人は皆神の子なのです。





「怖いか、楓。」

震える子供に向かってセレーネは言った。

「いえ、そんなことはありません!大丈夫です!」

楓、と呼ばれた子供は、笑顔で言った。だが、セレーネにはわかっていた。楓が死ぬのを怖がっている事実を。そりゃあ当然だろう。誰だって死ぬのは怖い。

だが、仕方がないのだ。

この国では雨乞いをするために、子供を生贄として捧がなければならない。そうすることで初めて、続いていた異常気象が元に戻る。

随分と昔風のやり方だが、やはり最後にはいるとも知れない神に祈る他ないのだ。ルエたちのような天使が奴隷として実在するのだから、きっと神もいるはずだ。「楓、お前には、夢があるか。」

突然のセレーネの発言に、楓は目を丸くする。そして、しどろもどろ、答えた。「僕の夢は、小説家です。」

子供にしては、随分と大人びた夢だ。

「どうして小説家なんだ?」

セレーネは更に聞いた。

「たくさんの人を、笑顔にできるからです。どんなに辛くても、小説の力が人を元気にしてくれる。人を、喜ばせたいんです。」

なるほど、楓らしい夢だ。セレーネは楓の言葉を聞いて胸が痛くなった。

「嫌なら、逃げてもいいんだぞ。」

小さな声で、セレーネは言った。

「え?」

楓は驚く。

「どうしてそんなこと言うんです?」

セレーネは答える。

「俺も同じだからだ。」

その一言には、暖かさがあった。

「逃げても大丈夫かなぁ...。」

ぽつりと楓が言う。

「大丈夫だ。皆お前の顔なんて知らない。追いかけて来れないさ。」

セレーネは力強く言った。

「何なら、俺のとこで暮らすか?従者として。飯と部屋は確約で用意するぞ?」

セレー ネは笑う。

「で、でも迷惑かけちゃうし...。」

一方の楓は俯いてしまう。

「何より異常気象が直らない。僕が生贄になるしかないんです。」

楓は本当に小さい時からそうだ。ものわかりが良すぎるが故に、一人で何でも背負い込む。まだ十にも満たないというのに、大人びた雰囲気を醸し出している。そんな楓の子供らしいところなど、ないのだ。

「生贄?馬鹿げていますね。一体誰がそんなものを喜ぶと言ったんですかっ。これだから異常気象が直らないのです。今まで何人の命を犠牲にしたことか。」

ため息を吐いて出てきたのは、紛うことなきルエだった。

「生贄を捧げたところで、喜ぶのはせいぜい悪魔くらいなものです!純真無垢な子供を死なせ、何が雨乞いですか!」

ルエはしゃきしゃきと語る。

「人間は皆神の子です。勝手に命を捨てるのは、私たち天使と神が許しません!ということで、楓くん、よろしくね。」

ルエは優しく笑う。その笑顔は、とても眩しかった。























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