第54話 恐怖
ここに集まったもの達は職業は違えど皇都の中では強い部類に入るもの達ばかりだ。
例えSランク冒険者が複数居ようと負ける事はないだろう。
しかし、そんなスライエルの思惑をを嘲笑うかのようにゼフが召喚したアイアンGに傷一つ付けることができていなかった。
「そろそろ分かっただろ? お前らでは絶対に勝てないという事を」
スライエルはその言葉にイラつき叫ぶ。
「お前ら! 一体何をしているんだ! 交代でいいから攻撃を休めるな!」
スライエルがそう叫ぶが、男達は行動に移さない。
何故なら分かっているのだ。
この魔物には自分達では勝てないと。
だから、その中の一人が代表で口を開く。
「スライエルさん…… あの魔物はおそらく物理攻撃に相当な耐性があります。 なので、これ以上攻撃しても倒せないです」
「だったら魔法を使え」
「…… 今なんと?」
「魔法を使えと言っている」
スライエルのその言葉に男達は驚きを示す。
何故ならこの場所は決して広いとは言えない場所であり、魔法など使おうものなら敵だけでなく味方までも大きな被害を受けてしまうからだ。
だが、そんな事はお構いなしにスライエルは口を開く。
「どうした? はやく魔法を使え。 魔導士がいるだろ」
「ですが…… ここで魔法を使うと……」
「構わん、お前らにいい事を教えてやる。 ここを脱出しなければどのみちこの男に殺される。 だったら一人や二人の犠牲など気にするな」
「わ、分かりました……」
男達はそれに渋々了承する。
スライエル言ってることは確かに正しい。
脱出を最優先とするならそれが最も良い方法だろう。
しかし、それはスライエルが自分達の命をなんとも思ってないという事だ。
いや、そんなのは元々知っていた。
人の命をなんとも思っていない人の皮を被った何か。
だが、それでも他に何かいい方法を思いつかないので指示に従うしかないのだ。
「近接職のものは魔道士を守りながら戦え! これから魔法を撃つぞ!」
男は全員に聞こえるように叫ぶと、直ぐに行動に移す。
魔道士はわずか三名、すぐに詠唱を始める。
それを見てゼフは感心する。
「犠牲を厭わない戦い方か。 そういう戦い方は非常に厄介かつ強いと決まってるからこちらも仕掛けさせてもらうぞ」
そう言うとゼフの前に立っているアイアンGが命令を下す。
すると、アイアンGは丸太のように太い脚をゆっくりと動かし始めた。
「アイアンG、スライエル以外は殺せ」
それを聞いたアイアンGは歓喜に震えたおぞましい奇声をあげる。
まず最初の犠牲者はゼフを殺した剣士の男である。
アイアンGに近づいた男は剣を振るう。
「ふん!」
避けないことを知ってからかフェイントを入れるとか、力を抑えるような事はしない。
しかし、それは予想していた通り簡単に弾かれる。
それと同時にアイアンGが片手を伸ばす。
男はそれを剣で受け流し懐に入ると剣を斬り上げる。
「おら!」
まともに腹に直撃するも、やはりビクともしない。
アイアンGは逆の手で男の頭をつかもうとするが、それも後ろに引きながら避けられてしまう。
「勲章をやりたいレベルだな。 まさか二回も躱すとはな」
「はぁ、はぁ…… ふざけるなよ。 すぐにこいつを倒し、お前のとこに行ってやる。」
男はたった数回の攻防でかなりの体力を奪われてしまっていた。
その理由としては、この二回は本当にギリギリ避けることができ、死なないために全神経を集中させていたからである。
「どうした? かかってこないのか?」
ゼフはそう挑発するが簡単には乗らない。
ああは言ったものの実際に行動するとなると難しい。
今の攻防でギリギリ助かった。
少しでも気を抜けば死んでしまう。
「…… 代わるぞ」
剣士の男の後ろから斧を持った斧士の男に声をかけられる。
