第36話 闘技場

 皇都に滞在してから早くも三日が経った。

 その間何をしていたかと言うと主にこの街についての情報収集である。

 だが、鉱石については何も出てこないでいた。

 流石にこの短期間では仕方ないと諦める。

 別にパラサイトを使う手もあったが、あれは普通の精神状態では使うことができない。

 だから、これほどまで面倒なことをやっているのだ。

 ゼフは渡された紙を見て呟く。


「それにしても場所が分かりにくいな。 シルヴィア、ここがどこか分かるか?」


 そう言いながらシルヴィアに紙を見せる。

 すると、頷きながら口を開く。


「こっちよ」


 シルヴィアはそう言うと、ずかずかと進んでいきゼフを目的地まで案内する。

 答える傾向が未だに分からない。

 いや、不具合なのだからそういうものは無いのかもしれない。

 だが、今は集めた情報の整理である。

 主に魔族との戦争について調べ上げており、そこで分かったのは人間からは攻めることはせず、魔族から攻められるのを待つという防衛戦をしているということ。

 そして、その戦争は皇都のみ参加しているという二つである。

 他にも人間の街があるというのに、皇都だけ参加しているというのが気がかりだが…… それも情報が足りなさすぎる。


「着いたわよ」


 そんな事を考えているとシルヴィアに声をかけられる。

 ゼフは顔を上げるとなんとそこには、大きなドーム型の建物があった。


「これが闘技場か。 なかなか立派なものだな」


 これは正真正銘彼の本音である。

 ゼフは端から端まで観察すると中に入って行く。

 暗闇の中を進んで行き、しばらくすると光が見えてくる。

 光の中に飛び込むと、真ん中に設置された地面が土の広大な戦う場所、周りにはそれを見る用の沢山の椅子がそれを囲むように並んでいた。


「外も中々だったが、中も素晴らしい出来だな」


 ゼフは素直に賞賛をおくりながら、とある人物を探す。


「レンはどこだ?」


 シルヴィアからは特に返事が無かったので、ゼフはしばらく歩き回ることにする。

 そして、数分後こちらに手を振っている人物を見つける。

 近づくとレンが満面の笑みで迎える。


「やぁ、ゼフ。 迷わずに来れたみたいだね」

「当たり前だ」


 ゼフは自分だけでは迷ってしまってこの場所に来れなかったことを棚に上げ見栄を張る。


「そんなところに立ってないで横に座りなよ」

「すまないな」


 そう言うと素直にゼフ達はレンの隣に座る。


「さて、後10分程で剣士達の戦いが始まるよ」

「一つ疑問なんだが俺はいつから出るんだ?」

「それぞれの職業の試合が終わる頃には夜にはなってるだろうからおそらくそれからだね。 その頃には観客も今より増えてると思うよ」

「祭りみたいだな」

「そういう部分もあるからね。 それに誰が最強か戦う者もそれを見るものも知りたいというわけさ」

「なるほど、それで前は殺すことは禁止と言っていたが本当に禁止なのか」


 ゼフはこの戦いのことを調べていた。

 毎年のように出る死者、そして職業の中で二番手が教師になったという情報も少なくない。

 レンは不敵に笑いながら口を開く。


「それは建前さ。 ああ言わないと中々集まらないからね。 因みに逃げるようなことをすればどうなるかわかってるよね?」

「殺されるのか?」

「そうだよ、過去にいくつもあった。 それを聞いてゼフも逃げ出すかい?」


 ゼフはつい笑みがこぼれてしまっていた。

 余りにも闇が深すぎて。

 そして、それを全く隠そうとしないレンを見て。


「いや、むしろ素晴らしい祭りだと思ってね」

「そうかい、それは嬉しいよ」


 そうこう話しているうちに一試合目の始まる鐘の音が聞こえる。

 観客の歓声がそれと同時に場内に響き渡る。


「始まるみたいだな」

「よく見ておくといいよ。 自分が戦う者達がどれほどの強さかを」

「ああ、分かった」


 ゼフはその助言を素直に受け入れる。

 だが、そんな事をしたところで恐らく結果は変わらないだろうが。

