第21話 森の中

 ゼフ達が森に入って一時間経ったが、未だに魔物に出逢わすことはなく、安全に王都へ歩みを進めていた。

 これもゼフがシルヴィアを絶対に殺させない為に、森の魔物を狩り尽くしたお陰である。

 

「王都まで後どれくらいなんだ?」


 ゼフはそうキールに尋ねる。


「多分後一日ぐらいじゃないかな?」

「……そんなにかかるのか?」

「まあね、ここらへんの魔物は多いし凶暴だからね。だから、慎重に行ってるんだよ」

「そうか、分かった」


 それから再び時間が過ぎてゆく。

 ここまで無防備なのに襲ってくる魔物の気配すら感じない。

 それを感じとったキールはゼフを見つめる。

 そして、今まで抱いていた一つの疑惑が確信へと変わる。


(今まで、この森ではデスワームに襲われ、行方不明になってる人が多数いるのに……ゼフがデスワームの召喚主である可能性が高まったな)


 キールは他の勇者を見つめると、同じことを思ったのか視線で合図をする。

 流石は勇者と言ったところだろう。


(……もしも、王都に着くことができたら彼で確定だ。その時はゼフがすべての元凶か問いただし、罪を認めさせよう)


 キールはそんなスイーツのように甘い考えを心の中で呟く。

 彼は非常に優しい性格であり、確信があったとしても、ひとまず話を聞くというのが彼のやり方である。

 さらに、自分の能力に過信しており、穏便に事を済ませてきたので死ぬことはないと、少し傲慢なところもある。

 だから、他の勇者が彼について来てくれているのだ。

 やがて、日が落ちて、辺りが暗くなる。

 キールは歩みを止めて口を開く。


「今日はここで野営の準備をしよう」


 そう言うと、他の人達も同じように歩みを止める。

 それを確認したキールは指示を出し始める。


「僕たち勇者組はテントを張ろう。アヴェイン、シルヴィアは飯の準備をしてくれ」

「了解」

「分かったわ」

「俺はどうしたらいい?」

「ゼフはインスが話したいことがあるらしいから、そっちを頼む」


 そう言われたので、ゼフは一瞬インスを見ると笑顔でこちらに手を振っていた。

 ゼフは別の意味で殺される気がし、背筋に悪寒が走る。


(少し危険だが、インスの能力が分かれば上々だな)


 ゼフはそんな事を考え、腰の部分に潜んでいる操蟲を触る。


「大丈夫だ、俺も聞きたいことがあるからな」


 インスをまたチラッと見ると、喜びに満ちた表情を浮かべている。

 ゼフは自分が言ったことを少し後悔しながら、インスの元に向かう。


「はい〜、ゼフちゃん。改めまして魔導士の勇者のインスよ」


 そう艶やかな声を出すインスにゼフは腹をくくり、単刀直入に聞いてみることにする。


「それで俺に何の用だ?」

「話は少し奥でしましょ。誰にも聞かれたくないの。幸い今日は魔物と会ってないからね」


 確定だと思った。

 だが、能力は聞き出したいし、襲ってきたとしても操蟲がいる。

 ゼフはゆっくりと口を開く。


「……いいだろう」


 そう言い、ゼフとインスは森の奥へ向かい歩き始めた。

 しばらく歩いたところで、インスが立ち止まり話し始める。


「ゼフちゃん、私が話したいことってのはね二つあるの」


 ゼフは身構える。

 いつ襲われてもいいように。


「そんな身構えないで頂戴。別に貴方をとって食おうとは思ってないわ。けど、貴方がそれを望むなら、そういう展開にならないこともないけどね」


 インスはゼフにウィンクをする。

 ゼフはさらに身構え、操蟲をいつでも出せるように準備をする。


「用件をさっさと言え」

「今から言うからそんな焦らなくてもいいわ。 一つ目は私個人として気になることよ。貴方の仮面の下のことよ」

「なんだ、そんなことか。別に見たいなら見せてやる」


 どうせ死ぬやつに見せても問題ないだろうと、ゼフは仮面を取る。

 これでインスの対象から外れるだろう。

 そう思っていたが……。


「あら〜いいじゃない。仮面なんかせずにそのままの方がいいのに〜」


 外したことを後悔する。

 非常に苦手な相手だ。


「これには理由があってつけていたが、もう要らないかもな」


 そう言い、ゼフは再び仮面をつける。

 インスはその発言に違和感を覚える。


(もう要らないってどういうことかしら? いいわ、問題は次ね)


