虐殺

第27話 始まり

 青い空、白い雲。

 今日も良い天気に恵まれているのは、魔族が住む領域のある街。

 名前をセレロンという。

 そこに住む魔族達は見た目は人間のようだが、角が付いていたりと意外と違うところが多い。

 そして、噂通り人間を下に見る傾向も強い。

 そんな街の入り口、そこで警備をしている二人の魔族の内一人が呟く。


「今日も暇だな、ダレス」

「そうだな…… ニード」


 立派な角や翼、そして尻尾が生えているその魔族達はそう言いながら暇を潰そうとする。

 魔族の角や翼は立派であればあるほど強いと言われている。

 彼等はと言うと、二人とも立派な角を持っている。

 そんな中ニードが口を開く。


「やっぱ、イースト側の街に住むべきだったかな…… あっちは頻繁に戦争してるみたいだし」


 イーストとは何か、それは聖都と反対の場所を示す言葉である。

 また、聖都や王都がある場所をウエストと呼ぶ事をにしている。

 それを聞いたダレスは呆れる。


「本当にお前はいつもそれだな。 魔族らしいというか何というか…… それならイーストに移住するか、セレロン闘技場に通えばいいだろ……」


「いや、俺は移動する気は無い。 あっちを支配している魔王は、俺には合わない。 それに俺は人間に絶望を与えながら殺したいだけだからな」

「本当にお前は根っからの魔族だな。 俺も少しはそう思うが、ウエスト側にいる12人の勇者と怪物だけには戦いを挑みたくないな……」

「そりゃそうだろう、あんな狭いとこなのに魔王と互角かそれ以上の実力とか、どんな化け物だよ」

「でも、イースト側を落としたら攻めるんだろうな……」

「分からん、だが多分攻めるだろうな」

「人間が滅んで安全に暮らしたいものだな……」

「お前はいっつもそんなこと言ってるな。 まぁ、それは10年後かもしれないし、今日かもしれないけどな」


 そんなこと思いながらも、聖都に一番近いこの街で働いているのは、単に時給がいいからである。

 そうでなければ、絶対にやる事はない。


「そういや、ダレス」

「なんだ、ニード?」

「今年行われるらしいぞ」


 何がとは聞かない。

 それは魔族なら誰もが知る事。


「魔王を決める戦い…… 魔王戦か」

「そうだ、一緒に観に行くか?」

「まだ予定が合うか分からん、また言うわ」

「そうか、わかった」


 ニードがそう言うのを聞くと、ダレスは魔王戦について考える。


(確か…… 前回行われたのは10年前だっけ? あの時は本当にグリムガム様がかっこよかったな。 さて、今年はどうなるか)


 グリンガムとはセレロンの現魔王のことである。

 そして、魔王とは街の中で最も強い者のを指す。

 魔王戦はそれ決める大会であり、約10年程の間隔を開け行われているが、今のところ現魔王よりも強い者が現れていない。

 それ程までにグリンガムは強いのだ。

 ダレスはそんな事を考えながら、思い出したかのように口を開く。


「そういえば、今年は誰を応援するんだ?」

「そうだな…… やっぱりグリンガム様だな。 前の戦いを見て惚れてしまった」


 ニードは満面の笑みをダレスに向ける。


「そうか…… 俺は誰にするかな……」


 ダレスが考えていると、視界に生物の姿が入る。

 魔族だからこそギリギリ視認可能な距離。

 そこに二人組の姿。

 ウエストから来る二足歩行の生物は様々だが、その者達が何の種族なのかは、言わなくても理解する。

 ニードもそれに気づいたのか、声をかけてくる。


「ダレス」

「ああ、お客さんだ」


 二人組はゆっくりと、そして着実に距離を縮めてくる。

 向こうもおそらく気づいてるようだが、その歩みを止めることはない。

 ほのかに香る人間の匂い。

 隣のニードを見ると、堪え切れないのか満面の笑みを浮かべている。


「ちょうど退屈していたところだったんだ。 少し遊んでやろうか」

「ニード油断するな、あの人数で来るということはかなりの強者かもしれない。 まずは、慎重に侮られない態度で行くぞ」

「ああ、わかっている」


 そんな事をしていると、二人組の人間はダレス達の目の前で足を止める。

 二人とも仮面にマントという珍しい格好をしており、不思議に思っていると、片方の仮面の人間が話し始めた。


「魔王に会いたいのだが、通してもらえないか?」

「人間…… お前は魔王に会うことも、街に入ることもできない。 今すぐ立ち去れ、そうすれば命だけは助けてやる」

「魔王にはやはり会えないか…… どうすれば会うことができる?」

「土下座しろ、そうすれば街の中まで案内してやるかもな?」


 ニードはニヤニヤと笑いながら答える。

 完全に相手を格下に見て遊んでいる。

 それを見かねたダレスは前に出る。


「連れが失礼なことを言ったことは詫びよう。 だが、それはそれだ。 自分の名前も職業も名乗らない怪しい者を通すわけには行かない」


 仮面の男はそう言われ、少し考える仕草をすると、ゆっくりと口を開く。


「分かった、名乗ろう。 俺の名前はゼフ、職業は召喚士だ」

「…… 召喚士だと? あの最弱の? それが本当なら傑作だな」

「ニード、だまれ。 それでここには何をしにきた?」


 ダレスがそう質問すると、ゼフは声を漏らしながら笑う。

 ダレスは特に面白い事を言ったわけでは無い。

 少し…… いや、かなり不快になる。

 だが、感情を表に出さない。

 そんな事をしていると、ゼフは話し始める。

 

「そうか、何をしにきたか。 面白い質問だな」

「こちらは少々不快だかな……」


 ゼフにそう言い返すが、特に気にして無い様子だ。

 普通ならば気にしない態度だ。

 だが、何故かこのゼフとい男が不気味に感じてくる。

 しかし、召喚士など自分達の相手になる筈無い。

 そう自分に言い聞かせる。

 そんな事を考えていると、ゼフは意気揚々に話し始める。


「最初の犠牲者になるお前達に教えてやる。 魔族を滅ぼしにきた」

「ハハハハ! こいつ頭おかしくなっぞ。 なぁ、ダレ……ス」


 ダレスの真剣な表情を見て、ニードの言葉が詰まる。

 もしかすると彼は何かを感じてるのだろうか。

 そして、ダレスは恐る恐る言葉を放った。


「もし、それができるとして…… どうするつもりだ?」

「こういうつもりだが?」


 ゼフがそう言うと、近くの地面が盛り上がり始める。

 それはどんどん高かさを増し、それに伴い土が崩れ、砂埃が立つ。

 そして、土が全て落ち、砂埃がおさまるとそこにはデスワームが口を開けながらダレス達を睨んでいた。

 それを見たニードとダレスは叫ぶ。


「で、デスワームだと⁉︎」

「おい、ダレス俺は夢でも見てるのか? なぁ!」


 ニードとダレスは急いで逃げようとするが、身体が思ったように動けない。

 彼らは理解しているのだ、自分達では勝てない存在だと。

 最初は遊んでやるつもりだった。

 確かに嫌な予感はしていた。

 しかし、まさか召喚士がデスワームを召喚などできるとは思わなかった。


「さっきの威勢はどうした? 来ないならこちらから行かせてもらうぞ?」


 特に何も言わず固まっているダレスとニードに飽きたゼフはデスワームに命令する。

 すると、勢いよくよくダレスとニードに向かい、大きな口を広げる。

 そして、彼等はそのまま何もすることなく飲みこまれていってしまった。

 

 








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る