第55話 疑い

「今日はここまでだ」


 戦闘場にてゼフがそう指示すると、生徒達はやってる事を一斉にやめ、ぐったりとしながら座り込む。


「今日も疲れたね」


 歩夢がそう言うとカイモンとデニーはそれに頷きながら口を開く。


「僕は疲れたけど…… まだ足りないな」

「今日はなんだか早く終わった気がしたけど気のせいかな?」

「今日は少し連絡があって早く終わらせてもらった」

「そういう事でしたか」

「とりあえずここに集まれ」


 歩夢達はその指示に従いゼフの近くに寄ると地面に座りこむ。


「さて、それじゃあ連絡を始めるが、もしも何か質問があるようならその度にするようにしろ」

「分かりました」


 代表でカイモンがそう答え、他の二人はそれに呼応する様に頷く。


「連絡としては一つだ。 それは最近よく起こってる爆発事件の事についてだ」

「爆発……」


 歩夢はつい口から言葉が漏れる。


「なんだ歩夢?」

「いえ、なんでもないです」


 歩夢はそう言いながら手を使い違うことをアピールする。


「そうか、話は戻るが爆発事件に関してだが、今のところ狙いも何もわかっていないみたいだ。 だが、俺の予想にはなるがこいつらはアヴローラを殺した奴らと同じだと推測できる」

「どうしてそう思うのですか?」

「カイモン、お前魔力痕っていうのを知ってるか?」

「はい、一応知っています。 魔法を使った時に残る魔力ですよね?」

「そうだ、そしてその魔力を詳しく調べれば誰がやったのか分かるというのも知ってるか?」

「知ってますけど…… それは不可能に近いです」

「それは何故だ?」

「今ある魔法だと、どのような魔法を使ったまでしか分からないからです」


 ゼフはそれを聞きながら歩夢の方に視線を移すと、何かに怯えているようだった。

 しかも、ただの怯えではない。

 何かを隠している怯え。


「普通はそうだ、だがそれを簡単に見分ける能力はある」

「それはどんな能力ですか!」

「…… それは魔力眼という能力だ」

「…… 魔力眼ですか? それは一体どういう能力なんですか?」

「魔力眼というのは魔力の種類を見分けることができる」

「種類?」


 そこにデニーが口を挟む。


「そうだデニー、似てる事があっても人によって魔力はどこかが必ず違う。 だから、この能力を使い今からアヴローラの家に残った魔力を調べる。 そうすれば誰がやったか分かるだろう」


 それを聞いた生徒たちは完全に理解したようだ。

 そんな中、カイモンが口を開く。


「そういう事ですか…… つまり、ゼフ先生がその能力を持っているという事ですか?」

「そうだ、正確には俺の蟲だがな」

「それで僕達はその犯人を探すというわけですか?」

「いや、それは危険すぎる。 ただ、このことをお前達に一応話しておきたかっただけだ」

「…… ゼフ先生はこの犯人を追うのですか?」

「そうだ、こいつらは俺の生徒に手を出したからな。 容赦はしない」

「もしかして一人ですか?」

「他に魔力眼を使う協力者がいればよかったんだが…… 残念ながら一人だ」


 歩夢はその言葉を聞き少し考え込む。

 ここで圭太の能力を出すべきかという事を。

 しかし、圭太にゼフが悪ということを聞かされてるので下手に話すことができない。

 一体どうすればいいのか。

 そんな歩夢を見てゼフは確信する。


(…… これはほぼ確定だな)


 ゼフは歩夢にゼフが悪という情報を教えられていると確信する。

 数日前からゼフの能力や蟲達について聞いたりしていたので疑惑はあった。

 しかし、確定的なものはなかった。だが、アヴローラの仇を討ちに行くと言ったのに協力者として魔力眼が使える圭太を出さなかった。

 これが確定要素となった。


(圭太という勇者は何を企んでいるんだ? 魔力眼は使えば少量だが魔力痕を残す事はしらなかったのか? 罠か? それとも……)


 そもそも魔力痕は時間の経過で消える。

 だから、ゼフは見慣れぬ魔力痕を見たとき魔力眼を使った事以外何も分からなかった。

 しかし、学園でたまたま圭太を見つけ、魔力の種類が同じだったのて、もしかすると良からぬことを考えていると思いこうしてはじめに歩夢を調べたのだ。


「歩夢、具合でも悪いか?」


 それを聞いた歩夢は一瞬身体がビクッと動く。

 だが、バレたわけではないのでホッとする。

 そんな歩夢に対してゼフ言葉を放つ。


「あまり無理はするなよ。 もし、悩んでいるなら後悔するまえに俺に相談しろ。 俺なら力になれる」

「大丈夫です…… もし何かあれば言います」


 歩夢は今作れる最高の笑顔を向ける。

 その笑顔には圭太の作戦がゼフにバレることを恐れたものだった。


「そうか、それならいい。 とりあえずは俺からの連絡は以上だ。 何か質問はあるか?」

「大丈夫です」

「カイモンと一緒です」

「私も大丈夫です」


 三人の生徒達が答えるのを確認したゼフはゆっくりと口を開く。


「長くなったが、今日はこれで終わりにする」


 その言葉で生徒達は立ち上がり荷物を取り扉に向かって歩き始める。


「…… 歩夢」


 ゼフは出て行こうとしている歩夢を呼び止める。

 歩夢はそれに振り向きゼフを見据える。


「すべてを信じるなよ。 たとえそれが信頼できるものだとしてもだ」

「…… 私なら大丈夫です。 ご忠告ありがとうございます」


 そう言った歩夢は扉を開けて出て行った。

 これで恐らく彼女は全ての事を疑うだろう。

 しかし、未だに自分の疑いが晴れたわけではない。

 だが、ゼフには歩夢の疑いを払拭する方法をすでに持っていた。

 パラサイトの原因が絶望の大きさということも判明した。

 後はゆっくりとその時を待でばいいだけだ。











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