第78話 そんなヤベェ属性を急にブッ込まれても困る(迫真)
『奥村』、といったら。
いつもなら。それが誰を示すか、考えるべくもない。
我らがスーパー攻め様、緋人くんの苗字である。
だけど今さっき三条さんが呼んだのは、緋人くんではない。黒崎だ。
で、それと同じ苗字で、黒崎が呼ばれたってことは。
え、嘘。
まさかコイツ、緋人くんの親戚か何かなの!?
いや待て、落ち着け。そう考えるのは早計だぞ。
別に、『奥村』はそこまでめちゃくちゃ珍しい苗字ってわけでもない。佐藤や鈴木ほどメジャーじゃないけど、たまたま苗字が同じだからって、そこまでおかしい話でもないだろう。私と蒼兄だって昔、同じ苗字だったわけなんだし。
そうだ。それに今、黒崎は緋人くんと同じ顔になっている。だから、それで黒崎が緋人くん本人だと間違われているってセンの方が、あり得る話だ。
だけど。それにしちゃ、黒崎の方も三条さんを知ってる感じだったな。
共通の知り合いかなんかかな?
どこからともなくバトル漫画なノリで突っ込んでくるという、割と規格外な登場をした三条さんだが。その常識外れな登場をよそに、彼はポケットに手を入れたまま、まるで世間話みたいなノリで黒崎に話しかける。
「卒業した途端に姿を消したと思ったらまぁ、お前は180度真逆の方向で、一体全体なにをしでかしてやがる」
「よく言いますよ。ボクがどこでなにしてたか、どうせ知ってたくせに」
「無理矢理連れ戻したところで、大人しく戻ってくるタマじゃねぇだろ。在学中に校舎半壊させた狂犬が素直に飼い犬に収まるとはハナから思っちゃいないさ」
「それはボクじゃなくハルカです」
「共犯がよく言うねぇ」
二人がどういう話をしているかはよく分かんないけど、なんか物騒なことを話してるのは分かる。
私たちの前に現れる時だけじゃなく、元から厄介な奴なんだな、黒崎……。
しかし。彼らの会話のニュアンスから察するに、やはり二人は元・教師と教え子という関係で、それなりに互いを知っている間柄らしい。
そしてどうやら三条さんとやらは、黒崎を緋人くんと間違えてる、ってわけじゃあなさそうだ。
緋人くんと同じ顔になってるのに、すぐに分かるなんて凄いな。
まぁ私も一応、さっき気付きはしたけ――。
……緋人くんと、同じ顔?
違う。
確かに、そっくりな顔をしてはいる。
だけど、緋人くんと同じ顔では、ない。
本物の緋人くんと、今の黒崎とでは、
だから。さっき、私は気付いたのだ。
こいつが緋人くんじゃないってことを。
ぱっと見は、本当に似ているけれども。
同じ顔では、ない。
そして。
黒崎朔の能力は、血を飲んだ相手の顔に変身するものだ。
体格はほぼ変わらないが、顔なら完璧に変えることが出来ると、前に本人が言っていた。
だったら。
どうして今の黒崎の顔は、緋人くんと微妙に違うんだろうか?
もしかしたら、黒崎は自分で意図して、変身する相手の微細な部分をいじることとかができるのかな。
だけど。わざわざ私にバレそうなリスクを冒してまで、そんなことをする必要があるだろうか?
もし、あえてバレたい理由があったのだとしても。だったらもう少し、分かりやすくやると思うんだよね。
それに、黒崎の『トレース』という能力の特性から考えると、パーツをいじれるって仮定はやっぱり違う気がする。
『血を飲んだ相手の能力をそのままトレースできる』のと同じく、『血を飲んだ相手の顔をそっくりそのままトレースできる』だけって考える方が自然だ。
顔のパーツを自在にいじれるとかだと、それはまた別のベクトルの能力になってくるような気がするし。
それならば。
動揺したまま、雑ぱくに想像を巡らせてから。
まさかの推測に思い当たってしまい、更に動揺する。
まさか。
まさか、だけど。
今の黒崎の顔が、紛れもない本人のものだとしたら?
「あーあ。その顔は気付いたね」
黒崎は三条さんから視線を外し、私を一瞥して顔をしかめた。
だがその割に、さして深刻そうな風でもなく、軽い口調で言う。
「
「その顔で世間をウロついてる奴が、今更なにを言ってやがる」
「確かに」
二人は落ち着き払ったまま、相変わらず世間話のように言葉を交わした。
一方の私は。自分で至った推論に、自分で泡を食ったまま、半ば独り言のように尋ねる。
「まさか。緋人くんと、双子!?」
「普通はそう思うよねぇ。ざぁんねん」
限りなく私の中では確信に近かった推論を、口には出したものの。きっと明確な回答はもらえないのだろうと踏んでいたところ。
あっさり返事をされて、しかもそれが否定だったので、二重に戸惑うが。
「オレたちは三つ子だよ。一人はもう死んでるけどね」
やはりあっさりと、その推論の概ねを肯定された。
「どーせバレるだろうし、後で先生の主観的な情報を付加されて知らされるのも癪だから、もう言っちゃうけど。
俺の本当の名前は、
君もよぉく知ってる、奥村緋人の三つ子の弟だ」
君の血の味は少しうるさい 佐久良 明兎 @akito39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。君の血の味は少しうるさいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
日記と呼ぶには烏滸がましい/佐久良 明兎
★4 エッセイ・ノンフィクション 連載中 19話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます