仲間

第14話 昇格

「おめでとうございます、今回の依頼でゼフ様のランクがEからDに昇格いたしました」


 そう告げられたゼフは、新たにDランクと書かれている冒険者カードを受け取る。

 王都を滅ぼし、蟲の住処にして約一ヶ月。

 ゼフは聖都を拠点とし、着々とランクを上げていた。

 もしも王都の冒険者が居た時の為に、今は仮面を被り、灰色のマントを羽織っている。


(一ヶ月でDランクか。もっと早く上がると思っていたが、この程度の依頼では無理な話か)


 そんな事を考えながら、ゼフは隣で直立不動の体勢で立っているビートルウォリアーの方に視線を動かす。

 聖都では、王都よりも召喚士の魔物に対してのルールは優しく、こうやって隣に居たとしても特に何も言われない。

 そして、現在は別の問題にゼフは悩まされていた。


(予報士というのが非常に厄介だな……まさか俺の世界にはない職業がこの世界に存在するとはな)


 ゼフが聖都に来て数日が経った頃、冒険者が予報士が王都の事件を予報していたと話しているのを小耳に挟んだのだ。

 運良く自分の名前はバレてはいないが、もしかしたらそれも時間の問題かもしれない。

 ただ、予報士は数が少なく、またその予報の的中率は低いらしい。

 だから、召喚士と同様人気の職業とは言えない。

 それでも決して見逃す事ができない脅威だ。

 それ故、大人しく真っ当に冒険者をやっているのだ。

 ゼフはそんなことを考えながら、目の前の受付嬢に口を開く。


「次にオススメの依頼は何かあるか?」


 そう受付嬢に問うと、にっこりとしながらそれに答える。


「はい、もちろんあります。今のゼフ様にオススメなのはウルフの討伐ですね。他でしたらハイゴブリンの討伐です」

「そうか、どっちにするか……」


 羊皮紙を受け取り、どちらにするかを考えていると、受付嬢がこちらを凝視しながら渋々口を開いた。


「ゼフ様、そろそろパーティを考えてみてはどうでしょうか?」

「パーティか……確かにその方が生存確率や効率が上がるかもしれないが、俺は一人がいい」


 ゼフはこのやり取りを受付嬢とかれこれ五日続けている。

 そろそろやめてほしいものだ。

 

(まあ、もうしばらくしたら諦めるだろう)


 ゼフは依頼を決めると、受付嬢に渡す。


「今回はウルフの討伐で頼む」


 受付嬢は少し残念そうな顔をし、両手で受け取る。


「分かりました、こちらの依頼では数の下限と上限はありません。なので一体につき銅貨四枚です。では、ご武運を」


 ゼフはそれを聞き、冒険者組合から出て行った。


(はぁ〜、どうしてあんなにも頑固なのかしら)


 受付嬢は心の中でため息をつく。

 最初来た時、召喚士が何ができるとバカにしていた。

 しかし、ゼフは一ヶ月でランクを上げてしまうほどの実力を兼ね備えていたのだ。

 だから、パーティに入ることを勧めているが、頑なに入ろうとしない。

 一体何が彼をここまでさせるのかと、頭を抱える。


(いつかは一人では倒せない相手が出てくるでしょう。きっとその時には自然とパーティを組むはず。それまで待ちましょう。どうか、その前に死なないでね)


 受付嬢は心の中でゼフの安全を願うのだった。


✳︎✳︎✳︎


 森に入ったゼフは一時間もしないうちに早速ウルフを見つけた。

 ゼフは自分で戦うのが苦手である。

 その中でも攻撃魔法がからきしであり、相手の能力を下げたり自分達の能力を上げたり、相手を妨害するのが主な戦い方である。

 召喚士だから当たり前だろと言われるかも知れないが、ゼフの知ってる召喚士は少なくとも攻撃魔法や防御魔法を使っていた。

 当たり前のことができないことにより、殆どを蟲に頼ってしまう形になっている。

 それが元の世界では致命的な欠点であった。


(元の世界で攻撃魔法を強化していれば、戦術の幅が広がったんだがな……)


