【第61話:召喚者】
爆発的に高まったその魔力を受け、すぐさま魔法剣を鞘からひき抜く。
まだそれなりに距離は離れているのだが、圧倒的な魔力がビリビリと伝わってきた。
「そっちはオレのこと知ってるみたいだが、出来ればこれから戦う相手の名前ぐらい知りたいんだがな?」
と言って、こちらも抑えていた力を解放する。
「へ~……これは予想の何倍も凄いね。僕の名前だったかな。僕の名前は『
「ははっ、固い事言うなよ。仮面の冒険者だってことは知っているだろ?」
「やっぱりズルいな~。仕方ないから力ずくで聞いちゃおうかな」
言葉は軽いが、ユウマと名乗ったその少年の目つきが鋭くなる。
「ユウマに出来るかな?」
「ふふふ。出来るさ」
そう言って笑みを浮かべるユウマの周りに、次々とこぶし大の炎が出現していく。
その数はほんのわずかな間に数えるのが馬鹿らしくなるほどに増え、
「無詠唱だけど、これ『炎華』って言って……第三位階魔法だから気を付けてね」
そう言った笑った瞬間、小さな炎の塊が次々と飛来してはじけ、全てを焼き尽くす炎の華が咲き乱れた。
「ぐっ!?」
オレは直撃だけは何とか避け、後ろに大きく跳躍すると、
「水よ!」
第一位階の水魔法を展開する。
「へっ? 基礎魔法とか馬鹿なの……?」
魔法の中でも基礎とされるような魔法を展開するオレを見て、馬鹿なのかと驚くユウマ。
普通に考えればその通りだろう。
ただ……魔法の阻害を受けつつも何度も繰り返した練度と、そこに込めた魔力の量が違う。
そして……オレの前に出現したのは、巨大な水の壁だった。
本来なら水筒一つ分程度の水を作り出すだけの魔法なのだが、まるで小さな滝のような水が、『炎華』が花開く前に蕾のまま消していく。
「……はっ? 嘘でしょ!? 僕の第三位階魔法を基礎魔法で相殺した!?」
驚くその姿はしてやったりだが、しかし……まだこれからだ。
貰ってばかりでは失礼だろう。
オレは水の壁で出来た死角をついて、一気にユウマの目の前に躍り出た。
「ちょっ!? はやっ!?」
オレは腰だめにした魔法剣を左から右へと振り抜いた。
「ほぅ……」
まずはユウマの持った杖を弾き飛ばすか、破壊出来ないかを狙ったのだが、まさか受け止められるとは思わなかった。
ユウマはオレの斬撃の衝撃に逆らわないように後ろに跳躍すると、牽制で炎の矢を続けざまに放ってきた。
左に踏み込み、屈み、斬り払って、炎を矢を散らすと、今度はこちらが牽制で左の手のひらを突き出し、
「風よ!」
突風を叩き込んでユウマの体勢を崩し、袈裟斬りから剣を返して斬り払う。
さらにそこから、剣をひいて腰だめにすると、連続で突きを放った。
しかしユウマは、驚く事にその全ての突きを、手に持つ長杖で防いでみせた。
「規格外にも程があるだろ!? ほんとに現地人かよ!?」
「くっ!? そっちこそ、接近戦でも愚痴をこぼす余裕があるとはな」
何せ今のオレは、ブースト状態にあるのだ。
自分で言うのも何だが、とてつもない速さで、しかも不意をついて攻撃を仕掛けたにもかかわらず防ぎきられた事に、内心で驚愕していた。
(こいつ、サイゴウとは次元の違う強さだぞ……)
オレもまずは殺すつもりではなく、何とか無力化して拘束できないかと手探りではあったが、それでも完全に予想を上回るその強さに、気を引き締める。
「ふぅ……本当にこれは想定外だな。まさかオレたち召喚者以外にここまでの規格外が存在するなんてね。でも、まだそれでは僕には届かないよ」
ユウマがそう呟いた瞬間、纏う何かの本質が変わった。
今までが純粋な魔力を纏っていたのに対して、禍々しい何かが混じりだしたのだ。
そして、その纏う魔力の桁が跳ね上がった。
「じゃぁ、ここからは僕のターンだ。……貫け」
次の瞬間、ユウマが今までとは次元の違う速さで魔法を展開する。
漆黒の矢が……いや、漆黒の槍が無数に現れたかと思うと、今のオレでも捉えるのがやっとの速度で次々に放たれた。
「くっ!?」
オレはその場で留まっていては避けきれないと判断し、地面を爆散させる勢いで踏み込み、右手に駆け出した。
(召喚者と言うのはこれ程なのか!?)
オレの目から見ればユイナは十分すぎるほど優秀だ。
そのユイナが落ちこぼれと言われ追放されたという、その理由が少しわかった気がした。
風と一体となって駆け抜けるオレのすぐ後ろを、横を、無数の漆黒の槍が通り過ぎていく。
今のところは何とか避けれているが、長くは持たないかもしれない。
しかも恐ろしいことに、地面に刺さった漆黒の槍は、その瞬間、まるで仮初の命でも与えられたかのようにうねり、まるで大蛇のようにその身をくねらせ、更に地面奥深くへと進んでいく。
「っ!?」
その不気味な光景に一瞬息を呑むが、今はとにかく避けて避けて避けまくるしかない。
とてもではないが、今のオレにもここから近づいて反撃に出る余裕はなかった。
「これを避けるのか……このまま放置するには危険すぎるね」
ユウマが使っているのは、間違いなく闇魔法だろう。
つまり既に魔族化が始まっているという事だ。
しかし、サイゴウの時のように理性を失っているわけでもなければ、その姿に変化も現れていない。
(という事は、もしユウマが完全に魔族化したら……)
その恐ろしい思考を遮るように、ユウマが叫んだ。
「いい加減、諦めろ!!」
両手を天に突き上げ、その手を握り締めると、宙に浮かんでいた全ての漆黒の槍が、まるで身震いをするように蠢いた。
「点は避けれても、面は避けられないだろ! 死ね!」
ユウマが手を振り下ろした瞬間、数えるのも馬鹿らしい数の漆黒の槍が、一斉に放たれたのだった。
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