チャンコクラブ

芹沢政信

第1話

 ぼくがちょうど絶対小説(講談社文芸第三出版部より書籍化予定!)の改稿作業をしていたとき、メグちゃん先生から電話があった。

 深夜だったから不審に思いつつも、


『こんな時間になんですか? ぼくの地元でまた取材をしたいというお話でしたらお断りしますよ。前にひどいめにあいましたから』

『あのときは〈群馬県にBEAMSを誘致する会〉との戦いに巻き込まれて大変だったからの。よもや時空を歪ませて、高崎駅前と原宿を繋げようとするとは……て、そうではない。お前、再デビューするにあたってペンネームを変えよったやろ』

『あー、はい。なので今のぼくは芹沢政信です。それがなにか?』

『メグちゃんが作家として活動する傍ら、高田馬場で占い師をやっておるのは知っておるよな。お前が名前を変えるというからの、姓名判断で占ったのじゃ』

『……マジですか? わざわざありがとうございます』


 なんだかんだで親切な人だなあと、ぼくは感心してしまう。

 メグちゃん先生は本名オーシャワ・メグニヌンスキーというロシア生まれのアラサー女子で、本業は占い師というラノベ業界屈指の変わり種だ。

 しかもかなりの売れっ子らしく、本を一冊出したところで印税が税金で吹っ飛んでしまうと、いつだかボヤいているのを聞いたことがある。


『どうでした、ぼくの運勢。恋人はできますか、髪は生えてきますか』

『仕事運を気にしろや、バカタレ。勝手に占っておいてすまんのじゃが、正直言ってかなり悪いな。電話したのも実はその件についてなのじゃ』

『と、言いますと?』

『近いうちに災難がある。このままじゃと死ぬぞ、お前』

『ええ……!?』


 深夜に電話してきて、しかも勝手に占ってからの死の宣告。

 やっぱりめちゃくちゃタチが悪いな、この人……。

 なんて考えていると、メグちゃん先生はさらなる妄言を語りはじめる。


『災難を招いたそもそもの原因は、お前が書いた小説にある。リデビュー小説賞に選ばれた絶対小説(講談社文芸第三出版部より書籍化予定!)で河童について書いたやろ』

『ええ。もしかして河童に祟られたとか、そういうやつですか?』

『お、察しがいいな。創作界隈ではよくあるやろ、ホラー小説を書いたら怪奇現象が起こるようになったとかそういう話じゃ。お前最近、うんこは出ておるか?』

『言われてみりゃ数日前から便秘がちで、今もちょっとお腹が張っているような。ていうかなんで急にそんな話を……』


 そう言った直後、お尻のあたりがムズムズとしはじめる。

 げ、なんだか嫌な感じ。


『まさかこの便秘が河童の祟りだっていうんですか? んなめちゃくちゃな』

『河童の英名はアヌスヴァンパイア、すなわち肛門の吸血鬼じゃ。メグちゃん先生の占いによると、お前の尻は河童の祟りで大変なことになる。早急に祓わねば――』


 電話越しにそう言われた直後、ボフンボフン、ボボボボ……と大きな音が響く。

 やべえ、すげえ勢いで屁が出た。バイクみたいなエンジン音が鳴った。

 十連ガチャ並の勢いだったし、うんこまで排出してしまったかもわからんぞこれ。

 嫌な汗をかきながら尻の辺りを確認しようとしたとき、メグちゃん先生が言った。


『お前の尻から紫陽花を咲いてしまう』

 

 わけがわからない。

 しかしパンツを脱いでM字開脚してみると、マジで肛門から紫陽花が咲いていた。

 信じがたいことにぼくは河童の祟りで、世にも美しい花瓶と化したのである……。

 


 ◇



 河童といえばシリコダマ。

 メグちゃん先生いわく、ぼくはシリコダマを芽吹かせてしまったらしい。

 しかも放置していると尻の紫陽花に栄養を吸われて、衰弱死してしまうというのだ。

 絶対小説(講談社文芸第三出版部より書籍化予定!)の改稿作業に追われているときに、こんな不条理な事態に陥ってしまうとは……。

 というわけでメグちゃん先生に問題を解決してもらうべく、尻に紫陽花を咲かせたまま湘南新宿ラインで高田馬場へ向かう。

 そのままジーンズを穿くと紫陽花がもっこりしてうんこを漏らしているみたいになってしまうため、尻の部分に穴を開けて対処した。うんこを漏らしたおじさんと尻から紫陽花を咲かせたおじさんのどちらがマシかといえばフラワーガーデンのほうがまだマシではあるし、白いTシャツにマジックで『YouTuberです!』と書いておけば周囲に怪しまれることもなかった。


「いやいや、めちゃくちゃ不審者やったがなお前」

「嘘、YouTuberならなんとかなると思ったのに……」

「まあ通報されんかったのやから結果オーライとしよう。んで、お前の尻に生えた紫陽花もといシリコダマ・フラワーじゃが、祓うなら相応の労力が必要になりそうじゃ」


 金髪ツインテールにゴスロリ衣装といういかにも占い師然とした姿のメグちゃん先生は、そう言ったあとで怪しげな古文書を開く。

 待っている間にぼくの尻に咲いた紫陽花を祓う方法を考えてくれたのか、


「河童の祟りをどうにかしたいのであれば、大好物のキュウリを供えるとよいらしい。というわけで極太のやつを成城石井で買ってきてやったぞい」

「ちょっ……待ってください、それをどうするつもりですか!? んぎっ!!」

「ハハハ、ダメっぽいな。んじゃ別の方法を試すかの」


 ぼくの紫陽花に容赦なく牙突をキメたメグちゃん先生は、そう言って笑う。

 今度はナニをねじこまれるのかと怯えていると、


「胡瓜でダメなら相撲じゃ。神聖なる土俵で河童の祟りを祓うとしよう。ついてまいれ」

「どこに行くんですか? これからなにをするんですか? ノープランで書きはじめたけど次の展開が思いつかなくて苦しんでいませんか? ぼくはいったいどうすれば……」

「ウダウダうるせえと尻の花を引っこ抜くぞ。これから向かうは東京ストリート相撲ファイトの聖地チャンコクラブ。会員制の秘密クラブじゃから決して口外してはならぬぞ」


 というわけでぼくは尻に紫陽花とキュウリを生やしたまま、都内某所のチャンコクラブへ向かう。そこでストリート力士と相撲を取り、河童の祟りを静めるのだとか……。

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