第11話 続・さようなら、おっさん

「母さんはさ、なんで父さんをぞんざいに扱って、おっさんのことは丁重にもてなすわけ?」


 大きさは違えど、どっちもおっさんだ。いや、むしろ、父さんの方がまだ毛があるし、腹もそんなに出ていない。家事もやってくれてるし、ぞんざいに扱う理由はなかった。


 一方でおっさんは、神様ではない。願いを叶えてくれるわけでも、家事をしてくれるわけでもない。


 どう考えても、父さんが気の毒じゃないか。


「あのねぇ、それはねぇ……」


 母さんは、言いにくそうにおっさんと見つめあった。なんとも言えない空気が漂う。


 嘘だっ。


 ……まさか、まさかなの? 二人って、そういう関係だったの?


「実は、父さんドMだからっ」

「どわっ。聞きたかねぇし」


 まさかの、おっさんと母さんの仲を一瞬でも疑った少し前の自分を蹴り上げてやりたい。


「母さんも複雑なのよ。でもね、おっさんには長生きしてもらいたい。あなたもそう思うでしょう? だから、少しの間、がまんしてくれないかしら?」


 そう、今度は永遠のわかれではないと、はっきり告げられている。


 だけど、それなのにおれは……。


「わかった」


 自分の声なのに、変な声になっていた。雨にあたったせいかもしれなかった。


「神社で自分磨きでもダイエットでもしてくるがいいさ。あと、なんかセレブなイメージでよかったな」


 海外セレブは時々、アルコールや薬物から立ち直るためにリハビリ施設に入るという。言うなればこれも、おなじようなものなのかもしれない。


 規則正しい生活を終えたら、おっさんは変わってしまうだろうか? 髪はともかく、でっぷりと太った腹は引きしまり、顔ももっと、シュッとするかもしれない。むしろそのための神社だ。変わるなら、変わってしまえばいい。


 その時おれは、変わってしまったおっさんを前にして、この気持ちに変化があるのだろうか?


 もしかしたら、おっさんのことをあきらめて、普通の恋ができるかもしれない。


「……そうだよな。一週間も便秘するようなおっさんなんて、嫌いだよな」


 いつになく自虐的なおっさんの言葉に、弾かれたように振り向くと、さみしそうに微笑んでいるおっさんと目があった。


「きちんと自己管理ができるよう、勉強してくるよ、青年」

「おっさん?」

「では行くかの」


 神様は木製の杖をえいっと一振りすると、おっさんと共に消えてしまった。


 ドールハウスのおっさんのクローゼットには、かぼちゃの王子様の衣装が丁寧に飾られていた。


 ハロウィンが終わってしまう。そんなさみしさで胸がつぶれそうになった。


 ◆◆◆


 いつもより短く感じた秋が終わろうとしている頃、おっさんの声がリビングに響いていた。


「だーかーらー、不摂生な生活を変えることなんてできないってー!!」

「おっさん?」


 リビングのテーブルで、やたらできあがった父さんとおっさんが酒を酌み交わしていた。


 なんということだろう。おっさんは更に太り、頭髪もさみしくなっていた。


「どうしたらそっちに変われるのさ?」


 あきれ返るおれを前に、おっさんは悪びれもせずえへへと笑う。


「いやぁ、神様のおそなえものって意外と豪華でさ。わたしたちはこのサイズだし? とりあえず酒は飲み放題だったわけ」


 そしてツマミもたくさんあったわけだ? つまるところ、酒は神様パワーで瓶からそそいだわけだね。


 なんのための神社だよっ!? 規則正しい生活をしてくるんじゃなかったのかいっ!?


 ふつふつとわいてくる怒り。


 こんなことなら、さっさと送り出してればよかった。


「百年の恋も冷めたー? なんつってぇー!!」


 どきっとした。おっさん、まさかおれの気持ちに気づいてるのか?


「いやぁー、巫女さん。かわいかったのなんのってー。あ、いやすみませんな、奥さん」


 母さんの手酌で酒を飲むおっさん。ドMな性癖をばらされてしまった父さんは、ツマミ作りに台所へと追いやられる。


「ねぇ、おっさん。あたしも巫女さんのコスプレしたら、かわいいかしら?」


 げぇーっ。それだけは勘弁してください。


「と、父さんはかわいいと思うぞっ!」


 お茶を濁すおれとおっさんを前に、ひょっこり現れた父さんは、思ってもないことを口にした。


「まぁーたぁー!! 父さんは、巫女服姿のあたしに踏まれたいだけなんでしょっ!? もう、ぷんだ!」


 がぁー!! 聞きたくなかったんですけどもぉー!!!


 こうして、おっさんは帰ってきた。おれの気持ちがどうなったかって? それは、まだ秘密にしておこう。


 セカンドシーズン完



 ※サードシーズン開始まで、しばらくお待ちください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます