【第65話:後悔するから】

「さぁ、ここからはオレたちのターンだ!!」


『うわっ!? トリ……1号に先に言われたぁ!?』


 思わず気の緩みそうなやり取りをしていると、初めてダメージらしいダメージを喰らって激昂したユウマが、光の矢の雨を強引に抜けて飛び出してきた。


 奇声を発して襲い掛かってくるユウマの骨の杖を受け流すと、袈裟切りを放って首を斬り裂き、その勢いを殺す。


 しかし、急所と思われる部分を狙ったというのに、僅かに皮膚を斬り裂いただけで、それも馬鹿げた速度の瘴気修復のせいで、数秒後には傷跡も残さず治っていた。


「それにしても、その回復力は反則だよな……」


 だが、今戦っているのはオレ一人じゃない。


「破壊力なら、うちに任せときぃ!」


 その言葉がオレに届いた時には既に、メイシーの魔球はユウマの顔にめり込んでいた。

 しかし、そこでその攻撃は止まらない。

 縦横無尽に魔球を操り、正面や左右はおろか、後ろや足元からも襲い掛かるその攻撃は、もしこれが自分が受けたらと少し冷たいものを感じるほどだ。


「ぐるぅああぁ!!」


 言葉にならない奇声を発し苦しむユウマ。

 さすがに魔族化した頑丈な体を以てしても、修復しきれないようで、その抵抗も徐々に弱まっていく。


『メイシーちゃん、すっごいなぁ~。一人で倒しちゃいそうな勢いだね』


 そんな事を言いながらも、ユイナも隙を見ては、光の矢を次々と撃ち込んでいる。

 正直、今、一番役に立っていないのはオレかもしれない。


 魔剣が手元に無い今のオレでは、まともにダメージを与えられない。

 だから二人の身を守るために、今は完全に盾役に徹する事にした。


「抜かせるか!!」


 ボロボロになりながらも魔球を寸前で躱したユウマが、距離を詰めようと踏み込んできた。

 だが、オレはすぐさま回り込んでゆく手を塞ぐ。


(今はダメージを与えるのではなく、抜かせない事に集中するんだ!)


 両手を顔の前で交差して飛び出してきたユウマだが、オレは当たるに任せて逆袈裟に思い切り斬り上げ、元居た位置まで強引に吹き飛ばした。


「ぐがぁ!」


 苛立たし気に咆哮をあげるユウマだったが、すぐさま魔球の猛攻に捕まり、防戦一方となる。

 そして、とうとう魔球の猛攻に耐え切れなくなった骨の杖が砕け散り、いよいよ防戦一方となった。


「仮面のにいやんがいてくれるから、楽やわぁ♪」


 鉄球を縦横無尽に操るメイシーだが、武器の特性上、やはり間合いを詰められるとその実力を発揮できなくなる。

 オレが前で盾役に徹する事で、理想的な戦いが出来ているようで、ご機嫌のようだ。


「今、愛剣が手元にないので、盾役ぐらいしか出来なくてな。そう言って貰えると助かるよ!」


 また、間合いを詰めようと踏み込んできたユウマだったが、さっきの焼き直しのようにもう一度逆袈裟に魔法剣を振り抜いて吹き飛ばす。


「しかし、せっかく話に伝え聞く魔族との戦いやのに、観客がミミルちゃんだけなのは、ちょっと勿体ないぐらいやけどなぁ!」


 魔球の全周囲攻撃に加え、その隙間を埋めるように放たれる光の矢。

 なんとかその攻撃を抜け出そうにも、オレが回り込んで移動を制限することで、ユウマの攻撃を完全に抑え込むことに成功していた。


 ようやく勝利への道筋が見えてきたようだ。


『今回は犠牲者なく、倒せそうだね……』


 前回は多くの犠牲者を出してしまったため、ユイナがホッと胸を撫でおろすように、そう呟いた。


 魔族の馬鹿げた回復力のせいで、倒すのにはまだもう少し時間がかかりそうだが、ここまで作戦がハマればユウマに抜け出す事はできないだろう。


「あぁ、このまま確実に仕留めるぞ! 油断はなしだ!」


「もちろんやで!」


『うん! ボクも油断しないから!』


 しかし、オレ達はわかっていなかった。

 あのヤシロが、意味もなく撤退するはずがないという事を……。


 ~


 魔族化したユウマとの戦闘が始まって、既に四半刻が過ぎようとしていた。

 ほぼ一方的に攻撃を続けているというのに、オレたちはまだユウマを倒し切れていなかった。

 前回、魔剣の導きに従って放った『落葉の舞い』が、どれだけ強力な攻撃だったかと言うのが今になってよくわかる。


 魔球による猛攻でボロボロにしても、煙のように瘴気がユウマを包み込み、修復を始めるため、中々決定打にならないのだ。


「さ、さすがに疲れてきたわ~……」


 圧倒的に押している状況なのだが、攻撃の負担がメイシーに集中しているため、彼女の息があがり始めている。

 途中でオレの第一位階魔法でも攻撃してみたが、やはり魔法への耐性がかなり高いようで、弱点の光属性以外、大したダメージは与えられないようだった。


 このままではジリ貧になる可能性がある。

 そう思った時だった。


「メイシーちゃん! 今からとっておきの強化魔法を掛けるけど、驚かないでね!」


 ユイナが叫ぶその言葉に、オレは思わず振り返ってしまう。


『わかってるよ。メイシーちゃんに正体ばれちゃうかもしれないけど、ここで出し惜しみして負けたり、逃げられたりしたらもっと後悔するから……』


 前に試してみた所、攻撃魔法などは問題ないのだが、継続的に効果を発する強化魔法などをかけると、仮面の認識阻害の効果が極端に下がってしまうのだ。

 強化魔法を受けると、ユイナ自身の魔力をその身に纏うことになるので、呪いの効果が薄れるのだろう。


 そして、それはユイナという少女自身の事だけでなく、使っている魔法が光属性だという事も認識されてしまうという事を意味していた。


「わかった。少ししか話せていないが、信用できる奴だと思う。頼む!」


 オレの小さな呟きが、仮面を通して伝わったようで、大きく頷くのが見えた。


「なんや、ようわからんけど、強化貰えるんやったら、助かるわ!」


 メイシーの了承を受けて、ユイナの魔力が爆発的に高まっていく。

 魔力だけは召喚者の中でも飛びぬけていたという言葉は嘘ではない。


「じゃぁ、いっちゃうよ! 驚かないでね! 『光輝燦爛こうきさんらん』!」


 攻撃に使っている光の矢『閃光』などとはまた違う、煌びやかで華やかな光が、光の花びらとなってメイシーに降り注いだ。


「な、な、なんやこれぇ!? す、凄い! いや、凄いなんてもんじゃないわ! ……って、え? これっ!? 光魔法やん!?」


 強化魔法のあまりの効果と、その魔法が光属性の魔法だと言うことに気付いて、がばっという音が聞こえそうなぐらい、目を見開いてユイナを振り返るメイシー。


「ちょ、ちょっとメイシーさん! 攻撃の手、緩めちゃダメです!!」


 驚きの余り、思わず攻撃を止めてしまいそうになったメイシーだったが、その言葉で慌てて攻撃を継続する。


「メイシー! 後でちゃんと説明するから、まずはその力で……」


 その力で「こいつを倒せ!」そう言おうとした時だった。


 突然、太陽の光が遮られ、空を闇が覆いつくした。

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