第4話 神たる者

 神様は、父さんが枝をくり抜いて作ったビールグラスをかたむけて、話を始めた。


「神という存在はの、うとまれはするが、あまりほめられることはないのじゃ」


 そう言うと、神様は意味もなくおっさんとグラスをあわせて乾杯した。いい飲みっぷりに、おれはあわててビールをそそぐ。


「なにか悩みがあれば、人は皆神頼みをする。じゃがな、願いが叶ったところで、感謝の言葉をのべてくれる者はかぎりなく少ない。神頼みをしたことすらわすれられてしまう。それにくらべて」


 神様はチーズ鱈をポイっと口の中に放り込んだ。おい、このシリアスな時にチーズ鱈食ってる場合かよっ!?


「それにくらべて、恨みつらみのなんと多いことか。それが人間の弱さでもあり、愛しいところじゃ。そして、わしら神は、そのグチをだまって聞いてやることしかできん。不公平な真似はできないからの」


 不公平、そう言われて、おれは自分のおろかさを目の当たりにした。まさに今、おれはその不公平なお願いを頼もうとしていたのだ。


 窓の外はガタガタと音を立てて不安をあおる。でも、自然の脅威に立ち向かうすべはない。


「人間とははかない生き物じゃ。それを思えば、多少のグチなどかわいいものじゃ。むしろ、グチぐらいこぼせばよいのじゃ」

「そういうものなんですか?」


 おれが問うと、神様は豪快に笑った。それが答えだと思った。


「どうじゃ? 神とはまるで、おっさんのような存在だと思わないか? 理不尽に期待されてはののしられ、時に意味もなく毛嫌いされ、自分の都合のいい時だけあがめられる」

「なるほど! どうりで馬が合うと思っておりましたよ」


 せつない表情を浮かべる神様に対して、のんきに笑い出すおっさん。だめだ。なんだか話がかみあってないぞ。


「よいのじゃ、青年。おっさんに深さを求めるものではない」

「でもっ!?」


 今のおっさんは、ただの酔っ払いだ。神様にそこまで言われるほどの存在なんかじゃない。


「よいのじゃ」


 もう一度言うと、神様はさみしそうに微笑んだ。


「時に青年」


 神様はまたしても突然、膝を打った。


 つづく

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