【第83話:仮面】
街に戻ると、共に戦った冒険者や衛兵たちだけでなく、多くのソラルの街の市民たちが迎えてくれた。
スノア殿下を先頭に、その脇を守るように『天空の騎士団』の騎士たちが付き従う。
その光景は、何度も青の騎士団の騎士を率いるのをみているオレでさえ、物語を想起させられ、荘厳なものだった。
グリフォンに跨る『天空の騎士団』の姿は、この国の者であっても、見た事のある者はほとんどいないはずだ。
街の者たちは巨大な魔獣であるグリフォンの姿を見れば、恐れてもおかしくない。
だが、この時ばかりは、皆その巨体に、心強さを感じていたのだろう。
必要以上に近づこうとして、衛兵に止められている者まで現れていた。
そして、オレとユイナの二人は……仮面を付けたまま、スノア殿下の少し後ろを歩いていた。
「なんでボク、こんなパレードみたいなものに参加しているのかな……」
「……街を救った象徴のような者がいるんだそうだ」
「そんなの、天空騎士団の人たちが代わりにやってくれればいいのに……」
「まぁトリスっちもユイナっちも、顔バレしていないんやから、ええやん」
そういうメイシーは全身鎧に顔全面を覆うヘルムをしているので、オレたち以上に顔バレする事はなさそうだが……。
「でも、あまり素直に喜べないな……いったい何人亡くなったんだろうか……」
「トリスっち、それからユイナっちも聞いとき。二人ともこんな大きい戦い初めてやろ?」
メイシーのその問いにユイナと二人で視線を交わすと、揃って頷きを返す。
「こういう大きな戦いってのはやな。勝っても負けても犠牲者は出るものなんや。だから、今回だけやない。勝ったのなら、その勝利に貢献したのなら、辛くても、申し訳なくても、前を向いて堂々とするんや。そして、勝利を素直に喜べば良いんや」
そして「もしそれでも気になるんやったら、それはまた後で振り返った時に反省すればええねん」と言って、オレたち二人のお尻を叩いた。
「ひゃんっ!?」
さすがに男のオレはその程度で驚かなかったが、ユイナは間の抜けた可愛い悲鳴をあげていた。
でもメイシーの話を聞いて、少し気持ちが楽になったようだ。
そこからは、集まってきた街の観衆にも軽く手を振ってこたえ、オレたちはまだ戦いの残り香が漂う街を歩いたのだった。
~
戦いの後、妹のミミルやメイドのミシェル、御者のジオのライアーノ家に関係する者たち、それから土魔法の権威であるセルビスとも無事に再会する事ができた。
亡くなった人たちには悪いが、皆が無事だった事に普段はあまり祈らない神にも感謝した。
暫くミミルがオレやユイナから離れなくて困ったが、思っていたよりも立ち直りは早く、二日も過ぎる頃には、いつもの明るさを取り戻していた。
だが、オレたちとはここでお別れだと告げると、また泣き出してしまい、もう一度宥めるのに苦労する事になった。
実はオレたち『剣の隠者』が受けた「ミミルの護衛」という指名依頼は、国の意向でキャンセルする事になり、オレたちは先に旅立ったスノア殿下を追いかける形で、一度王都へと向かう事になったのだ。
ギルドの特別な処置により、冒険者としての評価が下がる事はなかったが、オレを信頼して依頼を出してくれた父に申し訳が無い気持ちでいっぱいだった。
ただ、今回の件で色々と関わる事になった『赤い牙』が代わりに護衛を務めてくれる事になったので、めったな事にはならないだろうと言うのが、救いだった。
さらに、この戦いの後での大きな出来事がある。
それは……パーティーメンバーが増えたことだ。
メイシーとは『剣の隠者』としても、そして『仮面の冒険者』としてもパーティーを組むことになり、これからは3人で力を合わせ、冒険を続けていく事になった。
メイシーは冒険者として長く活動しており、とても経験豊富だ。
きっとオレたちに一番足りないものを、メイシーから色々と学ぶことになるだろう。
パーティーに加わるというのは、メイシーの方から望んでくれた事だったが、本当にありがたい話だった。
メイシーは、先にも述べたように仮面の冒険者としても活動する事になるのだが、これについては、スノア殿下がオレやユイナと同様に、英雄制度を適用する方向で動いてくれることになっていた。
メイシー自身の今までの実績が豊富な上に、今回のソラルの街を救うのに貢献した事で、おそらく問題なく許可はおりるだろうという事だ。
そしてメイシーが『仮面の冒険者』としてもパーティーに加わるという事は、メイシー用の仮面が新たな必要だという事である。
そのため、今は冒険者ギルドの計らいで用意して貰った小さな工房に来ており、モノづくりのプロでもあるメイシーと、自称「仮面づくりの第一人者」とか言っているユイナが、あーでもない、こーでもないと相談しながら新たな仮面の制作に取り掛かっていた。
だから、新しく仮面を作るというのはわかる。理解できるのだが……。
「なぁ、メイシー、ユイナ……」
「ん? トリスっち、どうしたんや?」
「ボクたち、今ちょっと忙しいんだけど、どうしたの?」
それは忙しいだろう……なぜなら……、
「え、えっと……どうして、そんなにいっぱい作ってるんだ……?」
見えているだけで既に5個ほど形になりつつあるのだ……。
「えっと、このうち1個はスノア様に頼まれたもので……」
「ぶはっ!?」
オレは飲んでた果実水を思わず吹き出してしまった……。
「スノア様が!? オレ、そんなの聞いていないけど……」
「あははは……ぼ、ボクは教えようと思ったんだけど……その、スノア様が聞かれたら教えても良いけど、聞かれるまでは黙っているようにって……」
そう言って、頬を引き攣りながら笑って誤魔化すユイナ。
「とすると、残りは……」
「お察しの通りや。こっちの量産品みたいな3つは青の騎士団用って話や。とりあえず団長と副団長とロイスって子の奴らしいで」
「あと、こっちの残りの1個はリズさんの分です」
「いったいスノア様はどういうつもりで……」
なんだ……スノア殿下は青の騎士団まるごと仮面の冒険者とするつもりなのか……。
「なんか、いざという時用らしいで。次、うちらが向かう先には必要かもしれないからとか、なんとか?」
嫌な予感しかしないが、これからの事を考えての事のようだ。
と言うか、次向かう先ってオレたちに何をさせるつもりなんだ……。
「まぁこっちの5つはだいたい完成したから、今からメイシーの分と、ボクとトリスくんの分を魔改ぞ……改良するところだから、もう少し待っててね」
やる気をみなぎらせているユイナと、久しぶりの魔道具作成で浮かれているメイシーのタッグには勝てそうもなく、オレは果実水を飲みながら、その作業を眺めて過ごすのだった。
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