【第18話:命に代えても】
「サギリス様! こちらの準備は整いました! あとは衛兵と冒険者たちの準備が整い次第出発する事になりそうです!」
若い騎士が壮年の騎士に駆け寄ると、大きな声で報告をあげた。
壮年の騎士は青の騎士団団長のサギリス様だ。
オレと比べてもそこまで体は大きくないはずなのだが、威風堂々とした佇まいが、より大きく見せているのかもしれない。
「わかった。お前たちも出発に備えておけ」
その言葉を受けると、若い騎士は一言「はっ!」と返し、一礼して去っていく。
「それで……トリス坊。久しいな」
「ぅ、お久しぶりです。その、トリス坊ってのはやめて欲しいのですが……」
小さい時から知られているというのは、中々やりづらいものがある。
「ははっ、成人して少しは生意気に言うようになったか? 何て呼ぶかは考えておいてやる。それで、そっちの娘が……トリス坊のパーティーメンバーか」
一瞬ぐらいは考えたのかもしれないが、サギリス様呼び方変える気ないな……。
オレの抗議の視線を無視して、後ろに立っているユイナに向けてそう尋ねたのだが、こっそりオレに近づくと「可愛い娘ではないか。姫様は知っているのか?」と耳打ちしてきた……。
「はい!! ユイナと言います!!」
緊張しているユイナには気付かれなかったようだが、誤解を生むような発言は控えて欲しい……。
オレは更にじっとりとした視線を送って無言の抗議をするのだが、サギリス様はまったく気にした様子もない。
しかし、ふざけた様子を霧散させると、
「今回の討伐はかなり厳しいものとなる事が予想される。トリス坊には悪いが、姫様の護衛、命がけで行うように」
真剣な声音で命じてきた。
「はい! スノア様は命に代えてもお守りします!」
オレも気持ちを引き締め、真剣な眼差しでそう返すと、少し満足したような表情を見せて一度だけ頷く。
「その意気や良し! お前たちは姫様の馬車に乗って貰う事になっている。準備が済んでいるのなら、もう乗り込んでおけ」
普通の冒険者ならありえない事なのだが、青の騎士団の者は顔見知りも多く、その事に疑問を持つ者もいないようだ。
それでいいのか近衛騎士と問いただしたい所だが、今更いってもはじまらないので、黙ってユイナを連れて馬車の元に向かうのだった。
~
他の馬車と比べて、一台だけ明らかに造りの良い馬車が停まっていた。
ひときわ豪奢なその馬車は、オレも何度か乗せてもらったことのあるスノア様専用の魔導馬車だ。
ただ、施された装飾に華美なものは無く、どちらかと言うとその質の良さが『青の聖女』の二つ名にふさわしい上品な雰囲気を醸し出していた。
「お。トリスじゃないか! 久しぶりだな!」
声を掛けてきたのは、オレも良く知る騎士『ロイス』だった。
確かオレより5つぐらい年上のはずなので今は20歳ぐらいのはずだが、いかにも優男といったその容姿のせいで、オレとそう歳が変わらないように見える。
しかし、こう見えてロイスさんは青の騎士団の中でも、団長、副団長につぐ剣の腕を持っている猛者だ。
だからこそ、スノア様の馬車を間近でお守りする任を受けているのだろう。
「ロイスさん、お久しぶりです!」
「ちょっと見ない間に大きくなったな。しかし……相変わらず姫様に贔屓されてるよな~。ちょっとやけるぞ?」
「いや、別に贔屓されているわけでは……」
「ははは。半分冗談だ。気にするな」
「なんで、半分本気なんですか……」
ロイスさんはその軽そうな見た目や言動と違って、スノア様に生涯の忠誠を誓っている近衛騎士の鏡のような人だ。
その半分の本気はちょっとシャレにならないので、しっかり否定しておきたい……。
「今回はたまたま家で緊急依頼の話を聞いていて、その場にスノア様がいたから……。だからスノア様が気を利かせて、こういう事になっただけかと。それにオレはもうただの冒険者です。そうそうもう関わる事は無いですよ」
そう言ってみたのだが、全く取り合って貰えなかった……。
「あぁ無理無理。姫様がトリスに関わらないわけがないしな。……それで、後ろの子がお前のパーティーメンバーのユイナって子か?」
そう言って、オレの後ろでもじもじしているユイナの事を聞いてきた。
オレは「そうです」と言って、ユイナに視線を送って返事を促す。
「は、はい! ユイナと言います。その、近接戦闘はさっぱりですが、魔法で何とか援護させて頂きます!」
「はは。それじゃぁ、援護は任せたぞ?」
大きな声で「はい!!」と返事をし、深々と直角に頭をさげたのだが、
「よろしくお願いしましゅ!」
最後に噛んで、耳を真っ赤にしていた。
頭をさげたまま、ぷるぷるしてるのでそっとしておいてやろう……。
その様子を見て苦笑いしているロイスさんに、オレは首をふってこたえてから、
「あぁ、それでロイスさん。オレたちもうスノア様の馬車に乗るように言われたんだけど、もう乗って大丈夫ですか?」
サギリス様に言われた事を伝え、もう馬車に乗るのかと尋ねる。
「あぁ、そうだな。部隊の準備も終わりそうだし、もう乗って貰う事になるはずだ。少しここで待っててくれ。念のために確認してくる」
そう言って馬車の扉の前まで移動すると、何か話をしてから戻ってきた。
「もう乗ってくれってさ。あと……リズもいるから気を付けてな」
そして
「う!? わ、わかりました」
復帰したユイナが、オレの態度がおかしい事に気付いて尋ねてくる。
「トリスくん? どうしたの? 今ロイスさんが言ってたリズって人がどうかしたの?」
ぷるぷる震えてたのに、ちゃんと聞いてたのかと失礼な事を少し考えながらも、オレは話しておいた方がいいかと口を開く。
「どうかしたかと言うと、どうかしてるな」
もちろん、そう言われても良くわからないので、ユイナは顎に手を当ててどういう意味なのかと続きを待つ。
「なに、簡単な話だ。オレがリズに徹底的に嫌われているだけだ」
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