【第88話:アラベリア聖王国】
「さぁ♪ これ以上、ふざけていると時間も勿体ないですし、そろそろ真面目な話をしましょうか~?」
皆が内心どう思っていたかは置いておくとして、その言葉に小さな溜息を吐いたスノア殿下が、
「……そうですね。それでは、まずは情報共有から始めましょう」
と、さっそく本題について話しを進めた。
「まず、王国の方で現在掴んでいる情報を共有いたします。と言っても、まだあまり多くの事はわかっていないのですが……」
スノア殿下はそこまで話すと、リズの方を見て、頷き、報告を促す。
「姫様の話を聞いた我が国は、諜報部隊を大々的に動員して情報を集めました。対象は、アラベリア聖王国はもちろん、既に侵入されている事を懸念して、エインハイト王国の各街の状況の把握まで動いているのですが、現時点でわかった情報は、わずか三つだけです」
「既に、かなり大掛かりに動いているのか……」
思わずこぼれた言葉だったが、オレの方を一瞬冷めた眼で見るだけで、リズはそのまま話を続けた。
「まず一つ目の情報ですが、聖王国で内乱が起きたようです」
そして、一つ目からとんでもない情報が飛び出てきた。
「な、内乱やって!? あ……堪忍やで、ちょっと驚いてもうた……」
真っ先に反応したのはメイシーだったが、オレもユイナも同じ思いだった。
いや、ユイナは聖王国とかかわりが深いだけに、相当ショックを受けているようだった。
「そ、そんな……レクァスさん無事かな……」
確か、数少ない聖王国で良くして貰っていたお爺さんだったか。
ユイナは心配そうに、その人の名を呟いていた。
「ユイナ……悪いけど、報告を進めますよ」
「は、はい。止めてしまって、すみません……」
リズは、ユイナの返事を言葉を受けて、報告を再開する。
「それで、その内乱なのですが……どうやら聖都のほとんどの者が気付かない間に終わったようなのです」
「え? それは一瞬で鎮圧されたって言うことか?」
オレも止めるつもりは無かったのだが、思わず疑問が口をついて出てしまった。
「……いいえ。その逆です」
「逆ってなんや……まさか?」
「そうです。内乱を起こした側が瞬く間に聖王都を制圧し、勝利したそうです」
リズの言葉はさらに衝撃的な言葉だった。
聖王国のような長い歴史を持つ大国で内乱が起こり、しかもその内乱を起こした側があっという間に勝利するという状況は、中々想像できないものだった。
「ただ、聖王を始めとした王族は、そのまま生かされているようで、首謀者が自身の権力を確固たるものにするために起こしただけで、体制は維持されています」
首謀者と言う言葉に反応したユイナが、
「それって、もしかして宰相が……」
と、恐るおそるリズに問いかけると、その問いにリズでなくスノア殿下が反応した。
「え? ユイナは宰相のギュスタブを知っているのですか?」
「は、はい。知っています。たぶんですが、ボクが追放されたのは、その宰相のギュスタブさんが、当時勇者召喚の責任者だった司教さまを……おそらく、その、殺して、実権を得たのが原因じゃないかと思っています……」
こうしてユイナの話を聞いていると、あらためて大変な目にあっていたのだなと、よく逃げ延び、ライアーノの街まで辿り着いてくれたという想いがよぎる。
もしユイナがこの国にたどり着いていなければ、もし、オレと出会ってくれていなければ、恐らくこの国は、今ごろ魔族と魔物によって、多くの被害を出していた事だろう。
いや……きっとオレは、そういう大きな話を抜きにしても、ユイナと出会えたことを、冒険者パーティーを組めたことを、ユイナ自身に感謝しなければいけないな。
そんな事を考えていると、スノア殿下もいくらかオレと同じような気持ちがあるのか、ユイナについて語りだした。
「まぁ……そうなのですね。でも、結果的にはユイナを追放してくれたことを、わたくしたちは感謝しないといけないかもしれませんね。それにわたくしはユイナと出会えた事は、お姉さまの星詠みや、わたくしの技能の件を抜きにしても、こうして友人として出会えた事に感謝していますもの」
「スノアさま……ボク……あ、ありがとうございます……」
ユイナもそう言われて嬉しかったのか、思わず感極まって、目に光るものを貯めていた。
「姫様、その点は感謝しても良いと思いますが、ただ、今回の内乱はそのギュスタブが首謀者のようですし、この先は聖王国の動向に対してかなり警戒しなければいけません」
「心配しなくても、わかっていますよ。わたくしは、二つ目の報告を既に聞いているのですから」
そして「皆さんにもお聞かせしてさしあげて」と続けた。
二つ目の報告……そんな言い方をするという事は、その情報もあまり良い情報では無さそうだ。
「それで、二つ目の情報なのですが……今話にあがっていたアラベリア聖王国の宰相、ギュスタブの指示の元、聖王国全軍の再編が行われ始めたようです」
「なっ!?」
「え……」
「内乱直後に軍の再編って、戦争か何かの準備としか思われへんな……」
オレ、ユイナ、メイシーが三者三様の反応を示すが、恐らく皆、驚きと不安で一杯なのは同じだろう。
軍の再編が、意味もなく行われるわけがない……。
「ほんと何のための軍なのかしらね~? 名目上は魔神復活に対抗するためとか言ってるんでしょうけど、絶対嘘よね~」
言い方こそ、少しのほほんとした言い方のマリアーナ殿下だが、その表情は真剣で険しいものだった。
「お姉さまの言うように、魔神復活に備えてと言うよりは、どこかへ戦を仕掛ける準備と見るべきでしょう。それは聖王国内部の反対派閥に対してかもしれませんし、或いは隣国への侵攻……その矛先は、我がエインハイト王国かもしれません」
アラベリア聖王国に接する国の中では、エインハイト王国が一番力が拮抗しているし、その関係は決して良好とは言えない。
なぜなら、他の隣国が聖王国の無茶な要求に振り回されている中、唯一、その要求を突っぱねる事が出来るのがエインハイト王国なのだ。
「実際エインハイト王国としても、姫様の言うように、その可能性が高いと見ております」
「そんな……それは戦争が起こるかもしれないという事ですか?」
「そうですね。ユイナ、その可能性が高いと思って行動するべきでしょう」
しかし、その宰相のギュスタブという奴は、いったい何を考えているのだろう。
魔神が復活するという星読みの予言に基づいて勇者召喚の儀式魔法を執り行ったはずなのに、その直後に、このような事を画策すると言うことは、予言を信じていないと言うことか?
だが、星読みの予言は、その予言を知った上で、その未来を変えるための何かしらの行動を起こさなければ、まず外れることはないはずだ。
それぐらいの事は、この世界の者ならわかっていそうな……と、そこまで考えたところで、何か悪寒のようなものを感じた。
「まさか……ギュスタブという男は、星詠みの予言を逆に利用して私腹を肥やしつつ、さらには大規模な戦争を起こして、無理やり予言の結果を変えるつもりなのか……?」
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