第2話 なんでやねんっ!

 ドールハウスに神様が加わった。


 今では母さんが神様のためにあたらしく作った露出の少ない縞模様の水着をよろこんで着込んで、水槽でおっさんと泳いでいる。シュールだ。さらにシュールな絵面だ。


 少なからずおっさんにときめいた経緯を思えば、おれの胸中はとても複雑だ。


 なぜに恋敵が神様なんだっ!?


 しかも、おなじサイズのせいか、おっさんと神様はやたら親しい。


「こうすると、グッピーがよろこびますよ」


 おっさん、慣れない敬語で神様にグッピーの操り方を教える。


「こうか? いや待て」


 バッシャーンと、グッピーが神様に水しぶきをあげる。どうやら神様、グッピーには嫌われたみたいだ。


「あっははっ!」


 おっさんがたのしそうに笑う。


 ……なんだよ。おれの前ではそんな顔、見せたことないじゃんか。


「ほぅーれ、おっさんも水びたしじゃ!!」


 きゃっきゃうふふと、神様がおっさんに水をかける。


 ……待て。それって普通にプールデートじゃないかよっ!?


「青年もまざるかのっ!?」


 神様に聞かれたおれは、ぷいとそっぽを向く。


「おれの大きさじゃ、まざれませんよ」

「ほう? ミニマムサイズになれる機械を使おうと思ったのじゃがの」

「そのせいでおっさん、一度連れ去られたじゃないですかっ!?」


 自分で禁止事項だと言っておいて、破るつもりかよっ!?


「ほう? 青年は学習能力があるらしいの」


 ほめてるのか、けなしてるのかわからないが、なんかムカつく。


 おまけに台風が近づいているしで気が立っている。この前の台風の時には、かなり長い時間停電して、グッピーが全員お亡くなりになってしまったからな。


 せっかくまた、あたらしいグッピーを買ってきたんだから、今度こそ停電は勘弁してくれよ。


 おれがいらだっていると、おっさんがバーコードヘアを乱して、ちっさな生き物の切れ端を皿に盛り付けてよこした。


「おっさん? なに、これ?」

「刺身だよ」

「まさかまさか、おれのグッピー!?」


 ああ、なんてことだっ!?


 頭を抱えて天を仰ぐと、神様のため息が聞こえた。


「青年よ、そんなわけあるまい。これはわしの神社におそなえされた魚の切り身じゃ」

「え? だって、おそなえものには手を出さないんじゃなかったんですかっ?」


 すると、神様は、刺身をつまんで一口食べた。


「この程度刻んだぐらいじゃ、気づかれまいて。猫がかじったと思われる程度じゃ」


 そうかもしれないけど。


 なんだか、釈然としない気持ちのまま、おれはちいさな刺身を一口食べた。まさかの鯛だった。


 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます