第8話 正直な気持ち

 家へ向かう道すがら、もどかしさをごまかすために、神様に言われた言葉を思い出した。


 自分の気持ちに正直に。


 それは、おれのおっさんへの思い。


 おれは、おっさんにときめいた。一度ならず、何回も。


 ときめきとは、恋だけにとどまらない。


 不意打ちされた時とか、偶然出会ってしまったとか。……ああ、おなじか。


 おれは、おっさんが助かったら、この気持ちを正直に伝えることにした。


 だけど、もしダメだったら?


 おっさんになにかあったら?


 その時、おれは、後悔しないでいられるのか?


 頭の中に、いろんな姿のおっさんが浮かぶ。


 チーズ鱈を食べてにっこり笑うおっさん。お酒を飲んで赤ら顔のおっさん。グッピーの水槽で得意げにおよぐおっさん。グッピーを従えてしたり顔のおっさん。かぼちゃの王子様のコスプレをした、白タイツのおっさん……。


 全部、全部が笑えて、愛おしくて。


 おれ、いつの間にこんなにおっさんのことを好きになってたんだろう。


 好き?


 ああ、好きだ。おれは、おっさんが好きなんだ。ほかでもない、あのおっさんが好きなんだ。


 家に帰り着くと、おっさんの額に手のひらをあてがう神様の姿を認めた。


「神様!! おっさんはっ!?」


 おれは体裁もかえりみずに神様に聞いた。


 神様の、白い髭がゆっくりと振り向く。


「青年よ。覚悟して聞け。おっさんはな」


 その後の言葉に、おれは信じられない思いがして、大声でわめいていた。


 そんなっ。そんなのってないよ。なんなんだよ、おっさん。


 つづく



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