第20話 王都への道のり
朝焼けの光が窓の隙間から差す。
ゼフは眩しさに負け、ゆっくりと瞼を開く。
今日は何だかとても機嫌がいい。
それもそうだろう。
何故なら、今まで我慢したのをぶつけることができるのだから。
だがらと言って、油断はしない。
「さて、勇者を殺すのはタイミングをどうするか……まあ、それは後で考えるとするか」
ゼフはあらゆる殺し方を頭の中でシュミレーションする。
それを考えるだけで、頬が緩んでしまう。
(アヴェインに関しても仕込みは完了してる。そして、エリックの死によりシルヴィアの絶望がより深くなっているのは確実だ)
ゼフはそんなことを考えながら、仕度を済まし宿屋を後にする。
特に何処かに寄る事なく、足早に冒険者組合に向かった。
約五分後、ゼフは冒険者組合に到着する。
そこにはアヴェインとシルヴィアといういつもの面子、そして勇者一行らしき者達が待っていた。
扉の開ける音で気づいたのか、全員がこちらを見る。
そして、一番に口を開いたのはアヴェインだった。
「来てくれたか! ゼフ!」
二日前に会った時よりも元気になったアヴェインが、そう叫びながら近づく。
それに続いて他の者達もゼフの方に近づく。
だが、その瞳からして決して歓迎されていないように感じ取れた。
「アヴェイン、あまり大きい声は出すな」
「ああ、ごめんごめん。久しぶりだったからつい……」
アヴェインはそう誤魔化しているが、ゼフは理解している。
自分が来ないかどうかを心配していた事を。
そんなことを考えていると、勇者と思われる者の一人が口を開く。
「初めましてゼフ。今日から一緒に同行させてもらう勇者のキールだ」
「初めまして、知ってるみたいだが一応名乗らせてもらおう。召喚士のゼフだ」
二人は挨拶をすると、握手を交わす。
しばらく握り合い手を離すと、キールが口を開く。
「ゼフ、勝手を言って悪いんだけど、他のメンバーの紹介は移動中で構わないかいかな?」
「ああ、問題ない。ただ、エリックがまだ来てないようだが……どうしたんだ?」
その瞬間、その場の空気が凍りつくのを感じる。
例え、知っていたとしてもシラを切り通す。
ゼフがやったということを誤魔化すために。
暫く静寂が続き、それに耐え兼ねたのかアヴェインが話し始める。
「実は……エリックは死んでしまったんだ……」
ゼフはそれに驚いた振りをする。
「そうか……それはすまない。一体いつ死んだんだ?」
「つい最近亡くなった。死因は分からない……」
「そうか……これは変な事を聞いてしまった」
「いや、いいんだよ。大神殿で蘇生魔法を受けたんだけどね……」
結局は生き返らなかったのだろう。
それだけ蘇生魔法のレベルも低いという事だ。
だが、それよりもゼフは違う事を考えていた。
(良くあの価格の蘇生を受けれたな。いや、勇者がいるからそれも可能か)
聖都の蘇生魔法は時間がかかる上、貴族ですら簡単には払えないほど高額である。
だから、一介の冒険者であるアヴェイン達にはとてもじゃないが払えない筈だ。
だが、それも勇者ならできると考える。
(勇者、金はあるようだが、果たして実力はどれ程なのか……)
ゼフはそんなことを考えながら、勇者達の顔を一人一人見ていく。
そして、探知魔法を勇者達に使う。
やはりというべきか、全く気づいてる様子はない。
能力的には確かにこの世界では敵なしの強さを秘めている。
もちろん蟲を使わないで、ゼフが単独で戦えば負けるだろう。
正直、Dランク冒険者にも負ける自信はある。
だが、蟲を使えば相手にならない。
だからと言って、これが全てだとは考えない。
慎重に動かなければ、また同じことを繰り返してしまうのだから。
そんな静まり返る場に、勇者のキールが言葉を放つ。
「色々あると思うけど、時間が迫っているから、そろそろ行こう」
その言葉にその場にいる者は全員頷く。
そして、キールが冒険者組合を出ると他の者もそれに続く。
そうして、一行は大量の荷物を持ち、王都に向かい始めた。
✳︎✳︎✳︎
歩くこと数分、早速ゼフ想定外のことが起こっていた。
(こっちは王都がある方角だ……もしかしてこいつら王都の調査をするのか? いや、しかし……)
ゼフは蟲達に他の生物を襲わないよう命令し、近くにいるキールに目的地を尋ねる。
「そういえば、目的地を聞かされていないんだが、どこに向かっているんだ?」
そう言うと、キールは振り向き笑顔で答える。
「聞かされてなかったのかい? 僕達は王都の調査に行くんだよ」
「なるほど、王都か……ありがとう」
ゼフはしっかり返事をする。
特に違和感を与えることなく答えられただろう。
しかし、内面は非常に焦っていた。
(蟲を隠す方法だが、森に隠れてもらおう。それに、透明化の魔法を使えばより確実だろう。俺の魔法の発動位置は……届くな。 これでおそらく大丈夫なはず……)
ゼフはすぐさま行動に移し、魔法や命令を下す。
正直な話、急遽行ったことなどで小さなミスはあるかもしれない。
しかし、これが今やれる精一杯なのも事実である。
そして、聖都を出て五分経った頃、勇者であるキールがゼフに近づいてくる。
「ゼフ、僕の仲間達を紹介する。ついて来て」
「ああ、分かった」
ゼフはキールに言われた通り素直についていく。
向かう先は一番前であり、その場所まで来ると、そこには他の勇者がこちらを興味深く見つめながら待っていた。
「紹介するよ、この大きな斧を担いでるのがアレックスだ」
体格はそこまで大きくなく、ゼフと同じくらいの若さを感じさせる。
とても高価そうな鎧をつけており、普通の鎧とは一線を画する程の力を感じる。
いや、勇者をよく見てみると、付けている量は違うものの、全員がそのような鎧をつけている。
流石は勇者である。
「アレックスだ。よろしく」
「ゼフだ、よろしく」
ゼフとアレックスは握手を交わす。
ゼフはこの中では危険な部類に入るだろうと感じる。
手を離したタイミングで、キールがもう一人の勇者を紹介する。
「次に杖を持っている変な奴がインスだ」
見た目こそ軽装だが、その鎧は綺麗な花模様が描かれている。
そして、ゼフが見た限りではインスは男に見えたのだが、どこか女をも感じさせる雰囲気がある。
「変な奴ってやめてよね〜。よろしくね、ゼフちゃん」
ゼフはアレックスと同じように握手を交わしたが、この勇者は別の意味で危険だと本能で警鐘を鳴らす。
「今、来ている勇者は以上だ」
「……少なくないか? 聞いた話では勇者は十二人で構成されているらしいが……」
「本当にすまない、他の勇者も誘ったんだけど、別の用件で忙しいのが七人。すっぽかした奴が二人で、このザマだ……」
「なるほどな……それは大変だな」
ゼフはすっぽかした二人は、本当に聖都の勇者なのかと疑う。
勇者とは正義の心を持つ心優しき人物とゼフは街で聞いていた。
しかし、どうもこのメンツや行動を見る限り、強さで選ばれてる可能性が非常に高く感じる。
そんな事を考えていると、森が見えてくる。
「よし、そろそろ森だ。みんな気を引きしめて」
キールがみんなに向けて叫ぶ。
その声で全員の顔が険しくなる。
(さてと、こいつらを殺した後、どうやって事故に見せかけるかを考えとかなくてはな)
ゼフは仮面の下で不敵な笑みを浮かべ、その時が来るのを楽しみにするのだった。
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