桃姫
最初の出会い
夢 始まりの記憶
夢を見た。
正確にいうと、幼いころの記憶を垣間見ただけだ。
ただし、妙に曖昧だった。シルエットだけで濁して細部にはこだわっていない――そんな絵画を見ているような感覚だった。
最初に見たのは戸を叩く音と、影だ。背が低い。相手が女の子だと分かったのは、スカートをはいていたからだ。
すぐさま玄関まで走って、ドアを開く。
外に立っていたのは、同じ学校に通う女児だった。
「ねえ、お願い。助けて」
彼女は虐待を受け、その苦に耐えきれず、俺の家に駆け込んだのだという。
当然ながら、断る理由はない。助けることにした。
成り行きで俺は彼女と接するようになる。俗に言う共同生活というやつだ。同じ部屋で過ごしたり、ともに食事を取ったりした。その日々はとてもしっくりきて、妙に気持ちがよかったことを、覚えている。
ただし、その生活は長くは続かなかった。
「私、別の町へ行くわ」
両親からも逃げるように、少女は去る。小学校からも姿を消していた。
その後、彼女は快い者の受け入れられたとのこと。
つまり、老夫婦の元で引き取られ、平和な日々を送っていたんだ。
それから小学校を卒業し、中学校に入る。
俺は彼女と再会した。
学校での彼女は引っ込み思案だった。顔立ちは悪くないが、印象が薄い。クラスの中でも、周りの様子を一歩引いて見守るような、ポジションだった。
性格も見た目通り、おとなしい。人と話す機会はなく、自分の意見を他人に伝えたこともなかった。
そんな感じだから、いじめの対象にもある。そのたびに俺はヒーローぶって、彼女を助けた。
その選択は間違いではない。結果的に彼女を守れていたのだから、いいんだよ。
だが、あのころの俺はただ調子に乗っていただけだった。自分なら大丈夫だ。きちんと守れる。彼女のためになっている。おのれの行いに酔っていただけ。
その心情こそが間違いだった。それを証拠に俺の手から少女の存在は、こぼれ落ちているのだから。
そうした感じで夢は終わった。
社会人になった今でも昔の夢を見るのは、そこに未練がある証だろうか。
もっといい方法があったんじゃないか。
もっと活躍できたんじゃないか。
もっといい思い出を作れたのではないか。
今となってはどうしようもないことだ。もはや元に戻れないのなら、夢想したところで、意味はない。
もうすでに夢から覚めた身だ。
今は、今の時間を生きなければならない。
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