そう)
ゼフは人が少ない方へ移動する。しばらく彷徨ってると歩夢とカイモンの姿が見える。
「ここにいたか」
「あ、ゼフ先生」
「こちらです」
カイモンはゼフの席を教えられ、そこに座る。
「いいところだな」
「そうですね」
「デニーは勝てるんでしょうか?」
「お前はどう思う?」
「デニーがいる時には言えなかったんですけど、はっきり言って厳しいです」
「歩夢はどうだ?」
「私は勝てると思います」
ゼフは軽く考える仕草をとる。
「俺の意見としてはカイモンと同じだ。 だから、念のためにあるものを渡している」
「あるものですか?」
「ああ、そうだ。 それは見てのお楽しみだ。 それよりもそろそろ始まるぞ」
会場の熱気が1段と上がる。それは、2人の戦いのものか、はたまた別のものか。柵の門が開き、2人が出てくる。こうして1回戦が始まった。
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