「ああ、頼む」
確実にゼフを殺すため少しばかりの休息に入る。
そもそも場所が悪い。
一対一でしか戦う事しかできない狭さ。
それにアイアンGがその狭い部屋でゼフと自分達の間に立っており、直接殺りに行くこともできない。
しかし、そんな場所だからこそゼフはそこに立っているのかもしれないと考える。
「いくぞおおおぉぉぉ!!! オラアアアァァァァ!!!」
斧士の男が覚悟を決め叫びながら突撃する。
しかし、アイアンGが男の頭に目掛けて今までにない速さで手を伸ばしてくる。
それに男は全く反応ができず掴まれる。
「くそっ! 離しやがれ!」
男は抵抗するがビクともしない。
そして、アイアンGは手に力を徐々に入れていく。
ミシミシと男の頭少しずつが潰される音が響く。
「ああああああああああ!!!」
男は苦痛で叫ぶが、他の者は助けない。
いや、助けることができない。
そして、数十秒の時を経て頭が割れる音が響く。
そして数秒後、大量の血が男の頭から流れる。
「まずは一人だな」
それを見た剣士の男は理解する。
ゼフという男は苦痛を与えながら殺してくると。
それは他の者も感じ取ったのか恐怖で動くことができない。
「次だ」
できれば戦いたくない。
だが、戦わなければ勝つことはできない。
そんな緊迫した状況の中、一人の剣士が飛び出す。
しかし、斧士と同じように頭を掴まれると、数十の時を経て頭を潰される。
(なんだよ……)
剣士の男は罪のない人を殺すことはあった。
ここにいる者達は大体そういう集まりである。
だが、苦痛を与えて殺すことなどはしなかった。
それは見るに耐えなかったからである。
しかし、目の前の男は平気でそれをやってのけ楽しんでいる。
人の生存本能が逃げろと選択してくる。
「もう少し遊びたいところだが、明日も授業がある。 終わらせるぞ」
ゼフはそうに口を開くと、アイアンGは一歩じさつゆっくりと男達に近づいていく。
それに耐えきれられなかったのか、反対側に逃走を始める者も現れる。
しかし、そこにもアイアンGが待ち構えており一瞬で命を刈り取られる。
「きたぞ!」
そこに一筋の光が差す。
魔法の詠唱が終わったのだ。
「お前ら今すぐ避けろ!」
男達はすぐさま魔法の軌道からから避けるようにして逃げる。
「「「『フレアインパクト』」」」
魔導士達がそう叫ぶと、巨大な火の玉が三アイアンGに飛んでいく。
それをアイアンGは避ける事は無く見事に直撃する。
その蟲を火が包み込み燃え盛る。
これを食らえばひとたまりもないだろうと誰もが思った。
「よし、魔導士は次の詠唱に入れ。 近接職は魔導士を……」
しかし、それを言い終わる前にゆっくりと現れたのだ。
火の中から無傷のアイアンGの姿が……
「嘘だろ……」
倒せてなくても傷くらいはつくと思っていた。
だが、それは叶わなかった事で再び絶望する。
「くそが!」
恐怖でおかしくなり男達は突撃するが、それも意味を為さないかのように絶命する。
そして、あんな苦痛は味わいたくないと、自殺するものまで現れ始める。
「やり方は悪く無かった。 だが、相手が悪かったな」
ゼフはそう語りかけるが、恐怖のあまり返事は返ってこない。
殆どの者が叫んでいる。
その間にもアイアンGは次々と頭を潰していく。
「さて、スライエルはどこだ?」
ゼフは少し歩き回り視界の端にそれを見つける。
スライエルはカウンターの裏で縮こまり震えていたのだ。
「こんなとこで震えていたか。 だが、安心しろ。 お前は俺が直々に遊んでやる」
スライエルにとってそれは考えたくもない事だった。
ちらっとゼフの方を見ると悪魔のような微笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます