第9話 おっさんの状態

「青年よ。心して聞け。おっさんはな」


 一度言葉を区切ってから、神様が信じられない現実を打ちつける。


「おっさんはな、便秘なのじゃ」

「……はぁー!?」


 なんだと!? よりによって、便秘!? なんなの、おっさん。食物繊維足りてないの!? ってか、ここに来るまでに至るおれの様々な決意はっ!? 便秘で発熱とか、子供じゃないんだから。


「そういうわけでしての、奥さん、下剤はありませんかい?」


 神様は、取り乱すおれを完全に無視して話を進める。


「あら? ありますわよ。おっほほほはっ」


 母さん、下剤なんて持ってるのかよっ!? いや、そこじゃなぁーいっ!!


「おっさん、いつから出てないんだ?」


 それも違うとは思ったが、なにか話してないと、うっかりこの状況で告白しないともかぎらない。


 だが、おっさんは、ウブな小娘のように毛布を頭まで引き上げてもじもじしている。


 ああ、なんかじわじわと腹が立ってきた。


 おっさんにともとれるし、おっさんが便秘していたことにも気づかなかった自分にも腹が立つ。


「……その、一週間ほど」

「それで高熱が出たのじゃな。さあ、水で薄めた下剤じゃ。飲むがよい」


 神様は、父さんが作った木の器の中身をおっさんに飲ませる。


「なんでっ!!」


 安心したのと、拍子抜けしたのが同時に来て、おれは怒鳴り散らしていた。


「便秘なら便秘って、なんで言ってくれなかったんだよっ!?」


 そんなの、水くさいじゃないかよっ。おっさんとはもっと、打ち解けているものだと思っていたのにっ。


 それなのにっ。


 間違えてる。こんなこと、こんな場面で言うべきじゃない。それなのに、おれの気持ちが暴走して、歯止めが効かなくなっている。


 ただの便秘だったんだ。よろこべばいいじゃんよ。なんで怒ってるんだよ、おれは。


「青年や」


 神様が、ちょっときびしい声でおれに告げた。


「頭を冷やしてくるがよい」


 言われなくても、おれは、家を飛び出していた。



 つづく

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