【第98話:丸薬】

「待っていたよ。昨日の礼をさせて貰うから……覚悟してかかってこい!!」


 数は一〇人以上いるようだ。皆、話に聞いていたとおり、黒装束に身を包み、背中に細身の剣をかけている。

 そして、ひそめていた気配を解放し、殺気をこちらに向けてきた。


「警告を無視したのだ。そちらこそ覚悟はできているのだろうな」


 一人の男がそう告げた次の瞬間、黒装束の奴らは、こちらに何かを投げつけてきた。


「トリスくん! 危ない!?」


 星形の小さな鉄の板のようなものを投げつけてきたが、この程度ならブーストしてなくても避けられるだろう。

 だけど今は、後ろにユイナたちがいる。


 だからオレは、右手を前に突き出すと、


「風よ!」


 風属性の第一位階の基礎魔法を即座に発動し、まとめて吹き飛ばした。


 オレは何も、体の扱いや、剣技だけを鍛えているのではない。

 今でも毎日魔法の練習も欠かさず行っている。


 あれからいろいろと調べてわかったのだが、この魔剣は身体的、魔力的な負荷だけでなく、魔法を使用する際に、詠唱を阻害するような効果まであるらしい。


 そのため、仮面をつけてユイナの魔法による耐性強化をしただけでは、詠唱阻害までは防げず、ブースト状態であっても、オレは第二位階以上の魔法を使うことができなかった。


 だが、第一位階の単純な魔法なら、ブーストであがった強い魔力を強引に使い、呪いの影響化でも瞬時に発動する事ができる。


「ぬ!? なんて化け物じみた魔力だ……やはり貴様が報告のあった仮面の者らしいな」


「な、なんかその格好で仮面の者とか言われると、別のモノを想像しちゃうから、やめてくれないかなぁ……」


 その呼び方にユイナが不満を漏らしていたが、敵はお構いなしに襲って来た。


「その命もらい受けるぞ!」


「そうか……。それなら、悪いがこっちも手加減するつもりはないぞ!」


 明らかな悪意のもとで、こちらの命を狙ってきている者に、オレも容赦をするつもりはない。


 はじめに男二人が左右に分かれ、回り込むように切り込んで来たが、


「ふっ!」


 踏み込んでタイミングをずらすと、一人を逆袈裟に斬り裂いた。


「なっ!? 速すぎる!?」


 オレの動きについてこれず、目の前で仲間が斬り裂かれたもう一人が、そう叫びつつも背を向けたオレに斬りかかってきた。


 そこまでは、大したものだと思うが、オレ一人に注意を向け過ぎだ!


「させるわけないやん!」


 飛来した魔球をまともに喰らい、一瞬で吹き飛ばされる。


「斬り裂き、舞い踊れ! 『水刀乱舞』!」


 そして、敵がひるんだ隙をついて、ユイナの水魔法が後ろに控えていた黒装束の元に撃ち込まれた。


 ユイナは光魔法より威力の劣る水魔法を選んで使ったようだが、それでも既に半数近くの者たちがかなりの傷を負っていた。


 他国の暗部の精鋭とはいえ、オレたちは今まで文字通り本当の化け物の相手をして、そして……勝ち抜いてきたのだ。


 オレたちの敵では無い!


 だが……そのオレの考えは、奴らのとった次の行動で消え失せた。


「くっ!? 強すぎる!? 報告以上の強さだ!! やむを得ん! ユウマ様に頂いた丸薬の使用を許可する! ユウマ様万歳!!」


 一人の男がそう叫んだ瞬間だった。


「ぐぁぁぁ!!」


 何かギリリと奥歯を噛みしめるような仕草を見せると、黒装束の男たちから、まるで魔族のような瘴気が溢れかえった。


「なっ!? いったいこれは!?」


「うそ……ま、魔族になったの!?」


 その出来事にオレとユイナが一瞬驚き、動きを止めてしまっていると、すかさずメイシーから檄が飛んできた。


 ただ……。


「くっ!? 1号2号! 惚けてる場合やないで! 変化し終わる前に倒してまうで!」


 ちょっ!? メイシー、その呼び方はどうかと思うぞ!?

 い、いや、今はそんな場合じゃないんだが、だけど、その呼び方は……後でユイナにもう少しちゃんとした呼び方を考えてもらおう……。


「わ、わかった! 一気に片を付ける!」


 オレがブーストであがった身体能力を使って踏み込むのと同時に、ユイナの魔法が撃ち込まれた。


 しかし、今度はさっきの水魔法ではない。


「『閃光』!」


 放たれたのはユイナの得意とする光魔法の『閃光』。

 先ほどの水魔法とは桁違いの発動速度で、光がオレを一瞬で追い抜き、またもや半数近い男たちに命中した。


「悪いが完全に魔族化する前に倒させて貰う!」


 ユイナが光魔法で怯んだ隙をつき、オレも一気に距離を詰めると、まずは膝をついた男を逆袈裟に斬り裂き、返す刀で瘴気ごと体を二分した。


「くっ……すでに半分魔物のように……」


 呆気なく倒せはしたが、男が見せた最期は、身体の半分を靄となって消失させるという、見るに堪えないものだった。


 しかし、ここで怯んでいるわけにはいかない。


 オレは、慌てて襲い掛かってきた別の男の攻撃を躱すと、くるりと身体を反転させて、その勢いのままに水平に魔剣を一閃する。


「ぐるおぉぉぉ!?」


 なんだ……? 既に言葉を失っているのか?

 それに……おかしい……魔族にしては弱すぎる……。


 その一閃で呆気なく倒れたのだ。


「こいつらはいったい何なんだ……」


 またもや溶けるように身体の半分を靄となって消失させた男に、今まで戦った魔族とは違うものを感じる。


 残っていた男たちも、やはり今まで戦った魔族と比べると、明らかに二段も三段も劣る強さだった。


 ユイナの魔法で貫かれ、メイシーの魔球で叩き伏せられ、そして……オレの魔剣で瞬く間に斬り裂かれていく。


 そして……最後の男もまた……。


「ぐるがぁぁ!!」


 言葉を失ってしまっており、結局、その答えを知る事は出来なかったのだった。




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 あとがき

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いよいよ書籍版の発売日となりました!


電子書籍によっては既に配信が開始されておりますので、

ぜひぜひパワーアップした書籍版も宜しくお願いいたします。


こうして書籍発売まで辿り着けたのは、担当編集者様や

イラストレーター様を始め、書籍化に関わってくださった

多くの関係者様、そして何よりも、Web版を読んでこの作品を

支えて頂いた皆様方のお陰です。


本当にありがとうございます!


これからも執筆活動を頑張っていきますので、

どうぞ宜しくお願いします! <(_ _)>

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