 再び自らの意思を確認したゼフは召喚魔法を使う。


「来い、操蟲」


 そう言うと、二つの魔法陣が現れ割れる。

 そこには人と同等の大きさを持つムカデのような蟲の姿があった。

 この蟲の主な能力は大きさと長さを自由自在に変えることができる。

 攻撃手段としては、二つの大きな牙で相手を突き刺し、毒を注入するというものである。

 さらに、この蟲には他にも特徴的な能力がある。

 それは信頼関係があれば、他の生物と同化してその生物の武器として使うことができるというものである。


「まずは二体でいいだろう。この蟲を使えば俺自身の戦闘力が少しは上がる……はずだ」


 ゼフは少し心配しながらも、ゆっくりと操蟲の長い体を見ながら命令を下す。


「操蟲、俺の腰の部分に同化しろ。そして、俺が命令するまで小さくなって服の中に隠れてろ」


 すると、二体の操蟲はゼフの背中に自分の尾をつけ、徐々に同化していく。

 その時に特に痛みはなく、気づけば同化していた。


「不思議な感覚だな。まるで、腕が二本増えたかのような……」


 ゼフはウルフを見据える。


(まずは実験だな)


 ゼフは意識をウルフに集中させ、手を動かす感覚でウルフに向けてに操蟲を放つ。

 その時大きさは元に戻り、長さは倍以上になっていた。

 操蟲の牙がウルフを貫く。

 確認するまでもなく即死だ。


「良かった……あまり使ったことがない蟲だったから心配していたが、俺の意思で動くし、一瞬で大きさと長さを変えられる。まあ、問題点としては服が少し破けてしまうことだな」


 ゼフは破れた部分を少し触ると、操蟲の牙をウルフから抜く。

 そして、付いた血を払うと、服の中に引っ込め、小さくする。

 その後、回復魔法で破けていた服を直す。

 これで服の欠点はこの世界では無いに等しい。


「後はビートルウォリアがウルフを四、五体狩ってこい。探知蟲も行け」


 命令すると、服の中から探知蟲が姿を現し、草むらで隠れているビートルウォリアーと共に森の奥へと消えていった。

 そして、五分ほど経つと、ビートルウォリアがウルフの死体を五体引きずって帰ってきた。


「依頼終了だ、帰るぞ」


 ゼフはビートルウォリアと探知蟲と共に、ゆっくりと街の方へ向かい歩き始めた。


✳︎✳︎✳︎


 街に帰るとゼフは一直線に冒険者組合に向かい、受付嬢の元に行く。


「お疲れ様です、ゼフ様。今回も早いですね」


 時間は依頼を受けてから三時間程しか経ってない。

 普通はゼフと同じランクだと倍はかかるそうだ。


「ああ、今回も楽な依頼だった。それで間違っていないか確認してくれ」


 ゼフはウルフを収納魔法から取り出し受付嬢に見せる。

 どうやらこの世界では収納魔法というもの自体見つかっていないことになっている。

 最初は非常に驚かれたが、今ではこの通りだ。


「はい、大丈夫でございます」

「良かった、では報酬を頼む」


 ゼフはウルフを六体渡す。


「少々お待ちください」


 ゼフは言われたとおり、その場で待つ。

 そして、一分程経ち、受付嬢が布袋をジャラジャラさせながら持ってきた。


「ゼフ様、これが今回の報酬の銅貨二四枚です。 ご確認ください」


 そう言って渡されると、ゼフすぐに二四枚あるかを確認する。

 確認を終え、ゼフは口を開く。


「大丈夫だ、では俺はこれから宿に戻る。何かあれば百花という宿屋に来てくれ。それではまた明日も頼む」


 ゼフはそれだけを告げ、蟲達と共に扉の方へ歩き出す。

 だが、この時ゼフは気づかなかった。

 ある集団がゼフを見ていることに……。




















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る