「二つ目はあなたの強さよ」

「強さだと?」

「ええ、貴方は勇者でもないのに、召喚士としてCランクまで上り詰めた。これだけでもかなり異例よ」

「俺はほとんど戦っていない。ただサポートに回ってランクを上げたにすぎない」


 すると、インスはクスクス笑いだす。


「嘘は嫌いよ。アヴェインちゃんから貴方の蟲の強さは聞いてるわ」


 ゼフはそれで何となくインスの狙いを理解する。


(つまり、俺の強さと同時に蟲の強さも調べたいということか……)


 特にデメリットも考えられないし、変に断れば疑われると思い口を開く。


「俺は何をすればいい?」

「簡単なことよあなたの蟲で、私に一発攻撃いれて頂戴」

「それでいいのか?」

「ええ、心配しなくても私は防壁魔法のバラテクト張ってるから、ダメージはほとんどないわ」


 さらにアップポテンシャルで物理・魔法防御もあげているが、それは敢えて隠す。

 ゼフは少し考える動作をとると、ゆっくりと口を開く。


「じゃあ、やろう」


 インスはその一連の動作で気付いてないと思っているが、それは違う。

 ゼフは探知魔法により既に気付いている。


(防壁魔法は最低でも十枚は張るべきだ。それにアップポテンシャルしか使ってないのもマイナスだな。能力上昇系の魔法は五〇は使わないとな)


 ゼフがそんなことを考えていると、不思議に思ったのかインスが尋ねてくる。


「どうしたのゼフちゃん?」

「いや、すまない少し考え事をしていた」


 所詮は大したことのない相手。

 そう決め付け、ゼフの腰のに隠れていた一体の操蟲を元の大きさに戻す。

 操蟲は久々に服の外に出れたのが嬉しいのか、奇怪な声を上げながらそこらへんを長さを変えてうねうね動いてる。


(久しぶりに外に出れて喜んでいるな。可愛い奴め)


 ゼフはインスの方を見てみると、まさかゼフの腰から蟲が出てくるとは思わなかったのか、怯えているようだった。


(あの蟲はかなりやばいわ……だけど、攻撃を受けると約束してしまったのも事実。仕方ない……一発だけ受けてあげるわ)


 インスは自分が死んだ時、キール達に自分が見たものを共有する能力を念のため使う。

 それにより、自分がたとえここで死んでもいいよう保険をかける。

 そして次の瞬間、操蟲が鞭のように横腹に入る。

 インスの目ではそれに追いつけなかった。


「いたあああぁぁぁ!!! ……くない?」


 直撃、普通なら死んでるであろう攻撃。

 だが、結果としてはまるで赤ん坊に小突かれたような、全くもって痛みと言っていいかわからないものであった。


「当たり前だろ。お前は俺を過大評価しすぎだ」


 そう言うと、操蟲は小さくなりゼフの腰に隠れる。


「見苦しいところ見られて恥ずかしいわ」

「頬を赤らめるな、戻るぞ」

「分かったわ。でも、あの蟲のことみんなに話しなさいよね」

「ああ、分かった」


 ゼフとインスはキール達の元にゆっくりと戻るのだった。


✳︎✳︎✳︎


 ゼフとインスが森の奥に行くのを見届けると、キールは残っている人を集めて話し始める。


「正直ゼフが犯人で間違いないと思う」

「やっぱり……」


 シルヴィアは自分の考えが正しかったことに、声が漏れてしまう。

 だが、そうは言っても自分達がバレてもいい理由にはならない。


「それでインスには実力を図るように指示してある。もしも、何かあれば僕たちにその情報を共有する能力を使ってね」

「そうですか……でも、俺達が見た限りゼフとその蟲達は勇者達に比べれば弱いと思います」

「念のためだよ」

「そういうことだ、アヴェイン。弱かったらそれはそれでいいからね」


 そう話しているキールの話にアレックスが割り込む。


「一応デスワームを召喚してない時の戦力を測る目的もあるしな」

「そういうことですか……」

「それで、明日やることなんだけど、もし王都に着いたら彼を問いただす」

「もし、着かなかったらどうするんですか?」

「その時はその時だ、また話すよ。それじゃあ、ゼフとインスが帰って来るまでにやることを終わらすよ」


 話し終えると、各自の持ち場に戻る。

 それから少し経ってゼフとインスが帰ってきた。

 結果としてはゼフはあまり強くないらしい。

 それを知った一行は息をつく。

 そして、そこからは何かあったというわけではなく、普通に晩飯を食べ、眠りについた。

 だが、運がいいのか悪いのか、シルヴィアの予報の能力が眠っている時に働いてしまう。

 そこに映っていたのは勇者とアヴェインが死ぬ光景だった。




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