第10話『異世界転生オンライン』
MMORPG、ネットワークを介して多くの不特定の人間と協力しながら冒険を続けるゲームである。昨今は、没入感の高いフルダイブ式のVRMMOが流行ってきてはいるが、PCでながら作業をしながらでも遊べる旧来型のMMORPGも、一時期よりも勢いは衰えたとはいえ、まだまだプレイヤーは多い。
MMORPGの世界もキャラクターを操るのは、実際の人間であることから、冒険を通して恋が芽生える事もあるそうだ。実際、MMORPGを切っ掛けに結婚まで至ったというような事例も多い。だが、明るい話だけではない……もちろん、人が集まればそこには恨みや妬みのような負の感情による澱みができる。そういった澱みは都市伝説を作る下地となるには十分な土壌となる。
「そういえば、ミームと俺が最初に知り合ったのってネトゲの世界でだったな」
「そうなの。かーちんと毎日一緒に
「懐かしいな~」
「かーちんが前衛のタンクで、ボクが魔術師だったなの。あのゲームが一番最初にボクがかーちんと出会った切っ掛けなの」
「ミームも会った当初は人見知りが激しくて、初めてリアルで会った時も直接会話できずにネトゲ上のチャット機能で会話してたんだっけな。あれはあれで、なんか楽しかったよな」
今も虚子は社交的とはいえない人間であるが、当時の虚子はそれに輪をかけたように人見知りだったのだ。銀星は出会った当初は、虚子のことが喋る事ができない子なのだと認識していたほどであった。
今のように、二人が直接会話をするようになるまでにはしばらくの時間を必要とした。虚子が多少なりとも、社会と接点を持てるようになったのは、銀星との交流によるところが大きい。
「初めてミームの家に遊びに行ったときは、凄い豪邸でびっくりした記憶があるよ。あの当時のミームは凄い箱入り娘だったからな。銀髪で良い仕立ての服を着ていたからお人形さんと思うほどかわいかったの覚えてるよ」
「今もボクはかわいいなの」
「そうだな。かわいいぞ」
「……///なの」
銀星は、照れる虚子の銀色の髪を、猫を撫でるかのように優しくなでる。虚子の髪は少しひんやりして絹糸のように指に絡むその繊細な感触を心ゆくまで堪能した。
――銀星は髪フェチである
「そういえば、最近中高生の間で流行っている”異世界転生オンライン”って、かーちんは知っているなの?」
知る人ぞ知るMMORPG『異世界転生オンライン』。ファイナルファンタジーやドラゴンクエストといったようなメジャータイトルとは路線が異なるが、やり込み要素が多く、また課金要素が他のMMOPGと比較すると圧倒的に少ないことから、中高生を中心とした層に支持を受けているゲームである。
世界設定はオーソドックスな西洋ファンタジー風の世界で、個々人が自由にキャラクタークリエイトしたアバターを操作し、魔獣を討伐したり、武器屋防具を作って売ったりと、このあたりのシステムも旧来型のネトゲのシステムを継承しており、特にシステム面や設定面で、他のMMORPGと大きな違いがあるわけではない。
「うーん。知らないなぁ……。少なくとも俺が知らないっていうことはメジャー級タイトルでは無さそうだけど……」
「正解なの。”異世界転生オンライン”は中高生にはとっても人気だけど、それ以上の年齢の人にはあまり知られていないゲームなの」
「ナウいヤング達の間で流行っているTiktokみたいなものか。若者は皆使ってるけど、それ以上の層はあまり使わない的な」
「むぅ。かーちんもボクも若者なの。ボクたちがっそういうの使わないのは社会性が低いからという一点のみなの」
「ぐぬぬ。違いねぇな……」
「話を戻すなの。”異世界転生オンライン”の特徴は、MMORPGなのにModを使える点にある点なの」
「へぇ……ネトゲでMod、ねぇ……。初めて聞いたわ」
『異世界転生オンライン』が中高生の中で流行った理由の一つが、MMORPGにも関わらずModが利用できる点にある。Modとは一言で説明すると、ゲームの世界を拡張するための無償のツールの事である。Modの作成者は、そのゲームを愛好する有志の人間であり、Modを公開しているポータルサイトに行けば、基本的に無料で全てのModをダウンロードすることが可能である。ただし、このModは通常はオフラインゲームのみに適応可能であって、オンラインゲームでは使用不可である。
このModで、具体的にどのようなことができるのかを説明しよう。一例だが、核戦争後のポストアポカリプスの世界を舞台にしたRPGゲームのマッチョでいかつい髭面の主人公の外観を、アニメチックな美少女に変換するものであったり、FPSの銃の形状を水鉄砲に変えるものであったり、それこそ単純にキャラクターのステータスをMAXにするModであったりと、それこそ様々な種類のModが存在する。
「へぇー。このMMORPGなのにMod使えるんだ。めずらしいね」
「なのなの。さすがにModが適用できる範囲はキャラクターのアバターにとどまるそうだけど、それでもかなり珍しいなの」
「確かに。アバターもゲーム会社にとっては重要な収入源だもんなぁ」
「かーちんは天才なの」
「照れるぜ。まぁ、ミームほどではないけどな」
なお、銀星が何かしら過去に学業面で他者より秀でていたというような事実はない。銀星の才能は、その身体能力と戦闘時の臨機応変さに限定される。自身に対する過大な評価を謙遜せず受け入れる懐の広さも銀星の美点である。とは虚子の弁だ。
「かーちん、ひさびさに
「了解。一狩りいきますかー!」
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