第13話『異世界転生オンライン:双子の姉妹塔』
ここは『異世界転生オンライン』のカダスの山頂。山頂の白色ペンギンを討伐した銀星と虚子は、古城の双子塔に向かっていた。銀星は
虚子であればすぐにデータリカバリーによって右腕を復元できるであろうと考えていたのであるが、実際は少しややこしく、右腕が
虚子いわく『Ctrl+Z』でもとに戻すことがいない状況とのことで、両腕を使える状況にするためにはもう一度一からアバターを作り直さなければいけないとのことであった。
「なんでこんな嫌がらせするかね。ここの運営は。重課金者から批難轟轟だろうに」
「ここの山頂フィールドだけ妙に作りが凝っているあたり、完全に開発者の趣味だと思うなの」
「このフィールドだけ、なんか『空気』を感じるんだよな。なんというか現実感が凄いというか、解像度が高いというか。うん……」
そんな雑談を交えつつ、銀星は虚子に言われた指定の場所、『双子塔――妹』の禁書庫最奥の書斎に連れていく。一旦別行動になるが銀星は、虚子と対極の場所に位置する『双子塔――姉』に向かう。この都市伝説の再現には最低でもプレイヤーが二人必要となるのだ。
もとより、ゲームにまつわる都市伝説はあまた存在する。例えば有名な話だと、ファイナルファンタジー5の海底にあるモアイ像は、実は隠しダンジョンになっており、ここで真の裏ボスのエヌオーと戦うことができるというものだ。そのためには、オメガと神竜を3ターン以内に倒さなければいけないというような条件もあわせて広まっており、都市圏、地方問わずこの都市伝説は、かなりの信ぴょう性をもって受け容れられた。
また、ファイナルファンタジーと並ぶ有名なRPGのドラゴンクエスト5では、主人公の名前を『ロト』にし、レベル99の状態で、エスタークを10ターン以内に倒すと戦闘後にエスタークが仲間になりパパスが蘇るというような都市伝説が生み出された。
また、これらのゲームにまつわる都市伝説は、ゲーム会社にも影響を与えるほどの信ぴょう性であり、リメイクの際にはこの都市伝説が逆輸入されたりもしている。先ほどの例だと、ファイナルファンタジー5のリメイクでは、モアイ像を訪れると隠しジョブとして『パラディン』が手に入るようになり、ドラゴンクエスト5のリメイクの場合は、『プチターク』というエスタークの小型版を仲間にできるようになったりと、都市伝説の影響力の強さを感じるエピソードが存在する。
この事例は虚構の力により現実世界が変革されうる可能性を示唆する一例とみることもできるだろう。
「おっ、ここが『双子塔――姉』の最上階の禁書庫か……。それで、ミーム。俺はこれからどうしたら良いんだ?」
「これから、都市伝説を出現するためのキーワードをかーちんの元に転送するから、それをボクと同じタイミングで入力するなの」
「了解。時間あわせはどうする?」
「
「おーけー」
今は深夜の01:55。指定刻限まで、あと5分。銀星と虚子は、指定の時刻にすぐに、キーワードを入力できるように、禁書庫最奥の書斎部屋の机に置かれた、『白紙の羊皮紙』前で待機する。
「あと30秒なの――」
「おーけー」
「「Air! Air! Null・Stein! Null・Gashan! Null・Stein! Null・Stein! Cthulhu・fhtagn」」
完全に同タイミングで、姉妹塔の両方で完全に同じタイミングで羊皮紙上へのキーワードの入力が完了する。この辺りのシンクロ率の高さはさすが10歳のころからの付き合いだ。銀星と虚子の息はぴったりである。
「うまくいったかな?」
「都市伝説が本当なら――これで何かが起こるはずなの!」
左右の姉妹の双子塔の双方の巨大な機械仕掛けの掛け時計が、ギリリと音をたて中の歯車が回転し、駆動し、その動きと連動するように禁書庫内のあちらこちらがカラクリが稼働し始める。
「すごい……揺れるなの」
「こっちも地震みたいにめっちゃ揺れてるぞ」
古城全体が地震のように揺れ、あちらこちらで地鳴りのような轟音が響き渡り、古城全体が稼働していることが分かった。そして、ひとしきりの轟音と揺れがおさまった時に、この古城に大きな異変が生じていることに銀星は気づいた。
「おい――なんか、生えてるぞ」
「それが都市伝説なの」
古城の中央、玉座の間が部屋ごとせり上がり、第三の塔となった。ここが、都市伝説の最後の終着地『月に吠ゆる者の塔』、または双子塔に対しての『父塔』と呼ばれる塔だ。
「さぁて、それじゃーその曰くつきの塔にさっそくお邪魔しますかねっ!」
「かーちんがノリノリのところ申し訳ないなの。まず、その前に妹塔にいるボクをピックアップして欲しいなの」
車椅子のアバターで、銀星の手押しなしにはフィールド移動が不可能な虚子は言った。銀星は、ちょっとだけバツが悪そうにそうに、そそくさと虚子の居る妹塔の禁書庫に虚子を迎えに行ったのであった。
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