 今は戦いを見物するという前の世界では考えられない行動を楽しむことにする。


✳︎✳︎✳︎


 辺りもすっかり暗くなり、その頃には全ての職業の一位が決まっていた。

 勝ち上がった者はレンが話していた通りになったが、気掛かりなのは出ていた職業が戦士、剣士、魔導士、弓士、斧士、拳士の計六つだったことであった。

 どれも血を血で争う熾烈な戦いであったのは確かだが、職業があまりにも少なすぎる。

 いや、今更そんな事いちいち驚いてられない。

 自分がいた世界だって未だに発掘されていない職業があるのだから。

 戦いを見た感想としては、楽勝という所である。

 ゼフは席を立ち上がると口を開く。


「それじゃあ、俺はそろそろ行くぞ」

「君の活躍期待してるよ」


 そう言うとゼフは待合室に一直線に向かう。

 人混みが多く道に少し迷ってしまうが、それらしき道を見つけ出すと疑うことなく進みだす。

 そして、心の中で予選の光景を思い出す


(まさか予選で10人も死ぬとは思わなかったな。 だが、これで思う存分やれる。 殺したとしても二位の奴が変わりを務めるみたいだなしな。 それに二位の奴は自分を教師にするために他の職業の奴に金を渡して殺してもらうこともあるらしいしな)


 人間の醜さが垣間見えるこの試合はゼフにとって楽しみ以外の何物でもなかった。

 そんなことを考えてるいると待合室と書かれた部屋の前に到着する。

 扉をゆっくり開くとそこには服装や武器が様々な六人の人間がおり、こちらを鋭く凝視していた。

 ゼフはその者達の視線を無視して椅子に座る。

 すると、一人の男が近づいてきて話しかけて来る。


「よう、お前が俺の対戦相手の召喚士か?」

「…… そうだ

「よくノコノコとこの場所に来れたな。 それだけは褒めてやる。 だがな、俺は雑魚一方的にを痛ぶるのは嫌いなんだ。 そこで、俺は最初の一分間は攻撃しないでおいてやる」


 その男はニヤニヤと見下すように笑う。

 もし、ここに何も命令していない蟲がいたならこの男は既に肉塊になっていただろう。

 しかし、蟲達には攻撃しないことを伝えているのでその心配はない。

 ゼフはその男の顔を見ながらゆっくりと口を開く。


「そうか…… それは助かる」

「アハハハハハハハハ!!!」


 ゼフがそう言うとこのやり取りを見ていた大男が笑いはじめた。

 他の者達は集中しているのかこちらを見ることすらしない。


「なんてずぶてぇ奴だ。 気に入ったぞ、俺はお前を応援してやる」

「おい、ゴンズ静かにしやがれ」

「なぁに、お前が負けなければいい話だろ」

「チッ」


 そう言うと男は勢いよく座る。

 そして、睨みながら口を開く。


「召喚士、これだけは覚えておけ。 お前の命はこの戦いで最後だ」


 そう言うと男はそこからは黙り、代わりに大男が近づいてくる。


「よう、改めて名乗らさせてもらうぜ。 名前はゴンズ、ランクはSSランクだ。 よろしくな」


「ゼフという。 ランクはAだ」


 そういうと向こうが手を出してきたのでこちらも出し握手をする。


「それにしても召喚士でAとはお前なかなかやるな」

「大したことない」

「記念にいいことを教えてやる。 お前の次の対戦相手はヴァルムと言うんだが、俺と同じSSランクだ。 つまり、はっきり言ってしまえばかなり強い」

「それは分かっている。 それを理解した上でここにいる」

「やっぱお前はおもしれぇな」


 ゴンズがそう言った瞬間、扉が勢いよく開かれる。

 そこには一人の男が立っており、部屋を見渡しながら口を開く。


「ゼフ、ヴァルム準備してくれ」


 二人は同時に立ち上がり待合室から出る。

 ヴァルムはこちらを睨みながら呟く。


「ゼフと言ったか? せいぜい足掻けよ?」


 ヴァルムは笑いながら自分の準備場所に向かって行く。

 ゼフもそれを見届けた後、反対方向に歩き始めた。

 因みに少し迷ってしまった。

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