【第60話:魔改造】
『と、トリスくん! 聞こえる!?』
聞こえて来たユイナの声に戸惑い、辺りを見渡すが、どこにもその姿も気配もない。
『ねぇ! トリスくん! 聞こえていたら返事して!』
オレはわけがわからないながらも、間違えようのないそのユイナの声に、言葉を返した。
「あ、あぁ、ユイナ、聞こえるている! しかし、これはいったい……いや、それよりも無事なのか!?」
『通じた! 良かったぁ……まだテストしてなかったし、仮面外してたらって不安だったんだ~。あっ、今のところ何とかボクもミミルちゃんも無事だよ!』
「そうか! 良かった……無事なんだな。怪我とかしてないか? ……しかし、これはいったい?」
『あぁ~これはね、トリスくんの仮面を魔改造……げふんげふん……じゃなくて、改良してちょっと効果を追加しておいたの! それからボクもミミルちゃんも怪我とかしてないから』
なんか「魔改造」とか変な言葉が聞こえた気がしたんだが……。
しかし、怪我をしていなくて良かった。
「そういえば、最近よく部屋に戻っていろいろ合成試してるって言ってたな……他に変なことしてないだろうな?」
『……い、いやだなぁ。ボク、へ、変な事なんてしてないよ? はははは……まぁとにかく、ボクとトリスくんの仮面に通信機能を組み込んだから、こうやって話が出来てるってわけ!』
その返事までの間はなんだと突っ込みたい所だが、それより状況を確認するのが先だ。
「なんか誤魔化された気がするが、それより二人が無事で本当に良かった。それで、今はどこにいるんだ? それから襲ってきたのは……奴らか?」
『ん~。それがね。ソラルの街の入口に先回りされちゃって、まだ街の外にいるんだ。今は習ったばかりの土魔法で、畑の外れに穴を掘って身を潜めてる感じ。それと……襲ってきたのはトリスくんの想像通り、かな……』
やはり襲ってきたのは、ユイナと同じく異世界から呼び出された召喚者のようだ。
しかし、そうなると危険度が段違いだ。
「そうか。それなら、今からすぐに向かう。何かあればすぐにこれで連絡はとれるのか? あっ、それと、これはオレから連絡する事も出来るのか?」
オレはユイナから今潜んでいる場所を詳しく聞き出すと、仮面に付与されているという効果を使って、オレの方からも連絡を取る事が出来るか確認する。
『トリスくんからも使えるよ。あのね……』
説明を聞いてみると、仮面の横にある小さな突起のようなモノを魔力を込めながら押し込む事で、対になっている仮面に声が伝わるという事だった。
「いつの間にこんなものを……しかし、この機能を仮面とは別の魔道具にする事は出来なかったのか……」
連絡を取るのにいちいち仮面を付けないといけないのは、正直面倒だと思って聞いてみたのだが、
『それがね。この遠隔通話の効果をつけるのには、この仮面にも使ってる特殊な魔法金属が必要なんだ。でも、この仮面に使っている魔法金属って、こっちでは中々手に入らないから』
という事だった。
そういう理由なら仕方ないので、一度話を終わらせて街の外に急ぐことにする。
「それなら仕方ないか。とりあえず、今からすぐに向かうが、相手が相手だ。油断するなよ!」
オレは通信を終えると、二人が無事だったことに胸をホッと撫でおろし、大きく息を吐きだした。
しかし、その時だった。
何か周りからの視線を感じ、ブーストしてあがった能力を活用して聞き耳を立てる。
「お母さん! あの人、変な仮面つけて一人でぶつぶつ喋ってるよ?」
「ダメ! 見てはいけません! ああいう人には、近づいちゃいけませんよ?」
オレはブーストであがった能力を活用した事を後悔しつつ、そっとその場を後にしたのだった……。
~
このソラルの街には南北に街の外へと続く門があるのだが、ユイナは今街の南側にいるという事だったので、オレは南門に向かっていた。
そして、門がちょうど見えた時だった。
見知った顔を見つけて、あわてて声をかけた。
「シーラ!」
偶然、『赤い牙』のメンバーである魔法使いの少女シーラを見つけたのだ。
「あ、仮面の冒険者さん? 慌ててどうしたんですか? 私の方は聞いてきましたけど、有力な情報は何も……」
シーラは確か南門の門番に話を聞きに行ってくれていたはずなので、その事を報告してくれたのだろう。
「ありがとう。しかし、大丈夫だ。二人の場所がわかったんだ。それで、ちょっと伝言を頼まれてくれないか? 何と言ったら良いのか、ある方法で探していた二人と連絡が取れて無事が確認できたんだが、ちょっとギルドに戻ってミシェルや他の皆にも伝えてくれないか」
オレがそう伝えると、シーラは喜びの笑みを浮かべて、
「わぁ~良かったですね! わかりました。皆にもすぐに伝えてきます!」
と、一緒に喜んでくれた。
「それと悪いんだが、もしメイシーと連絡が取れたら、念のために南門の辺りに待機して貰えないか頼んでみてくれ」
今回は相手が相手だ。
戦闘になった際に、最悪街に何か被害が及ぶ可能性がある。
その時、近くで第一級冒険者であるメイシーが待機していてくれれば、かなり心強い。
その辺りの懸念を掻い摘んでシーラに伝える。
「そ、そんな凄い相手なんですね……わかりました! このシーラ命にかえてもメイシーさんに伝えてみせます!」
「あっ、いや、そこまで気負わないでも……。あくまで念のためだから、シーラの命の方を大事にしてくれ」
なんか変な方向に燃えてるシーラをなだめて、オレはそのままシーラとわかれた。
「しかし、門に先回りされたと言っていたから、本当に戦闘になるかもしれないな……」
オレは腰に手をやり、そこにいつもの
~
ブーストで高まった五感を使い、辺りの気配を探りながら街道を進む。
行き交う者の姿は少なく、見かける姿は皆農作業をする者だけだったのだが、暫く歩いた所で街道の脇の岩に腰かけるある者の姿に目が止まる。
その姿は一見すると、オレより少し年下の少年に見えるが、明らかに何かがおかしい。
(なんだ……この少年の実力がまったく掴めないぞ……)
しかし、下手に立ち止まるのも相手に不信感を抱かせるため、オレはあえて気付かないふりをして、そのままやり過ごせないか試してみる事にした。
まずは、ユイナとミミルの二人と合流する事が大事だからだ。
だが、そんなオレの心を知ってか知らずか、その少年は気さくに声を掛けてきた。
「そこの仮面のお兄さ~ん♪ 今日は良い天気だね~」
「あ、あぁ、そうだな。気候も良いし、気持ちいい日だ」
雲一つない快晴で気持ちの良い天気なのは本当だが、あまりに自然に話しかけてきたことに、内心一瞬動揺してしまう。
「ほんと気持ちの良い日だよね~♪ でも……こんな気持ちの良い日に、お兄さんみたいな
まだその少年は動きを見せていないが、明らかに気配が変わった事に、オレは一気に警戒レベルを数段階ひきあげる。
「なんだ? オレの事を知っているのか?」
「まぁね~。だって、お兄さんってこの国で新たに英雄として正式に認められた『仮面の冒険者』さんでしょ? 噂で持ち切りだし、知らない人の方が少ないんじゃない?」
「そうなのか? 意外と本人は、そう言うのわからないものなんだよ」
とりあえずそう言って適当に言葉を返しながらも、いつでも動けるように臨戦態勢に移行する。
「そんなものなんだね。じゃぁ、そういう事で……」
そこで言葉を切って岩からトンっと飛び降りると、
「始めようか」
そう言って、あのサイゴウを上回る魔力を解き放ったのだった。
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