第5話 たすけて! おっさん

 両親の留守中に寿司を頼んだ。一人前を、おっさんと仲良く食べている。


 ところが、急に腹が痛くなり始めた。


 もだえるような腹痛。にじみ出る汗。これは、噂の……。


「アニサキス?」


 ひょっとしてと囁いた言葉を、おっさんに聞かれていた。


「なに? アニサキスだと!? それは大変だ。すぐ私にロープをくくりつけて、飲み込むのだ。そうして、アニサキスを捕獲したら糸を引っ張るから、引き上げてくれたまえ」


 おっさんを飲み込むだって!? そんなこと、できない。まちがえて噛んだり、糸を切ったりしたら大変だ。


 なにより、グッピーサイズのおっさんを、飲み込む勇気はない。小魚と違って、肩や腹が喉につっかえるだろう。


「青年や。案ずるな。私はこのようにもっと小さくなれる秘密道具を持っている」

「それはいろいろと……、ヤバー!!」


「これはこの前、神社の神様にもらったいわばチート道具なのだ」


 ……ぐわっ、腹が限界だ。


「それをあてると、体がもっと小さくなるのか?」


 あえて形状は口にしなかったぞ。バンされたらいけないからな。


「ああ。これで……、ほら、この通り」


 光を浴びて、更に小さくなったおっさんは、飲みやすいお薬サイズになってくれた。


 そのおっさんに、切れないようテグスを渡すと、自ら亀甲縛りをした。まったく、器用なおっさんだな。


 感心してるところへ、おっさんはコップの水にダイブした。


「ほれ、青年。時は一刻を争うのではないのか?」


 うう。背に腹は変えられない。


「おっさん、アニサキスつかまえたら、ちゃんと引っ張ってくれよ?」


 オーケー! と、元気に親指を上向けるおっさんを、水ごと飲み干した。……これ、もしかしたら、引っ張り出す時にすごい苦しいんじゃないのか?


 でも、それ以前に猛烈に腹が痛い。テグスの端を右手首に巻いて、とりあえずソファで横になる。


 しばらくすると、今までで一番の腹痛に襲われた。これはきっとあれだ。おっさんがアニサキスと格闘しているにちがいない。


 更に苦痛をこらえると、テグスに引っ張られる感覚があった。それを、慎重に引っ張り出す。


「があっ!」


 変な擬音と共に、おっさんがなにかをつかまえて出てきた。


 不思議と、腹痛が治まってくる。


「おっさん……。ありがとう。もしかして、それがアニサキス?」

「そうらしい。おっと!」


 まだ逃げようともがくアニサキスを、バーコードヘアを振り乱したおっさんが、踏みつけて粉々にしてしまう。


 こうして、おっさんは元のサイズに戻り、助けてもらったのだった。


 おっさん、ありがとうな。


 そうしてなぜか、心の奥で、とくんとはねる音がしたのだった。


 それがなんなのかわかるまでは、時間がかかりすぎたのかもしれない……。


 つづく



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