【第67話:ワイバーン】
「くっ! またやられた!!」
『そんな……本当に魔物を操って……それに、ボクの知らない事をいっぱい知って……』
オレが自分の無力さを感じて拳を握り締め、ユイナがショックを受けていると、メイシーから檄が飛んで来た。
「にいやん! 今はそうい感情は後回しや! ワイバーンに飛ばれると厄介やから、一気に片をつけるで!」
こういう気持ちの切り替えや判断の早さは、やはり第一級冒険者としてのメイシーの実力の高さを示していて、さすがだと感心させられる。
(それに比べ、オレたちは……)
冒険者として、圧倒的に経験が不足している事を改めて痛感し、もっと精進しなければと思い知る。
だが今は、その頼りになる第一級冒険者が、仲間にいる事がとても心強かった。
「わ、わかった! すまない! 前に出るから援護を頼む!」
「うちに任せときぃ! 仮面のねぇやんに貰った強化で、絶好調なんや!」
ワイバーンと対峙して正面から向き合うと、あらためてその大きさに圧倒される。
翼と同化している前足を大きく広げたその大きさは、馬2頭を横に並べたよりも巨大だ。
ドラゴンのようなブレスによる攻撃は行ってこないはずだが、その膂力、素早さ、鱗の堅さなど普通の魔物とは一線を画す強さだ。
安易に突っ込んで斬りつけてもたいしたダメージは与えられないだろう。
まずは翼だけでもどうにかしたいところだが、今はプレッシャーを与え、ワイバーンが安易に飛び立てないようにしているのもあって、中々思うように踏み込めなかった。
しかし、オレが攻めあぐねている間、ワイバーンがじっと待っていてくれるわけもなく、突然身体をぐるりと回転させたかと思うと、巨大な尻尾を使って広範囲を薙ぎ払う攻撃を繰り出してきた。
「ちっ!? 思ったより攻めにくい……」
今のこのリミットブレイク状態ならば、奴の攻撃を喰らう気はまったくしないのだが、安易に正面から斬り込むと空に逃げられてしまいそうなため、思い切った攻撃に移れないでいた。
でも、今のオレには頼もしい仲間が二人もついている。
「仮面のにいやん! うちが隙を作るから、まずは翼や!」
「承知した! なら、こっちがあわせるからメイシーから仕掛けてくれ!」
メイシーのタイミングにいつでも合わせられるように、オレは腰だめに魔法剣を構えると、もう一度魔力を込め直してその時を待つ。
『ワイバーンが飛ぼうとするのは何とかするから心配しないで! ボクが妨害して時間を稼ぐから!』
仮面越しに、ユイナに「頼りにしている」と伝えると、オレはワイバーンへの牽制をユイナに任せて次の一撃に集中していく。
すると、その次の瞬間にはユイナがワイバーンに光の矢を放って、空への逃げ道を塞いでくれていた。
「準備良いみたいやな! ほな行くで~!!」
メイシーは魔球の秘められた能力でも使ったのか、薄っすらと光を帯びた鉄球が恐ろしい速度で撃ちだされ、次の瞬間にはワイバーンの胸に叩き込まれていた。
オレも勿論ずっとその光景を見ていたわけではない。
魔球が撃ちだされたのと同時に既に駆け出しており、ワイバーンの前方に躍り出ていた。
いかに高い防御力を誇るワイバーンと言えど、これほどの魔球の一撃を受けて平気な訳もなく、完全にその動きが止まっている。
「さすがだ!」
オレはメイシーを称賛しつつ、右の翼の前に深く踏み込むと、天へと大きく飛び上がり、そのまま翼を斬り上げた。
翼を切断され、声にならない絶叫をあげるワイバーン。
だが、翼を斬り裂かれた痛みよりオレへの執念が勝るのか、剣を振り抜いた体勢で宙を舞うオレに、怒りの視線を向けてきた。
『任せて!!』
「大丈夫や!」
二人の声が重なった瞬間、返ってきた魔球がワイバーンの後頭部を襲い、光の矢が頭上から頭を撃ち抜いた。
「助かった!」
しかし、ここで攻撃の手を緩めるのは勿体無い、せっかくのチャンスだ。
オレは着地と同時に、痛みでふらつくワイバーンの死角をついて後ろに回り込むと、ちらりと2人に視線を送る。
その動きを読んでくれた二人が、魔球で執拗に頭部を責め、光の矢を降らせて固い鱗を剥がし、注意をそらしてくれた。
「一つだけあっても仕方ないだろ?」
そうして出来た大きな隙に、今度は後方から飛び上がると、落下に合わせて上段から魔法剣を振り下ろした。
絶叫するワイバーンの尾が飛んでくるが、着地と同時に一旦距離をとってやり過ごすと、ちょうど斬り落とされた両の翼が靄となって消えていった。
「よっしゃぁ! このまま押し切るで!」
そこからはもう一方的な展開だった。
魔球によって大きくダメージを与えて動きを止め、光の矢が守りの要である鱗を削り落とし、オレが鱗の削れた所を狙って斬り刻んでいく。
その猛攻に、ワイバーンは見る間にその身をボロボロにしていき……、
「はぁぁ!」
裂帛の気合いと共に振り下ろしたオレの剣が、その首を断ち切った。
そして、一瞬の静寂の後、ワイバーンの巨体が地面を揺らして倒れ込むと、輪郭がぼやけ、巨大な靄となって消え去ったのだった。
「良し!!」
オレは、思わず拳を握りしめて叫んでいた。
「やったな! おっ? せっかくやからお小遣いもゲットやで!」
振り向くと、巨大な瘴気核を拾ってイシシと笑うメイシーがオレに向けてウインクを飛ばしてきた。
「はは、ちゃっかりしてるな」
オレは良い意味でその冒険者らしい行動に感心し、メイシーの方に歩ていく。
「当たり前やん! せっかく頑張って高ランクの魔物を倒したんやから、瘴気核ぐらい貰っとかんと。それが冒険者っちゅうもんやろ?」
「そうだな。しかし、ここからが本番だ……」
見上げれば、もう魔物の軍勢が街にたどり着きそうな所まで迫っていた。
『トリスくん、お疲れ様! でも、魔物が街に着いちゃうよ!? どうしよう!?』
ミミルの手を握ってこっちに向かっているユイナの姿が見えたが、まだ少し距離があるので、仮面を通じて話しかけてきた。
オレは「わかっている」とユイナに小声で伝えたあと、今度はメイシーにも届く声で、
「悪いがオレは先行する! 今のオレなら間に合うかもしれない! 二人はミミルの安全を確保しつつ、後から向かってくれ!」
そう言って、返事も待たずに駆けだしたのだった。
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